仮面魔球 さーしーえー
「…………」
ばけものスライムに、ペッ、された。
でんぐり返ってる。
前まわりを、途中で止めたみたいに、
天空にお尻が向いている。
女の子としては、かなり屈辱的なポーズだ。
ちらっと湖面をみると、
とても穏やかだった。
……波ひとつない。
『────損害分析中……。』
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>>>吐き出されたね……だいじょうぶ?
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……ずしゃむ。
ゆっくりと身体が傾き、
空を向いていたお尻が、横に落ちる。
のそのそと、上半身を起こした。
『────分析完了。各部位:損傷:融解:認められません。損害:無。』
水を、ぶっ被ったみたいになってた。
どうやら粘液はついていないみたいだけど、
さっきの感触から、
どうしても身体中の水が、
ネバネバしてるのではないかと思ってしまう。
放心したまま、つぶやく。
「……なんで、なんともないん……?」
『────……。』
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>>>アンティ すっごいナマってるよ……
戻っておいで……
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……いぃ天気だ。
ずぶぬれの身体にぽかぽかと当たる。
湖の湖畔は、白い、綺麗な砂利だった。
……おなか、すいたぁ。
『────経過報告。分析結果の一部が確定しました。』
「……!!」
顔を包んでいたアナライズカードは、
ひっこんでしまっている。
クラウンが、ミルク湖の情報を、
読み上げてくれた。
『────確定情報です。
対象名
【ギガンティック・ヒール・スライム】
属性:聖 性質:無差別回復。
弱点部位:本体。弱点属性:火。耐性:暗黒。
全身流動体堆積値、測定不可能。
────分析を続行します。』
「……"ひーる"、すらいむ……?」
ヒール?
ひーる?
……くつ?
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>>>"ヒールスライム"だって!!??
ほ、ほんとに……?
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『────むっ。真実です。』
……。
スライム……? くつ?
靴スライム……?
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>>>初めて見たよ!
そ、そうだよね 白いよね……
大きさに気をとられすぎて
聖属性である可能性に
頭がまわらなかったよ……
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『────……同意。この個体は大きく、あまりにも濃く白濁しています。基底体表色と混同し、聖属性の検索野分析に手間取りました。』
「せい、ぞくせい……? ひーる……?」
それって……。
「……──"回復魔法"?」
『────再分析完了。筋組織結合観測値を表示。』
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>>>アンティ 身体の痛み どう?
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「え? えと……」
……──べちょ。
立ち上がってみると、やっぱり水浸しだ。
うう……。
『────バックグラウンドで過剰水分を格納開始。』
「えと……えぃっ」
────ゴッ!
────きゅるるるッ
────ッキィィィイン!
バク転してやった。
あれだけ空で、回りまくったんだ。
放心してても、できる。
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>>>きみって やつは……
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『────回転数:2。旋回:3。お見事です。』
「! い、痛くない……?」
力を入れたら、「うっ!」ってなってたのに!
『────全快しています。』
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>>>おおお〜〜
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頭ん中で、聞こえないはずの先輩の拍手が、
パチパチと、聞こえた気がする……。
いや……あのさ……。
「ねぇ……私が、こんのミルク池に追いかけられたのって……」
『────対象の"無差別回復"に起因する。』
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>>>全身筋肉痛だったからだね
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…………。
…………。
……ぺたり。
おやまずわりである。
仮面とった。
「…………」
『────クラウンギアは、アンティ・キティラを応援しています。』
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>>>ちょ クラウンちゃん……
なにキャッチコピーみたいなこと
言ってんのさ……
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……膝を抱えて、ぷるぷるする。
泣いてない、泣いてないゾ。
あたし、強いんだゾ。
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>>>うわぁ……
そんな無表情で泣きそうになるの
やめなよ……
こっちがつらくなるよ……
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「……にゃいてないモン……」
『────分析完了。泣いてません。』
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>>>えっ う うん……
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ぐぬぐぬぬぬ……。
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>>>あ えと ……よかったね?
身体なおって……
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──ぷちっ。
「……いいワケ、あるかァァァああああ───ッッ!!!」
ぐぉうんんんっ─────!!!
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>>>ちょっ ギャアアアアアアア!!!
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なげた。
仮面なげた。
湖面に平行に、なげた。
湖面にふれる。
バウンドした。
白い飛沫がとぶ。
ぴょんぴょん跳ねている。
遥か彼方まで、飛んでいった。
『────距離:157メル地点で回収しました。』
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>>>な な なんてことするのさぁ……!!
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「いぃ、いぃい、いーわけあるかぁ!! もにゅもにゅされたのよっ! べちゃーんてなって、べチャーンってなって!! 息止まったかと思ったわぁ! 白なのに、真っ暗なのよ!? と思ったら、ビカって光るし! な、生暖かかったしぃ……! なんか甘かったのよ! しゅわしゅわしたのよォ……?」
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>>>ごめん 味覚まではわかんない……
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ううう……筋肉痛治すのに、
いちいちスライムに飲まれてたまるかぁ……!
お、乙女の純情を返せぇ……!
ぜったい夢に見るぅ……!
『────水分量調節完了しました。』
「うう、ありがとぉ……」
ああ、最悪の思い出になるわ……。
全身を魔物に包まれるなんて。
しかも、最後吐き捨てられたわよ。
しばいたろかこいつ……。
『────強大な質量です。"核"は埋没しています。』
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>>>ぼくだって今の横移動は
トラウマだよ……
しかし参ったね……
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「……? なにがよ……」
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>>>機嫌なおしてよ……
この湖、下手したら"兵器"になるよ
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「うぇ────?」
……"兵器"?
えと……なんで?
「……クラウン。私、スライムの種類にはうといんだけど、ヒールスライムって、やっぱり人を襲うの?」
『────否。ヒールスライムの主食は、光と水の魔素です。外敵を襲うことは少なく、隠れ住む傾向があります。』
「超、飲み込まれたんだけど……」
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>>>さっきの分析結果にあった
"無差別回復"っていうやつのせいだね
ぼくもヒールスライムは
初めて見るけど
本来はとっても珍しくって
滅多に人目には触れないって話だよ?
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「人目に触れまくってると思うんだけど……」
湖がすべて白いじゃないの……。
「でも、"ケガ"を食べてくれるのよね? なんで兵器になるの?」
『────訂。ヒールスライムは、ダメージを食べている訳ではありません。』
「そうなの?」
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>>>環境反射に近いようだね
えーっと……いい例えは……
「暑ければ、汗をかく」かな?
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「! なるほど……」
傷に触れると、勝手に回復しちゃうのね!
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>>>だから普通はね?
ヒールスライムは 逃げるはずなんだ
ケガをしてる何かに触れると
回復魔法で自分の魔力が減るでしょ?
それは自分の弱体化を意味するから
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「……でも、こいつは襲ってまで、回復をしてきたわよ?」
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>>>だからやばいんだ
極端な例を言うよ? アンティ
"戦争が大好きな国"の騎士たちが
ここに陣地を張ったらどうなる?
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「────あ!!」
そういうことか……!
「……ケガをしても、湖に近づくだけで、勝手に治療してくれる──!」
『────スライムの体積に対して、魔力量は比例します。膨大な回数の回復が可能だと予測。』
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>>>まぁ今は平和そうだからいいけど
それだけじゃなくて
この魔力量のヒールスライムなんて
ハイポーションみたいなもんだよ
金儲けとか考える奴でてくるよ……
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「やなこと言わないでよ……」
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>>>昔は成り上がりたい奴らが
ちょこちょこ いたからねぇ
これは軍資金にもなるし
兵を無尽蔵に回復してしまう
はっきりいう
ぼくはこの湖を消したいね
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「…………」
仮面先輩は、200年前に生きていた人。
その頃は確かに、
この地域でもいざこざが絶えなかったみたい。
絵本の通りなら、色々な所を旅していたはず。
こんな場所を見つけては、壊していたんだろうか。
「……スライムの体は、水魔法なんだよね? 私たちのバッグ歯車なら吸い込める。いつかは核が露出しない? やってみる?」
『────湖の深度が計測不可能なため、格納期間の概算が行えません。』
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>>>時間はかかるけど
いつかはやれそうな手だ
ふふ そうなったら
きみは大量の回復媒体を手に入れる
女王様になれるかもね
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「バカ言わないでよ。シュミじゃないわ」
『────同意。私の形状は、権威を示す目的ではありません。』
え、そうなの。
地元でけっこう目立っちゃうんだけどなぁ。
女王様呼ばわりとか、シャレにならん……。
いやいや、今はそれはいいや。
「……わかった。考えるよ。でもごめん、流石にちょっと休憩していい? ごはんも食べたいし……」
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>>>ああ ごめん
あんな事があった後だし……
休息は大事だね
仮面になっちゃってから
そこらへんの感覚が弱くていけない
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「……やっぱり、また、ごはん食べたい時ってあるの?」
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>>>気にしないでいーよ!
どしようもないからね
ぐぅぐぅお腹がなるまえに食べな
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「また投げるわよ」
クラウンも先輩も、ごはんは食べれないからなぁ。
自分だけ食べるのは、少し罪悪感のようなものが……
……しゃあないか。
どしよう。またお肉でも焼こうかな……。
『────警告。震音探知に反応有。群れで接近する勢力を確認。警戒してください。』
「────!!!」
ランチタイムは、もちっと後になりそうだわ。










