三十文字くらいにまとめて さーしーえー
(つд⊂)セツメイカイ
コワイヨー!!
「……お父様」
「なんだ? イニィよ」
「……お父様は今から、例のダンジョンの進捗を報告されにいくのですよね?」
「うむ、そうだ。王はこの手の報告を、直接、言葉でお聞きになるのが好きだ」
「その……何故、私も登城する必要があるのでしょうか」
「どうしたのだ、突然」
「いえ……その、言いたくはありませんが、私はこの顔です。この大杖と合わせ、あまり周囲の皆の印象は良くありません……そのような私が共に居れば、お父様と王に、ご迷惑となるのではないかと……」
「ふ……懐かしい事を言う。イニィよ、前にも言った通り、お前が笑っても怒っても悲しんでも、生まれ持った顔は変わらん。騎士として、強く楽しく、好きに生きればよい」
「それは……その、今では、よく理解しているつもりです。ですが……」
「うむ、なんだ?」
「お父様は、私を必要以上に、王に会わせたがっているような、そんな気がするのです」
「……ふ、立派な娘を自慢したいのだよ」
「立派などと……! それに、王も王です」
「……なんだイニィよ。王が嫌いか」
「そっ、そうではありません! ただ、私が共に行くと、必ず王との会食になるではありませんか!」
「王といつも食事を共にするなど、光栄ではないか」
「そういう事を言っているのではありません! むしろ、あの方はもっと食事量を制限するべきです!」
「はっはっは! 今宵、直接、王に言ってみるがよい!」
「私は打ち首になってしまいます! そ、そうではなくて……王との会食など、本来、前もってお伺いを立てるべきものでしょう! なのに、あの方はいつも、途中で執務をぶん投げてまで、会食に持ち込んでいるような気がいたします!」
「イニィ、そなた王に好かれておるな!」
「お、お戯れを……お父様もお父様です。礼節に厳しいお父様が、何故か王の前でだけは、その、無礼講が過ぎるというか……」
「……よい。堅苦しいのは、あの方は好まん……ありのまま、素直なそなたを見せてやればよい」
「ありのまま、素直に……」
「ああ……」
「……今回は、いつもの菓子の土産をお断りしてよろしいでしょうか?」
「……それは貰っておくがよい」
「は、はぁ……。それと、これもあまり言いたくはないのですが……」
「なんだ? よい、述べてみよ」
「は、はい……。たまにお見かけする、ガーベッジ王子の目線が、その……」
「! ……目線が?」
「……とても、こわいのです」
「こわい? む……まさかとは思うが、嫌悪されているというのか?」
「! 違うのです……あの流路は……まるで、逆なような……」
「……逆?」
「あれは、そう、似ている流路は……"羨望"のような……」
「……」
「……申し訳ありません。一国の王子を、このように言うなどと……」
「……よい。……イニィよ、王子の事だが……」
「は、はい」
「……なんでもよい。これからも、些細な事でも気づいた事があれば、私に教えてくれぬか」
「? 王子の事をですか……?」
「うむ。……正直に言おう。私は王子よりも、そなたが大切だ」
「お、お父様……!」
「よいな。不敬なことでもよい。必ず、私に教えるのだぞ──────……」
「────……」
過去に感じた、
優しさに溢れた、
いくつかの違和感。
それらが、目の前の罪人によって、
点から、線へとなっていく。
「……イデカ王が……私の……父……」
少し離れた所にいる、
変わり果てた、"育ての父"を、感じ取る。
木の肌となった皺だらけの顔は、
さらに苦渋の表情が浮かんでいる。
今の話を、このバカから、
されたくなかったのだろう……。
「あのさァ、"元"王な? 今は僕……"ガーベッジ・レエンコオト"がこの世の王さあァ!!」
「…………」
「……あれ? 反応薄いな……ここはもっと、"そ、そんなハズは有りませんっ!!"とか、取り乱す所だろう……? シラケるなぁ……」
《共感者》と呼ばれていた私は、
流路のゆらめきで、相手が真実と嘘、
どちらを言っているかなど、見ればわかる。
この、何も無い瞳でも、見えるものがある。
よく、気味悪がられたものだ。
「……私の本当の母は……イチサ王妃なのですね……」
「! うん! 君を産んで死んだけどね」
「──ッ……」
歯に衣きせぬ愚直に、
騎士の娘としての流路が、怒りを覚える。
あの心優しき王から、
なぜこのようなクズが生まれるのか!
……かつて、会食の際に体重で椅子を潰したり、
スープをスプーンを使わずに飲んだり、
笑顔で、お菓子を必ず手渡ししてきたりと、
……王との思い出が、懐かしい……。
そうか……
私は、あなたの娘だったのですね──。
「デブはね? 嫁さんがおっ死んだ後、どうしても君を殺せなかったんだ。"神憑き"である君を、ゼロンツって剣バカと、ニオスっていうだんまり魔術師に託して、生かす事を選んだ」
「──!」
「そ。そこの木クズと、後ろのボロマントの一部だ。お礼でも言ったら? ニオスには通じるか知らんけど」
…………。
……こいつが、私の腹違いの弟?
人を、人と思っていない、こんな奴が……!
杖に力を込めるが、
やはり、時限結晶の力が引き出せない。
まるで、どこかに力が、
流れ出てしまっているような。
「……先ほど、"くろいかみさま"と言いましたね……それに私は、取り憑かれているのですか……?」
なんとか……付け入る隙を……。
「──くくっ、そぅさあ。この城の文献は、全て目を通したんだよ! いやぁー! 前に裏書庫を管理してたのが、なかなか美人な行き遅れの女でねェ? 僕の美貌でメロメロさぁ……年下の王子って、そそるだろぅ?」
…………。
「……先ほどのお伽話は」
「あ、よいアレンジだろう? ほっこりできたかぃ? 僕には絵本を書く才能があるかもしれないなァ?」
……このような害虫が道徳を説いたら、
あっという間にこの世が掃き溜めになるわね。
「この城の真下に、"くろいかみ"と呼ばれた何かが、封じられている。それを、十四本の十字架と、お城の重量で抑えているんだ! 不完全だけどね! くかっ、そりゃそうだ! 封印が、"重し"だよりなんてね! 重し、だよ!? けけ! くけけけ! 笑っちゃうよね!?」
「──っ! "十字架"……?」
……最初は十五本あり……
一本、壊れて十四本になった……。
「あ──やっと気づいた? おっせえなぁ」
「私の、杖は──……」
「十字架は、"テンカンロ"と呼ばれていた。本からは、これだけしかわからなかったよ。君の杖は、十五本あるうちのひとつ。さいしょに壊れた"テンカンロ"を、杖に改修したものだ」
「……──!」
「わかるかい? "くろいかみさま"の力は、常に、この都に漏れだしている。いつ、君の中で暴走するかもしれない。デブは君に、こいつらみたいな怪物になって欲しくなかった。でも殺せなかった。だから、杖を作ったんだよ」
「──ッッ! い、今ッッ!!」
「あ?」
こいつ、今ッ!!
さらりと、重要なことを────!!
「"くろいかみ"の力はッッ……人を、怪物に変えるのですかッッ────!?」
「…………」
キョトンとした顔だけを見れば、
こいつは、マトモに見える。
宝石で穴だらけの体と、
腐った心で、動いてなければ。
「……ははっ、か、くかかかかか…………!!」
「──何がおかしいッッ────!!?」
「くか、くかかかかかかか────……!! そうだよ!! そういう、感情的なのがいいなぁ! いいよ、お姉ちゃん、けっこう僕のタイプだ!」
「戯けるなっ! 言えっ! この都の怪物化の病は、その"くろいかみ"が原因なのですかッ!?」
「──そだよ?」
「おまえ……なんで、そんな……今までは、こんなことは、なかったのに……」
この都が出来てから、かなりの時が過ぎている。
あのお伽話の時から、この城はあるのだろう。
私のように、穢れた存在が処分されたことは、
あるかもしれない。
だがっ! 今のように、
街中に怪物が溢れるような事態は、なかったはずだ!
「──そりゃあそうさぁ。だって────……」
愚王は、両手を広げ、屈んでこちらを見──……
「僕が、あの十字架、全部、ひっくりかえしたもの」
さも、当然のように、言った。
アンティはよ! アンティはよ!
o(゜д゜o≡o゜д゜)o










