いま あなたのまえにいるの!
わたし、あんてぃ!
いま、しろいおしろにいるの!
もうすぐ、あなたのところへいくね!
でもそのまえに……
「……にゃんで私なんだ……」
螺旋階段に腰掛けて、
ちょっと、うなだれていた。
「あんの紫さん……どこまで行くのよぅ……」
あの後、何度か"過去の記憶"を見た。
えーっと、一言で言うと、
────"紫さん無双"だった。
ひとつ、わかったことがある。
この時空魔法使いの女の人は、
誰も、手にかけていないみたいだった。
……手加減、してるっぽい。
この城の敵味方の、
ヨロイの特徴が、やっとわかってきた。
下の階にいた、その……
中身がアレなっちゃった騎士さんは、
どうも、紫お姉さんの、お仲間だったっぽい。
今はかなり城の上に登ってきている。
下の階に、普通の大きさの騎士が。
上の階に、明らかにデカすぎる騎士の皆さんが、倒れている。
この紫の時空使いさんは、
最初は仲間の騎士に見送られ、
途中から、1人で城を登っているようだった。
何度か見た"過去の記憶"の中で、
お姉さんが相手をしてる敵の騎士は、
なんと言うか……すごく異常だった。
身体が大きすぎたり、
甲冑の頭の形が、確実に人のソレではなかったり、
腕が6本くらいある騎士とか、いた。
……もし、先輩が言うように、
昔の王様が、ヤバイ魔法で作った騎士達だとしたら、
王様の頭、ちょっとおかしい。
それに、こんなになった騎士達が、
……すごく可哀想だ。
お姉さんの"フォーク杖"から放たれる時空魔法は、
異形の騎士達の甲冑を、綺麗に陥没させ、
それ以上は、怪我をさせなかった。
この人は、中身が怪物かもしれない騎士に、
ちゃんと、情けをかけてあげていたのだ。
でも、たった1人で城に殴りこんでるだけあって、
まるで躊躇がない場面にも出くわした。
4番目くらいの"記憶"に足突っ込んで止まった時、
敵にすっごい囲まれた紫さんは、
空中に浮かべたたくさんの時空魔法? の玉を、
でっかい杖で、フルスイングし始めた。
私、もちろん杖なんか使ったことないけど……
あれは、ゼッタイ杖の使い方じゃあない。
昔、ユータとログが、丸石と木の剣で、
同じ遊びをしてたわよ……?
先輩が、「>>>あれは殺人ホームランだ……」とか、
なんかイミわかんないこと言ってた。
時空魔法の玉がなくなると、
そこらへんのお城の調度品をフルスイングし始めた。
このお姉さん、マジで、容赦ない。
台座の上にのってる、高そうな金属の壺を、
確実に、敵の顔に打ち込んでいた。
仲間を倒されて、怒ってるのか────……
「──────カキィ────ン!! バリン!!」
……いや、衝動的にしては、
フォームがあまりにも綺麗ね。
……あれ、やりなれてるや。
白いオバケ屋敷みたいなお城で、
バイオレンスな魔術を見た私は、
ちょっと階段で小休憩していた。
うん、休憩させてちょうだいな。
「……あの人、ぜったい時空魔法なくても、敵、倒せるわよ……」
──私の悲しみと、ドキドキを返せ。
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>>>……2回くらい
直に頭 殴ってたね
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『────正確には首です。相手は堕ちていました。』
「なんであの人、あんなに殴り慣れてるの……」
途中から、肩に担ぐ大杖が、
死神の鎌に見え始めたのは、
目の錯覚だ。
「……ねぇ。でも、あのお姉さん……今からその、……しんじゃう、のかな……」
これは、このお城が、
無くなってしまう物語だ。
その白の舞台に、無粋にも、
こんな娘っ子が、招待されてしまった。
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>>>……そうだね
それは多分 そうだろうね……
紫の時限結晶が暴走してしまった時
一番近くにいたのは
彼女のはずだから……
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…………。
「……なんで、私なんだろ……」
ぽろりと、また、言葉が出てくる。
そりゃ、何となくわかってる。
"時限結晶"を持っているから、
私が、ここにいる。
でも、何なんだろう。
なぜ、他の誰かじゃなくて、
私なんだろう?
ちょっと前まで、
ただの魔無しだった、私が。
はぁ……。
『────……けて、ほしかったのでは。』
「───え?」
『────助けて欲しかったのですよ。あなたに。』
「……──私に?」
いきなりの、クラウンの言葉に、面食らう。
「……──なぜ、わたし、なの?」
『────アンティ。"時限結晶"は、計り知れない程の大きな"力"です。私達の所有する物は、それの最たる物です。』
「……そだね。でもだからこそ、こんなおてんば娘が持っててもさ……。ほら、危なっかしいって思わない? いくら強力なチカラを持ってるっつったって……私、田舎街の食堂の、一人娘だよ……?」
ちょっとだけ、皮肉を込めて言う。
『────否。ただ強力な時限結晶を持っているというだけで、あなたはここに導かれたのではありません。あなただから、認められたのです。アンティ!』
────!?
「な、急に、どしたのクラウン……! 今日はなんか論理的じゃないわよ?」
『────あなたをここに呼んだ"彼女"の心情が、私にはわかる気がします。あなたは、強大な能力を持ちながら、その心をずっと、"食堂の一人娘"として、保つことができる。』
「……それってなんか……私が根っからの小物だって、言われてるみたいなんですけど……」
『────逆ですよ、アンティ。それだけ大きな力を得、しかし、力に溺れず、あなたは、"ただの女の子"としての心を保つ、強さがあるのです。』
────……?
「"ただの女の子"としての心──?」
『────はい。あなたは恐らく、世界を滅ぼす程の力を所有したとしても、"普通の女の子"で、あり続けられる。アンティ、あなたの一番素晴らしい能力です。』
「な、何言ってんの。そんな、コト……」
頭の上の王冠が、
くるくると回り、
座っている私の、
目の前に、きた。
『────私は仮定する。
────かの時空使いは、何らかの能力で、あなたの力を探し当てた。ですが、それは、能力だけを認識しているだけでは、無いと考えます。恐ろしい力になりうる"時空の力"。それらを使うに相応しい存在か。それを、私達は……あなたは、試されていた。』
「────……」
『────アンティ。あなたは先刻、こう言いました。"何故自分がここに居るのだろう"と。答えは明確です。"あなたがよかったから"です。あなたの力と心が、認められた。』
「クラウン……」
『────どう表現すればいいのでしょうか。
────私はとても、それが"誇らしい"──。』
「! ────……」
まるで、感情論だった。
ぽかーんと、くちがあいてしまう。
この子が、こんなことを、言うなんて……。
「…………ふふふふふふ……」
『────アンティ?』
「ぷっ、くっくっくっくっ……」
『────詳細入力。──を?。』
いや、アンタ、ほんとにもぅ……。
「……────はぁァ───あ……」
白の階段に座りながら、
背中を、後ろに沿わす。
「そっか……私は、"試験"に合格したのか……ぷっく! "黄金の義賊"なのにっ……」
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>>>ちょっと──!
その言い方はヒドいな──
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「ふふふ、ごめんごめん……」
そーかそーか。
私しか、いなかったのか……。
そう考えると、なんだかね。
上を見上げると、
さらに続くであろう、
白の螺旋階段の、裏側が見えた。
私が、今から登る道だ。
「……ありがとクラウン。なんていうか……ちょっと、腹決まったわ」
『────腹部の何が決定したのですか。』
「! ……あんたってヤツは……」
くるくるくる────……
よっ、こいしょっ、と。
「……もし、あのお姉さんが、ほんとうに私しかいないと思ってくれてるのなら……行こう。行って、何があるか、一回見てみよ。どうなるかなんて、わからない。だから見に行くよ、私」
『────はい。アンティ。』
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>>>はは 仲良いなぁ
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「そりゃそーよ! 付き合いでいったら、先輩より先輩なんだからね!」
『────よい表現です。』
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>>>えええ────……
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ひとりじゃあないから、
少しだけ、気分が明るくなって。
登ってゆく。
登ってゆく。
ひたすら色がない、幻の城を。
進む。
進む。
隣の棟に伸びる、空白の廻廊を。
上へ、横へ、斜めへ、上へ。
進んだ。進み続けた。
そうして辿り着いた、
大きくて、頑丈そうな、両開きの扉の前で。
過去に、ふり回され続けた杖が、
お出迎えしてくれた。










