アッパーの後でさびしいな さーしーえー
天気はこんなに良いのに。
後ろは、白いスライム湖。
前の森から、魔物の群れ。
……やれやれだわ。
「クラウン、"視覚域拡張野"の展開たのむ。……魔物たちは私を狙ってるの?」
『────否。対象の進行予測直線は、こちらの座標と交錯しません。』
「……ってことは」
─────────────────────────────
>>>この湖を目指しているっぽいな!
水を飲みに来たか あるいは……
アンティ 隠れて様子を見ないかい?
─────────────────────────────
「! のった!」
白い砂利の湖畔の側は、森が広がっている。
森に入ると、
白い砂利が、急に土に代わってくる。
木の影は、日光がまばらに降り注いで、
とても気持ちのよい空間だった。
暴れん坊よだれ牛がいた森の木より、
背は低いけど、葉がとても活き活きとして、
黄緑に輝いてる。……むぅ、きれいね。
目の前に浮いている地図に、
こちらにくる魔物が矢印でまーかー、される。
ふむ、こっちの木に隠れよう……。
魔物がいなければ、
ピクニックで来たいくらいだわ。
遠いか。
「おなかへった……」
身体の痛みがなくなったからか、
えらい空腹だけが意識される。
口をとがらせながら、
湖畔を観察することにする。
…………。
……ドドドドぉドドドぉドドド──……!!!
「──きたっ!」
ずぱぁん!! というような感じで、
森から魔物の群れが飛び出す。
何よあれ! 鳥系統!?
『────検索完了。
対象名【バサンココ】
属性:火 弱点属性:火。鳥類系統。
個体数:18。平均身長:2メル70セルチ。』
────ゴケガァァァ────!!!
「…………」
でっかい鳥ね。
魔物って、だいたいでかいわね。
二本足で立っているわ。
羽根は……あのバサバサしてるのか。
目つき悪いわねぇ……。
全身、灰色やら、黒の体で……んん?
えっ、ちょ、口から火ぃ出てるわよ!?
頭に赤黒いトサカがある?
あれ、どこかで見たような……。
「……あいつら、火属性なのに弱点、火なの?」
『────肯。対象群、湖畔にて停止。』
「……ねぇ。あの魔物、"ココ鳥"に似てなぁい? あのトサカとか」
『────肯。上位種です。食用可。』
「──!! 鶏肉じゃないの!!」
おおおお!
野生のココ鳥って、育つとあんなになるの!
……ということは、あいつらは、
私が捌いてきた鶏肉よりも、高級なワケね……?
「きひ、きひひ」
『────……。』
─────────────────────────────
>>>────……。
─────────────────────────────
────はっ!!
……いかんいかん……。
「あー……。やっぱり水を飲みにきたのかな?」
今はスライムだけど。
─────────────────────────────
>>>いや……見て!
あいつら傷があるよ!
─────────────────────────────
「え……あ! ほんとだ!」
よく見ると、何匹かに、
血が滲んだような後がある。
! 大きな針のようなものが刺さってる?
あれって……!
『────ラクーン族の針矢を確認。』
「──!! あいつら、ラクーンの里を襲ってる!」
負傷してる鳥の魔物が、湖に近づく。
水面から、白い触手がのびた!
なんか、あの魔物も驚いているみたい。
傷に絡みついて、すこし、淡い光が出る。
……私の時も、あんなだったのかな。
「……ごく、り」
─────────────────────────────
>>>ラクーン襲撃の謎が とけたね……
─────────────────────────────
そうだ。
アレを見れば、さすがにわかる。
ポロとコヨンが言ってた。
ラクーンの里から追い返した魔物は、
すぐに回復して、数日で、またくるって……!
「……なんてこと。どうにかしないと」
このヒールスライムの湖。
先輩の言う通り、放置してたら、やばい。
兵器になるっていうのは、
まだ実感がないけど、
少なくとも、一部の魔物たちには、
この湖で回復ができるとバレている。
「……つっこむわ」
『────レディ。』
─────────────────────────────
>>>え────?
─────────────────────────────
────キィん。
「ふっ」
きんきんきんきんきん!
きんきんきんきんきん!
きんきんきんきんきん!
「「「────ゴケガァァァァ───ァ!!??」」」
───どしゃぁぁあ、どしゃどしょ。
一瞬で連続アッパーカットを放ち、
バサンココ達が、空に舞う。
ごめん。
でも、アンタらラクーンの里、襲うでしょ。
15匹は空から降り注ぎ、
残り3匹についばまれる。
────ガンガンガンガンガンガン。
「いたいいたい」
腕で、頭への攻撃を防ぐ。
まぁホントは痛くないんだけど、気分的に、ね?
こいつらクチバシから火ぃ出てるのに、
あえて、ついばんでくるのね……。
おいやめろ髪燃えるからっ!
「────グワッッ!!」
……っと! 蹴りをしてきた。
ガキンと、グローブで掴む。
ひねる。
ぐるん。
「────コケッ!?」
そのまま、ふりまわした。
「「「グゲゲケッッ!!」」」
2匹の魔物が、旋回する。
──これで、18匹だ。
『────敵対象:制圧完了。』
歯車が、バサンココたちを飲み込んでいく。
─────────────────────────────
>>>さすがだね!
小さな頭に 的確に拳が入ってた!
─────────────────────────────
「…………」
『────アンティ。どうされましたか。詳細入力。』
流れるように魔物は倒せたけど、
あんまりいい気分じゃない。
「……こんなことが、何回も起こってるんだよね……」
『────魔物が自身を回復する行動は、頻繁に起きていると予測。』
「…………」
ラクーンの里をずっと襲い続ける魔物たち。
ここで、何度も回復しているからだ。
「……この場所、確かに怖いね」
魔物たちの、秘密の回復場所。
多分、多くの魔物たちが、ここを知り始めてるんだ。
だから、ラクーンの里を襲うようになりはじめた。
─────────────────────────────
>>>……アンティ この湖は
やりようによっては たくさんの人を
助ける事ができる
─────────────────────────────
「……!」
─────────────────────────────
>>>でもね ぼくは怖いんだ
例えば この湖を囲うように
街が出来たとしよう
─────────────────────────────
「うん」
─────────────────────────────
>>>ケガをしても この湖の街にくれば
たちまち治ってしまう
─────────────────────────────
「うん」
─────────────────────────────
>>>たぶん お金を払う人が出てくる
心からの感謝を伝えるためにね
─────────────────────────────
「うん」
─────────────────────────────
>>>回復の湖と 金銭の集まる場所は
瞬く間に 有名になるよ
─────────────────────────────
「うん」
─────────────────────────────
>>>ぜったいに 誰かが目をつける
─────────────────────────────
「……」
─────────────────────────────
>>>……ごめん ぼくはひねくれているよ
でも 確かに それは起こる
間違いなく
─────────────────────────────
「……」
─────────────────────────────
>>>こんな『強すぎる』場所は
争いや、格差や、執着を生む……
だから昔 ぼくは身分を捨てて
たくさんの物を こわしたんだ……
─────────────────────────────
「……せんぱい……」
……さびしかっただろうな、と思った。
義賊クルルカンの過去を、
私は、なぁんにも知らない。
生きていた時、どんなことがあったのか。
どんな子供時代を過ごしたのか。
何故、義賊になってしまったのか……。
先輩は、前に、自分のことを、
正義の味方なんかじゃないって、言った。
"義賊"ってことは、
誰かから見たら、
たくさんの人を守ったけど、
誰かから見たら、
"悪いヤツ"だったってことだ。
────"悪いこと"をして、何かを守り続けた。
……それはなんか、さびしい事だな。
多分、さびしい、信念だ。
その片鱗が少し、垣間見えた気がした。
「……どうしよっか」
『────提案。ストレージ格納のトライ。』
─────────────────────────────
>>>あー いや……
自分で言いだしといてなんだけど
それ ホントにやるのかぃ……?
さっきは半分冗談で
聞いてたところがあってさ……
─────────────────────────────
「あによぅ。じゃあ他になんか案あるの?」
─────────────────────────────
>>>う うーん……
─────────────────────────────
もー。
なんか知恵貸してよね?
初代、黄金の義賊なんでしょう?
いや、私もなにか考えるケドさ……。
うーん……。
……。
……。
……?
──────え?
「……うそ」
『────詳細入力。』
─────────────────────────────
>>>? どうしたの? ほうけちゃって
─────────────────────────────
すっと、湖の方へ、指をさす。
………あそこ。
「……──湖の上に、"ひと"が、立ってなぁい……?」










