王と騎士たち
ぶぉォン────!!
「──ッ!!」
"玉座"の後ろから、何かが、飛んでくる!?
大きい! イ、イニィさん! 危ないっ!!
『────……』
スッ───……
「あっ!」
イニィさんの身体が、
立ち姿のまま、横にずれた……!?
ど、どうなってんの、今の!
地面を滑ったみたい──!
濃い紫の髪だけが揺らめいて、
彼女が、"攻撃を避けた"ことを、実感させてくれる!
────ゴシャオぉぅううん!!!
床に落ちたそれは、
どうやら……"巨大な盾"だった。
バカ王様の方を見ると、
後ろにあった、鉱物のような大きなカタマリが動く。
立ち上がり、手が生え……、
それが、"騎士"みたいなモノであるとわかった。
なに……なんなの、あれ……
……"タートル"……?
『ヴヴヴヴるるる……』
唸り声をあげる、異形の、騎士のような、もの。
それを王は、片手を上げて、制す。
いつの間にか、すぐ側の派手な椅子に、
腰掛けていた──。
『……ほほぉ──……なァんだ、その目でも見えるのかぁ……それとも、音とかかな? 』
王が、敵だということを忘れるような声で、
殺しかけた相手に、話す。
『……私と他の方の、見る色は、違うのかもしれませんが、私にも、"色"を見ることはできます……』
『ふぅん。よくわからないけど、そのラクガキは、新しい"感覚器官"なんだね?』
あいつ、またあの目の事を、"ラクガキ"なんて……!
腹立つヤツだなぁ!
『ふふふっ、まぁ、安心したよ。君が目が見えないと、僕も困るから……』
『……?』
えと……
……どういう意味、だ?
『……それよりも、あなた……その"騎士モドキ"を、どうやって操っているのですか……。いえ、それよりも、"それ自体"を、一体どうやって……』
『あれ? 君、《共感者》なのにわかんないの? 意外だなぁ……やってる事は、君と同じだよ?』
え?
──"同じ"?
『──!! まさか、そんな……!』
『そ! "流路"への介入と、操作だよ〜〜』
王は座りながら足を組み、
おちゃらけた様子で、手を振りながら答えた。
『そんな……あなたも、この忌まわしきチカラを持っているの……』
『ぶはっ! 忌まわしきとか、自分で言うんだね! ……違うよ! 僕のは生まれつきじゃない。自分で手に入れたんだ』
『な……?』
『ほら! ほら! そんなことより、もっと君の強さを見せてよっ──! 』
────ヴオオオオッ──……!!!
────グググググッ──……!!!
『──ッ! くッ!』
大きな甲羅がある騎士と、
大きな角が生えた騎士!
二つの巨体がッ、イニィさんに襲いかかるっ!
──ぐぐぐぐぐっッ──……
─────どぉおおおおおおおおおおんんんん!!!!
「うわっ!!」
すごい振動と音に、びっくりする!
これ、過去の記憶なのに、揺れまであんの!!
───ぐぐぐぐぐっッ──……
『──ち』
─────どぉおおおおおおおおおおんんんん!!!!
ひ、ひぇえぇえぇ〜〜……!
さっきから、角の生えた"騎士モドキ"は、
殴ってる、だけだ!
殴ってる、だけだけど、こわいぃいぃい〜〜!!!
ヒゲイドさんと同じくらいの背だけど、
こいつら、横幅があるわ……!
太っちょじゃなくて、筋肉で!!
それが、腕を振り上げたと思ったら、
力を溜めて……
肉が膨れ上がって……
狙って……
『──くっ』
─────どぉおおおおおおおおおおんんんん!!!!
た、確かに、避けるのはできるっ!
動き自体は、そんなに速くないわっ!
でも、当たった床が、ヤバイ。
ここ、底抜けるわよ……?
攻撃のゆっくりさとは逆に、
当たった時の事を考えてしまうと、
恐ろしいわね……。
グッヴヴヴアアア───!!!
────ドポンッ、ドポンッッ!!
甲羅の騎士が、くちからか何か吐いた!
でもそんな所にもう、イニィさんはいないわ!
……だいじょうぶ。
この騎士たちに、イニィさんは倒せない!
戦いのレベルが違うって、回避だけを見ても、
実感できるわ!
───タタタ……カンッ!
少し離れた所でイニィさんは止まり、
十字の杖を、真っ直ぐ地面に立てる!
その瞬間────……!
──ヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉ!!
────ヴゥン!!
イニィさんの周りに、
幾つもの"時空の玉"が形成される!
で、でた!
あ、あれをやるの……!?
───キュオン、タァん!
身をひるがえしたイニィさんは、
まるで、斬りかかるように──……!
────ブゥオンんッ!!
時空の玉を、杖でぶん殴る!
な、滑らかな動きだわっ!
────キュキュ……ドォォオオオオオンン!!!
2人の異形の騎士は、
声をあげるヒマもなく、
玉座の後ろに吹っ飛んでいった!
おおっ……やっぱイニィさん、つおいっ!!
『おおお──! ナマで見るのは初めてだけど、すごいもんだねぇ──!』
『……呑気に構えていられるのも、今のうちです……。答えなさい、あなたの"流路"を操る力……それと、"異形の騎士モドキ"を作ってしまう力……その、正体を!』
『うん、いいだろう。僕も久しぶりに気兼ねない会話が出来て面白い。アレらを撃退できた褒美だ』
王様は玉座より立ち上がり……
……おもむろに上着を脱ぎ始めた。
『……何のつもりです』
どんどん脱いでる。
おい……。
こいつダメだ、
はやく何とかしないと……。
「……んん?」
な……?
なに、アレ……?
『──! あなたっ! その体はっ──!?』
『──どうだ? なかなかカッコイイだろう?』
「うそ、でしょ……」
上半身、裸になった王の体には……、
宝石が、埋め込まれまくっている。
あれ……まさか……。
『──"時限石"だよ。ま、これだけ数を"つけても"、君の扱うものには足元にも及ばないけどねぇ』
……体中に、穴が開きまくった王が、
へらへらと、しゃべる。
『……あ、あなたは、狂ってる──……チカラのために、そんな──』
『ああ、痛くはないんだよ? この体、痛覚切ってるからね! どうしてもこの力が必要だったものでねぇ。どうだい? きれいだろう? 君の"紫"には及ばないけど、これらの時限石は、一つ一つ丁寧に、魔術師たちが必死こいて魔力を込めたものでね! 青の中に、淡くだが、"赤み"が見えるだろう』
「う……」
宝石まみれの王が、
身振り素振りで動く度に、
全身の時限石が、青やピンクに、
光を反射した。
規則正しく埋め込まれているのが、
すごく……いやだ。
そんな風なのに、
平然と喋ってるのも、
とても……やだわ。
『……──! 最近の、"魔術師狩り"は、まさか──!』
『ああ、途中でなくなったからね。民からも随分補充したな』
『……、──なぜ、そんな、淡々と──、……』
……"なくなった"?
魔術師の力が、かな……?
魔術師狩り……?
『……私の友人も、何人か異形に狩られました……』
『あぁ、ありがとう。役に立ったね。そのツラでも友達いるんだな』
『! ……──ッッ!』
──チャキ。
その言葉で、明らかにイニィさんが、殺気だった。
……唇が歪み、小刻みに震えている。
杖を、構えなおした。
『……──父は、どこッ』
『はぁ……あのねぇ……男と女が語らってるのに、お父さんの話題ばっかで、おかしいと思わないの?』
『──だまりなさいッ! 一年前ッ! あなたが王になってから、父は、何かがおかしいと言っていたッ! 自分がダンジョンを攻略したと同時に、王位継承がなされるのはおかしいとッッ──!!』
『あいつ……いらない頭を使いやがって』
『──のたまうな! 父はどこにいる! 答えなさいッ!』
『……さっきから王に対して失礼なヤツだな。まぁいい。僕は優しい。会わせてあげよう』
『──ッ』
なんだろう……
先ほどから王の言う言葉の……
……上手く、言えないわ。
なんで、こんな時に、
こんな事を平然と言えるのか、っていう……
何なんだろう、こいつ……。
今までに出会ったことのない違和感を感じながら、
それでも、"過去の記憶"は、待ってはくれない。
さっきイニィさんに吹っ飛ばされた騎士モドキが、
何かを肩に抱えて、持ってきた。
投げる。
『──ッ!』
イニィさんは、攻撃を警戒する。
でも、投げられたものは、
王とイニィさんの、あいだに落ちた。
ゴロンゴロンと、転がる。止まった。
……木、かな……?
うねった、木のコブみたいな……。
『……?』
なんだこれは、と、
イニィさんも、首を傾げている。
────目が無い顔に、驚愕が浮かんでゆく。
『……あ、あああ、』
……私も、気づいた。
気づいて、しまった。
この"木"のカタマリ……
……──顔が、ある。
しゃべった。
『……イニィ、逃げロ……』
『──おとおさまぁぁあァァアァアアアぁ────!!!』
『ごたぁ〜いめぇ〜ん!』
……私はバカみたいに突っ立って、
放心しながら、それを見ていた。










