どんぶら娘 さーしーえー
10日ちょい前、ドニオスにて。
「メニーさんこんちは」
「あら! クルルカンちゃん! ここ数日見なかったわね!」
「里帰りしてたんですよ」
「盗賊の里に?」
「……リンゴください」
「オレンジ買っていきなさい」
「……メニーさん、お客さんの要望きこう」
「今ならオマケもつけるから」
「えっ、ほんとに?」
「ところでリンゴは何個? 12個? 24個?」
「いつも箱単位で勧めるのやめませんか」
「義賊は度胸よ?」
「……ごめんメニーさん、ちょっとわかんない」
「あ、そうだ。クルルカンちゃん、これってあなたの魔法のマントにしまえる?」
「メニーさんッッ!? そのマントの件、ここいらで有名なんですかっ!?」
「"義賊の嬢ちゃんに手紙と金を投げると、マントに吸い込まれて、お釣りが出るんだぜ!?"ってセッツメイが言ってた」
「ぐわぁぁぁあああ、あのやろぉぉおおお!!!」
「そんなことよりも────コレよ!!」
「スルーゼーのヤツ、覚えとけよ……。で……なんでこんなにいっぱい、すいかがあるんですか……」
「私ね、興味があるのよ。あなたの魔法のマント。"マジック・ヴェール"だったっけ? すごいわね。ホントに消えるのかしら。ぜひ見たいわ。さぁしまって」
「……キナくせぇ……」
「お願いよぅ義賊様ぁ」
「何なんですか! もう! えいっ!」
────シュルルルルルルッ!!
────シュバッッ!!
「……ほら、どうですか?」
「────……すごいわ。本当に無くなっちゃった……」
「はぁ……じゃ、出しますね」
「ちょっと待って、出さないで!」
「──はい?」
「いいの。違うのよ。それね、実は配達してほしいのよ」
「えっ……すいかをですか」
「誰でもいいわ。くさっちゃう前に、善良そうな人達に配ってちょうだい」
「……おい」
「日頃のご愛好に、たまにはお客さんに恩返ししないとね」
「……仕入れ過ぎたわね……」
「助けてください。あなた義賊でしょ」
「メニーさん、ほんとクビになりますよ……」
「だいじょうぶよ。あなたに何箱売りつけたと思ってるの」
「すいか、20個はありましたよ……」
「目の錯覚じゃない? ところで、開けてほしいジャムのフタがあるんだけど」
「え、えぇ? あ、はァ……」
「…………と、いうことがあったわけよ……わかる? 私は証拠隠滅に利用されたワケよ。果物屋の看板娘、侮り難しだわ。あれはイリュージョンよ。知らないうちに何箱も買わされるのよ……」
「かばぁぁあ───♡」
ブッシャ、ブッシャ。
「……ちょっと、こぼしすぎじゃない?」
『────分析完了。
────果肉の42パセルテルジが地表に落下。』
ほぼ半分、下に撒いてるじゃないの。
うわぁ砂が真っ赤じゃないのよ。
ひ、ひどいわね……。
「……ちょっとコラ、ちゃんとクチ閉じなさい」
「かばぁ」
ブッシャァァァ────。
「うわぁ……」
もっと、上を向いて食べぇさ……。
────バッシャバシャばっしゃばしゃ。
すいかを5つほど地面に撒き終えた魔物は、
めっさ綺麗な水で、口をゆすいでいる。
さっきまで怖かったけど、
どうやらかなり警戒を解いてくれたようだ。
……すいか5個とか、お腹壊すんじゃね?
透明の水にポッツリと存在する、白の砂の山。
そこから見上げると、太陽が降り注ぐ、
大きな空洞が照らされている。
「……さーぁてと。お空でも飛びましょうかね」
ここまで迷っちゃったら、
もう上から脱出して、
南に向かうしかないわ。
目に見える範囲の地図がわかっても、
全体の迷路の道筋がわからなければ、
結局、何ジカもかかっちゃうもんね。
「……かばぁ」
「うおっ、なんだなんだ」
知らないウチに、
随分近くまで擦り寄られていた。
この子、ヒゲすげぇな。
「かばば」
「ちょ、やめろ、お腹くすぐるな。私、おへそ出てるんだってばぁ!」
ヒゲでおへそとかピンポイントじゃないの。
やめなさい。
アブノさん、おへその装甲つくってよ……。
────ぐっ。
「────んん?」
お、おぅ。
足浮いた。
「ちょ、これって……」
こいつん顔で、
私の身体、持ち上げられてるんじゃ……?
私の身体を顔に乗せたまま、
信じられないことをされる。
こいつ────……、
────ぐいんっ!
──────私の身体、すくい上げやがった!
「──ちょおおおおおおおお──!!!?」
まるでカブト虫のケンカだわ。
ひどくない?
油断してたら、下からすくい上げられて、
空中に放り投げられたのよ?
あ、このまま食う気かこいつ!
せっかく、すいかの在庫処分させてあげたのに!!
……んぉ?
「……へぶっ!!」
食われはしなかったけど、
面でおちた。
いたい。
仮面しててよかった。
「……なんなのよ……わっ」
「かばばぁ──!!」
うぉ……どこだここ。
せ、背中の上か?
え、ちょ、ちょと……。
ズシッ、ズシッ……
────ザババァァ───ン……!!
「わぁ、水の中入っちゃったよこの子……」
『────敵対行動は見られません。先ほどの背負い投げは、胴体部への搭乗を促す行為と推測。』
「ほーぅ。背負い投げって何。技?」
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>>>ま、まぁそれはいいじゃない
これ もしかしてどこかに
案内してくれてるんじゃない?
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「あ……先輩の教えた言葉でしょ。もぅ、夜はそんなにクラウンと喋ってるの?」
『────クラウンギアより不服申請。確かに対話が発生する場合もありますが、それは大概仮面がひとり言を言い出すからです。』
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>>>前は格闘技や護身術について
そっちからきいてきたじゃないの〜
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「な、なんか、私の寝ている間に、色々やってんのね」
そもそもこの2人、睡眠する必要あるのかな?
『────あまり、役立つデータは得られませんでした。』
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>>>そ、そりゃあね……
ぼくは殴るより避けろ!
だかんね……
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なーんて会話をしてるうちに、
この魔物、すいすいと水を泳いでいくわ。
わぁ、きれいね。
かってに進んでくわ。
「なんか……楽しいな」
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>>>きみ ぜったい乗り物好きだよね
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「のりもの? 馬車とか? あれはキライよ、お尻がいたくなるもの」
『────進路解析中。
────湾曲したコースですが、徐々に南に進行中。』
「! それって────!」
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>>>出口 知ってるかもね こいつ
いやぁ さすがだよ アンティ
ぼくじゃ この方法はムリだったね!
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お、おお……!
道案内してくれてんの?
や、やりぃ!
「あ、あんた! ほんとに道、知ってんの?」
「かばぁぁ!」
「かばって何やねん……」
あ、いかんいかん。
なに普通に、魔物に話しかけてんだ私……。
変なクセついてるわね。
うさ丸とかのせいだな。
あいつぜったい言葉わかってるわ。
「この子、知能は高いのかな?」
『────言語は解析不可能判定。』
「……それって、ダンジョンの魔物のリストに、載ってないってことよね」
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>>>あ──……
たぶん、こいつ魔物じゃないんだよ
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「? 水魔法使ってるから、魔物でしょ?」
────キラキラキラ……
────シャラシャラシャラ……
「! いま、また空が見えたよ!」
『────順調に南下しています。巣に連れ帰られる可能性も危惧していましたが、可能性は低いと憶測。』
────ザバァアア──……
────スィ────……
「ふふ、すごいね。暗くなったり、明るくなったりするね」
『────同個体がいない事が不可解です。この魔物の生態系が確認できません。』
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>>>…………。
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「……ひとりぼっち、ってこと?」
ここは綺麗だけど、それは……
さびしい、よね……。
「あんた、ここにずっと住んでんの?」
────ジゃばぁぁあああ──……
………………。
「ちょっとアンタ、きいてんの?」
「かばぁぁ〜〜」
少しずつ、水に混ざる陽の光が、増していった。
セッツメイは、カイセッツと兄弟です(笑)(*´ 艸`)










