ふほうとうきよくない
ここは、空!!!
きゅぅぅぅうううううううんっ────!!!
全身の歯車たちが、
金属と空気の摩擦音で、うなる──!!
「ぎぃぃいいい────────ッ!!!」
歯を食いしばって、方向をかえるっ!!
もう、やり方を意識してなんかないっ!
思った瞬間に動かないと、やられるっ!!
─────しゅ
───────しゅ
─────────しゅ
──────────しゅぅううんっ!!
また、白い触手みたいなのがッ、
後ろから、規則正しく、おっっっつかけてきたっ!!
『────仰角補正25。マーカーします。あくまで推奨。』
「──りゃああああああ!!!」
相変わらず、クラウン語はたまにわかんないっ!!
でも、空での私の軌道を、
微調整してくれてるのはわかるわっ!
もう空を飛んでんのか走ってんのか、わかんない!!
────キィン!!
───────キィィン!!
さっきから、地面と空がくるくる入れかわってる。
えらいこっちゃだわ。
白と青が交互に見える。
重力ってなんだっけ。
なんか、私を中心に世界が回ってるみたいね。
あほなこと考えてる場合じゃないわ。
─────────────────────────────
>>>ちょっと落ち着いたかい!?
空中戦だっ!
進行方向に対して
後ろをとられないようにして!
─────────────────────────────
「!? わかった! 先輩って空で戦ってたことあるの!?」
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>>>いいや セオリーさ!
─────────────────────────────
「いみわからんっ! うわぉっ!?」
─────しゅぱぱぱぱぱぱは……!!!
ひとつの触手から、細かい触手がいっぱい、
あらゆる方向に吹き出やがった!!!
「くッ、ぉおおおッッ────!!!」
ぐりん。
女の子が出しちゃいけないような声が……
そりゃでるわよ!!
身体をひねって、棒を飛び越えるように、
最短距離をかわす。
地面の方向なんてどうでもいい。
今は、白に、当たっちゃあダメだ。
────あ、だめだアレに当たりそう。
「ちっ────」
────どぉん!!
スライムに当たった音じゃあないわ──!
地面を蹴るみたいに、
空中に、おもいっきり蹴りを入れてやった。
あ、今は空か。
ヌードルをアミで水切りするように、
わざとスナップをきかせてやると──……!
────ぐぉおおっ!
「くふっ……」
……蹴りの勢いで、そっちに身体が流れる。
当、たんないわよ、ばぁ───か!!
『────回避成功。122。』
─────────────────────────────
>>>今のだいじょうぶかい?
ちから入れると まだ痛いんだろ!?
─────────────────────────────
「そ、んなこと言ってられないでしょ!」
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>>>悲鳴がずいぶんと
男前になってきたね!
いい傾向だ!
なんとか湖畔に逃げよう!
下からっ!
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「私は女だかんっ、なぁぁああ!!」
『────回避成功。123。また湖中央部に押し戻されました。』
くそったれ、こいつおかしいぞ!?
学校のスライムってこんなだったか!?
確実に、湖の真ん中に囲ってきてるわ!
攻撃も効かなかったやり方はすぐに変えてくる!
てか白いから! まず色が違うから!!
きゅぅぅううううん────!!
──しゅぱっ! しゅぱっ!
「く、クラウン! スライムって、こんな頭いいの!? 明らかに私を、湖の外に出さないようにしてるっ!」
『────特殊体であることは間違いありません。現に、分析行動が阻害され、遅延しています。このゲル化堆積値は異常です。体魔法内に、流路が形成されていると仮定すると、知力が非常に高い可能性:大。』
よくわかんなかったけど、
最後の流路のくだりはわかった!
スライムの身体は、水魔法の一種!
その中に、魔法の流れ道ができてるかもってことか!
「流路は、クラウンの心みたいなものだもんね……湖いっぱいの流路は、もしかして……」
『────"人格"を、形成しているかもしれません。』
……は、は、は。
いや、スライムだから"人格"とは言わないでしょ。
ああああああ、だとしたらやっかいだわ……!
─────────────────────────────
>>>! 何故だろう……
攻撃がやんだ!
─────────────────────────────
「──ッ!」
────ホントだ!
空中の触手の列が、急に粘度を落とし、
ミルクみたいになって、湖面に落ちていく!
下の方から、パシャパシャと音がする。
『────対象:沈黙。──妙です。』
─────────────────────────────
>>>チャンスだけど なんかヤバい!
湖畔に いそげっ アンティ!!
─────────────────────────────
「──やらいでかぁぁああ────!!!」
─────キィィィイイイイ────ン!!!!
先輩のセリフが視覚に入るのと同じくらいに、
おもいっきり、真横に駆けだす!!!
さっきまで、あんなにしつこかったんだ!!
この静けさは、"嵐の前"だわっ!!
──その表現は、極めて、正しかった。
─────ドおぉおおおおおおおおンンン!!!
「────うわぅあっッ!!!」
……んだ、あれ。
爆発した。
いや、水が噴き出したんだ。
白い、水柱。
あれは、こいつの身体だ。
『────レエン湖:全方位/湖畔部にて、全長250メルの水柱を確認。数:12。乳化体が上空に散布。』
私の周りをぐるっと、
めちゃめちゃ高い、白の水柱が、
おりのように、囲っていた。
「たっか……」
は、は。壮観だわ……。
少なくとも、食堂の看板娘が、
ポンポンと見れるようなモンじゃないわね。
神々しくすらあるわね。
ああ、くそったれめ……!
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>>>アンティ! バッグ歯車で
進行方向を防御しろ!
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「───くぁ」
先輩がいつもより強い口調で警戒を促す。
そ。
やばいのだ。
────きゅぅおおお!
もちろん、"アイテムバッグの盾"は、すぐに展開した。
でも、今の私は、真横に、空を突っ走っているのだ。
傘をさしていても、
濡れてしまうことって、ある。
────この、"白い雨"にも、同じことが言えた。
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「うわ、うわぁ……!」
かかる。
少しずつ。
おもく、なっていく。
ぬれていく。
ながれおちない。
みえていても、よけれない。
なんでこんな天気のいい日に、
濡れねずみにならなきゃいけないの。
────どぷぉん。
ウチのキッチンの"流し"みたいな音を出して、
ヨロイの上に溜まっていた白い水滴が、
一気に、塊になった。
────しゅぱっ!
「ひっ!」
腕をそれぞれ、絡めとられた。
方向の微調整ができないっ!
次の足場の歯車がっ!
────ずちょっっ!!
歯車の上に溜まっていたスライムで、
おもいっきり、すべり、踏み外した。
─────────ジュバっ!!
「あ! あ……あ……!」
真下から、最短距離で伸びてきた白に、
捕まった。
足が、使えない。
なんだこれ。
なんだこれ。
私、どうなるの?
─────、─、─────……
「うわああああああああああああああ!!!」
─────────────────────────────
>>>あ アンティ!
落ち着いて!!
くそっ クラウンちゃん 炎を!
─────────────────────────────
『────実行中です! しかし、体積が減らない!』
性懲りもなく、私はパニクった。
火が、白をとばすけど、
ちょっと、それどころじゃない。
怖い。
怖い。
喰われかかってる。
冒険ってこわいなぁ。
こんなこと、やっぱり向いてないんだろなぁ。
歯車から、色んなモノが出ていた。
野菜。
大根とか。
炎が右手を炙った。
掴む。
投げる。
大根が飛んでった。
岩。
殴る。
砕けた。
飛ばない。
馬車。
馬車じゃない。
投げた。
落ちた。
火。
そうだ、火だ!
「火だ!」
右手に歯車を出す。
大きな火をだして────
────べちょっ!
白いパン生地みたいなのが、
歯車ごと、右手を包んだ。
なんだこいつ。
ふざけんな。
─────────────────────────────
>>>うそ────だろ──……
─────────────────────────────
『────……。』
キッと、右手を睨んだ時に、
ちょっと心がもどった。
それで、クラウンと先輩が、
言葉を失ってるのに気づいた。
なんだろう……。
全身を拘束されながら、見る。
………あれ。
景色がおかしい。
湖畔には、
森があったよね。
遺跡もあったよね。
なんで見えないの?
白い。
白と、空、だけ?
あれ、空が、狭くなっていく。
「なんでよ……」
わかった。
みずうみが、
はは、ハ。
"花瓶"みたいに、なってる。
レエン湖、おっきい。
都市がすっぽり入るくらいの、まんまる。
その、湖畔から、
上に、まぁるく、
白い壁が、伸びていってた。
「やぁ……」
王都の城壁みたい。
高すぎるけど。
難攻不落すぎるけど。
1000メルくらいあるよね。
なんなの。
私なんかしたの。
白いほそながい器のなかで、
青空は上に小さく、まぁるく見えた。
湖の外側から、
白い壁が、せまってきた────。
……──ぉぉおおおおおおぉぉぉぅぅぅ──……
「 ……── おかあさん …… 」
ばちゃあああん、と、
プールに飛び込む時の音がして、
私は、のみ込まれた。
────。
────。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
もきゅもきゅ。
むんぐむんぐ。
………………。
ぐぐぐぐッ……。
───────ペッッ!!!
────ずしゃん。
────キィン。
……。
「……ゃ?」
湖畔に、吐き出された。
地面だ。
でんぐりがえった。
白いでっかいのが、湖にひっこんでった。
『────……。』
─────────────────────────────
>>>────……。
─────────────────────────────
「…………もぅヤら、冒険者やめゅ」
グスッ。
(´∀`*)やめません(笑)










