あなたのハートにリフレイン さーしーえー
完全に、不意打ちだった。
この部屋を歩いている時、
私の全部が、止まった。
────────ググッ!
(────なッ!)
身体が、動かない!?
歩いてる途中の姿勢で、止まってる!
(────な、ん──)
息苦しさがある……?
────ちがう!!
いま私、呼吸自体が、出来ていない!
心臓の音が、きこえない!!
(うぁ、うああっ────)
チカラを入れる。
力量加圧。
このヨロイのチカラは、けっこう強いはず!
なのに……────うごかない!!
チカラをこめること自体が、できない!!
(く、クラウ────ッ!)
────シュパッ!!
白の空間が、瞬く。
目は、開きっぱなしで、視線は動かない。
次の瞬間、
──全てのモノに、色がついた。
(──!? なん、で──!?)
あまりのことに驚愕する。でも、
今の私は、なにも動きやしない。
部屋の入口に、アホみたいに、固まっている。
そして、いつのまにか、目の前に、
────────あの人が、いた。
(────紫の、髪……!)
後ろ姿だけで、顔は見えない。
でも、今までみたいに、
白で騙されない、ハッキリとした姿がわかった。
腰まである、艶のある髪。
葡萄のような、濃い紫色が印象的だった。
装甲に包まれた、膝までの、白いドレス。
肩を包む、ショートローブ。
そして、その身長ほどある、
でっかいフォークみたいな、十字架の、杖。
彼女は、騎士達に囲まれていた。
『『『OOOoo──────!!!』』』
(くっ──!)
私だけ取り残された色つきの世界。
騎士達は、紫の魔術師に攻撃する。
思わず割って入ろうと思ったけど、
身体は、まったく動いてくれない。
私はただ、見ているしかできない。
─────ギィイン!
(────ッ!!)
──うけたわっ!
あの杖の先、剣になってるの!?
────ギィん、
────ギィイン!
────すごい。
あの女の人、まるで、身体の芯がズレない。
大きな十字の杖は、くるくると回りながら、
何度も繰り出される騎士の剣線を、払い除ける。
取り囲む騎士達の剣が光って見える。
魔法かスキルが使われているの?
でも、紫の人は、全く危なげがない。
ひとつ剣を受けた杖は、彼女の手を軸に旋回し、
次の剣戟へと吸い込まれていく。
多分、魔術じゃない……純粋な、ワザだ。
全ての剣は、杖に弾かれ続けている。
この女の人……格好は魔術師っぽいけど、
めちゃくちゃ強い。
杖で、あんなこと、ムリよ……。
まるで、この女の人のほうが、騎士みたいだ。
────ドカッ!!
1人の騎士が尻もちを付き、
私を含め、皆が、
1人の杖持ちに、圧倒されている。
剣の音が止んだ瞬間。
杖が、横薙に一閃された。
────ブゥゥウウウウオオオンン──!!!
(──!!)
空気を削るような音がして、
杖から何かが出て、
周りの騎士達が、後ろに吹っ飛んだ!
(……──魔法、なの?)
一瞬で、紫の人以外、
誰も立っていなくなる。
吹っ飛んだ騎士達の方から、
黒い球体が戻ってくる。
子供が蹴って遊ぶ、ボールくらいの大きさだ。
……あの感じ……。
まるで、色違いのファイア・エレメントみたいだ。
黒が、白の杖に、吸い込まれていく。
あの杖の、真ん中にある、宝石に。
────"紫の宝石"……?
(…………まさか)
────とても、似ていた。
クラウンに付いている、"赤い宝石"に。
杖使いの女の人は、先の階段へと、進んでいく。
上へ、上へと────進んでいく。
(ま、まって……!)
姿が見えなくなった時。
────フォ。
────キィん。
「 ────ッ! 」
色が、再び白にのまれ、
私の身体が、解き放たれた。
「──ひゅッ! ……ハッはっ……はっ、はっ……」
さっきまで、呼吸も、心臓も、動いていなかった。
意識だけが、動く事を許された、
そんな感じだ。
思わず、息の仕方を確認してしまう。
『────アンティ! 無事ですか。健康状態確認……。
────損害:無。』
「ックラウン! い、今の!」
『────確認していました。申し訳ありません。術式解除には失敗しました。』
「! 見てたのね! 先輩は?」
─────────────────────────────
>>>見てたよ!
……驚いたね あの女の子
"時空魔法"の使い手だ!
─────────────────────────────
「……なんですって」
そんな、国のお抱えになるような珍しい魔法系統が……!
「さっき戦ってた騎士達……この城の騎士だよね! なんで"時空使い"が、お城に殴りこんでるの!?」
─────────────────────────────
>>>そ そこまでわかんないって!
アンティ さっきの騎士 見てごらん
─────────────────────────────
「え……」
先ほどの色付きの風景で吹っ飛んだ騎士達。
……白くはあるけど、全くそのままの姿で、
そこに、倒れていた。
……あの攻撃で、しんでしまったのだろうか。
あの黒い球体での攻撃は、損傷がすくないようで、
私も、何とか取り乱さずに見ることができた。
「……! この、ボール状に凹んでる跡……!」
─────────────────────────────
>>>これ……さっきの4メルくらいの
甲冑にも付いていたね あの子
単騎で ずっと登ってるんだ……
─────────────────────────────
それって……
「……ねぇ、私たちが見たのって、かつてここで本当にあった"記憶"なの?」
『────肯。時空系の魔法を基盤とした、再現方法だと予測。一定領域に侵入した者に、記憶の断片を開示する魔法と推測できます。』
「そ、そんなことが、できるなんて……」
大勢で、たった1人に斬りかかる騎士達。
それを、こともなげに倒す、時空使い。
……それは、殺し合いの記憶だった。
「……なぜ、こんなものを、私に見せるの……」
─────────────────────────────
>>>……きみだからだよ アンティ
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「──え?」
『────同意。理由は不明ですが、この"再現"という魔法形態は、"時限結晶"内の亜空流路、及び、軸動補助システマ、"値震煉異"が無ければ、構成不可能な術式です。』
「…………えっと、よくわかんないんだけど……」
─────────────────────────────
>>>あー…… 簡単に言うと
きみの時限結晶が無ければ
この白城は"再現"できなかったし
きみの歯車法そのものが
時限結晶と同期していなければ
今の"記憶"すら 見れなかった
ってこと
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「! 私だから、見れた……」
『────……はい。時限結晶を持つ、あなただからこそ。』
……。
……じゃあ、
なんの、ために。
─────────────────────────────
>>>きみさ……もう
気づいているんだろう?
─────────────────────────────
「…………」
─────────────────────────────
>>>あの女の子が持ってる杖の中央には
宝石があったよ……
クラウンちゃんに付いてるモノと
色違いの "紫"の 宝石が……
─────────────────────────────
「……」
『────……。』
むかぁし、昔。
ある騎士の冒険者が、
黄金の龍を倒しました。
その龍は、ふしぎな紫の宝石を残しました。
王様は、それを求めましたが、
騎士は、それを拒みました。
それを知った王様は、たいそう怒って、
騎士の家族は、みんな殺されました。
でも、さいごに────。
─────────────────────────────
>>>"────冒険者の娘が最期に
命を使った時空魔法で
時限結晶を暴走させた────"
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「────……」
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>>>……"彼女"だ。
彼女が 今から 暴走させるんだ
彼女が "レエン湖"を 作った
これは……その"記憶"だ……
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今から起こることを、私は。
"最期"まで見なければ、いけないだろうか──。










