生ごみ生ごめ生ごみ王 さーしーえー
純白の城。
解き放たれた扉の中に、
一人の男の人と、一人の女の人が、止まっている。
今、あったはずの扉は、
いつの間にか消え、
そこには、アーチ状の入口が残った。
────色が、戻ってきている。
「ここって……」
豪華な部屋だった。
真横から見る形だ。
正面と……右側にも、
扉のない入口が見えた。
どうやらこの部屋は、
私が入ってきた入口の他に、2つ……
合計3つの出入口があるみたいだ。
……ここは、あの"玉座"から見たら、
"右側"の入口だわ。
私から見て、
左に、王冠をかぶった男。
右に、私と同じ杖を持った、
さっきのお姉さんがいた。
────もう、白は消しとぼうとしている。
杖を持っているからなのか、
今度は、私の身体は止まらなかった。
そして、"劇"は、始まった────。
『──やぁあ、やぁやぁやぁやあやあぁ────! 』
左の男が、喋り出す。
おでこまわりに、大きな王冠をかぶってる。
若い。
……先輩の見た目くらいかも。
服はそんなに豪華じゃない。
……王族にしては、シンプルに見えた。
クセっ毛の茶髪が、頬あたりで跳ね返っている。
おそらくの……"王様"から出る、中性的な声は、
なんだかとても、癇に障った。
『──こぉれはこれはぁ。 ──《共感者》の、"イニィ・スリーフォウ"さぁんじゃあ、あぁりませんかァ──!』
『……父はどこ? 』
『ごきげん、う・る・わ・しゅう! ぺこり! 今宵の城へようこそっ!』
『……父はどこ? 』
『あなたのような、騎士か魔術師か、よくわからない変な存在に出会えるなんて! 僕は貴重な体験をしていますよね!! さぁて、僕の名前は────』
『……"王"は、どこ?』
『あ?』
『……あなたの父上は、どこへ行ったの?』
『は…………んだよ。ヒトが自己紹介してんのに、あんなデブの話なんてすんじゃねぇよ。シラケんなァ……』
『……あなたの父上は確かにデブでしたが、とても立派な王でした』
『はぁい、そぉ、"で・し・た"。今は僕が王だね。で? アレがどうかすんの?』
『…………』
…………。
「……クズね……」
客観的に見て、ポロッと言葉が出た。
私の顔、多分変な顔になってる。
アレだ、臭いものを見た時の顔だ、多分。
アレは、ダメな王の、見本みたいなヤツだ。
……ひどいわ、アレ……
……生ゴミでも頭に詰まってんじゃないの?
『……あなたの暴挙を、あの方が黙って見ているとは思えない』
『黙ってはないよ? もう、言葉は喋れないけど』
『──! あなたっッ──!!』
ゴミ王の言葉に、杖のお姉さんが、
憤りを見せた。
? どうしてだろう?
よくわからないまま、劇は続く。
くそったれな、実話がだ。
『……なぜ、そんな事を平気でできるの……』
『ねぇ、そんなことよりさ、顔、見せてよ! さっきからうつむいてさぁ! 綺麗な髪だね! どうしたの? お腹いたいの? 』
杖のお姉さ……"イニィ"さん、だっけ。
……イニィさんは、
確かに最初から下を俯いていて、心配になる。
『……あなたのような者の"流路"は、目の前に立っているだけで、不快になります……』
『ああ!! 《共感者》! ヒトの"流路"を感じ取れるんだってね? なんだよ、酷いじゃないか! "王様"の流路なんて、そうそう感じられないだろぅ? 』
ゴミ王は、手を広げ、
くるくると赤い絨毯をまわり、のたまう。
若く、顔はきれいな男性だが、
あの笑顔は、充分、ぶん殴りたくなっている。
『いやぁでもさぁ! "流路"に介入して魔力を引っ張り出すなんて、まるで"寄生虫"だよねっ? すごいなぁ〜! それで、"時限結晶"からも、ガッパガッパ引き出せるワケだぁ!』
『…………』
『いいなぁ〜〜。くれよ。僕は、王なんだからさ』
『……愚かな』
『はい?』
キョトンと、愚王が首をひねって、返事する。
今までのやり取りを聞いてなかったら、
ずいぶん愛嬌のある動きに見えたと思う。
……今は殴りたくしかならないけど。
『何が愚かなの?』
『……あなたのように、民を思いやらず、恐怖と禁忌で搾取する者は、真の王などではない……それが、本当にわからないのですか?』
『なんで、それが必要なの?』
『────……』
うっわ……
こいつ……。
素で、言ってるっぽい。
…………。
『……ねぇ、僕は王だよ?』
『あなたは──』
『──きけよ。民を働かせて、生活することは、僕の特権だよね? せっかく一度きりの人生で、王の椅子にすわってんだよ? なんで、それを有効活用しないって、思うのさ? 』
『…………』
『 あ──わかる? 民は、"下"だ。僕の、"下"なんだよ 』
王さまは、両手で何度か、
机を叩くような動作をして、
真剣な顔で、言い放った。
……おい、冠、脱げ。
同じ冠として、クラウンに失礼だわ……。
『……あなたは、先ほど私を"寄生虫"とおっしゃいましたね』
『? うん』
『……国は"畑"、愚王は"虫"……』
『あ?』
『私があなたを愚かと言ったのは……"害虫"が私のことを、"虫"だと思っているからです』
『…………』
『鏡を、ごらんになって』
うおぉおぉお……!
い、イニィさんんんんん……!
そこでケンカ売っちゃダメだよぉぉお……
ここ、モロ敵地じゃん……。
大人しそうな雰囲気で、
めちゃくちゃさらっと、
王様のコト、"虫"呼ばわりしたよ?
──や、やりぃッ!
『……おい、ツラおがませろ』
『喋り方は、先ほどの方がよかっ──』
『──髪あげろォ。ブサイクなのか? 』
『…………』
若い王の言葉が、
感情を削ぎ落とされたように、
粗野なものになった。
……イヤな怖さで、サイアクだ……。
なんでこんなのが、王様になっちゃったのよ、昔……。
『……騎士の娘として、恥じぬように……』
『あ……?』
イニィさんが杖を構え直し、
首を少し振って、前髪を浮かした。
彼女の素顔が、顕になる。
『お……お!? ぶははっ! おまっ、その顔っ!!』
「────ッ! あの、"目"……!!」
イニィさんの……
この杖の持ち主だった人の素顔を、
初めて、見た。
なんて、言葉にすればいいんだろう。
あんなの……
あんなのって……!
……バカ王は、腹を抱えて、笑っていた。
『──あっはっはっハッハッハ!! す、すごいな、まるでラクガキみたいな顔だッ! いひひっ、いやぁ、それでよく人前に出る気になったね! い、いいよッキミ! 褒めて遣わす! 』
「……くそやろぉが……」
思わず、過去の王を睨みつけた。
こいつ……人のこと、なんだと思ってんの……!?
あんなの……
ゼッタイに今まで、色々あったに決まってんだろ……!!
それをアイツ……あんな!
『───はァ、はァ……なるほどぉ! "天は二物を与えない"ってヤツだねっ! 君は"流路"を感じとる能力の代わりに────』
くそボケ王が、整った顔を、
ニタリと歪ませ、言い放った。
『……──神様に、"目ん玉"を"盗られたワケだぁ!!』
『────……』
イニィさんの顔には、目が無く、
代わりに、イレズミのような、何かがあった。










