⚙⚙⚙ 遺跡をこえて ⚙⚙⚙
──ぺちぺちぺち。
『────アンティ。卵が焦げてしまいます。』
「──ッ。あぁ、やば……」
──ぺちぺちぺち。
エンマさんがくれた、
白い綺麗なフライパンの中で、
すっかり半熟を通り過ぎた目玉焼きが、
オーク肉と共に、音をたてていた。
フライパンは汚れやすいから、
白いモノは珍しい。
さっき底からみたら、
太陽みたいな、
シンプルでお洒落な模様が入っていた。
材質は全くわかんないや。
……よしょっ、と。
じゅ〜〜。
「……あや、たまごが別に焦げてない……」
おかしいな。
この黄身のかたさだと、そろそろ裏側に、
オレンジ色の焦げ目がついてるかなって、
思ったんだけど……あれ?
「ま、いっか。てぃ」
お皿に移し、
歯車からサラダが出現する。
今日の朝ごはんは、
・目玉焼き(バリカタ)
・オークテキ(ミニスライス)
・ポタタサラダ(ペッパー過剰)
だ。
お皿に移し、すぐ側にある黒の包丁と、
手に持つ、白のフライパンを見比べる。
ヨトギサキと、ダイオル。
金を包む黒の包丁と対となる、
光の装飾の、白のフライパン。
その意匠は、なんていうか、
食堂娘の感覚からしても、
シンプルで、とってもきれいだ。
かっこいいのに、とても使いやすい。
……製作者が同じだからかな。
なんだか、すでに長年連れ添った感があるよ。
「エンマさん、食堂に来たことあったんだなぁ……」
大聖堂の長椅子に座り、
目の前に浮いたいくつかの歯車に、
朝食のお皿を、キィんと乗せる。
私の朝食は、空中に浮いているように見える。
目玉焼きの黄身を、フォークでぶっさす。
白身から分離してしまった。
口に含む。
──うん、ボソボソだ。
「むんぐむんぐ……包丁と、髪と目を一緒に見られた時点で、色々アウトだったのよね……」
まさか、赤ちゃんの時に、会ったことがあるなんて。
そんなこと、事前にわかりようがないわ。
「ああ〜〜、身元全部バレちゃったなぁ〜〜……」
ちょっとうなだれながら、
オークテキを口に含む。
……うっま。
でも、今さら何言っても、しょうがないか……。
エンマさんどっか行っちゃったし。
『────高確率で、牛の斧の破片を回収に向かったと予測。』
「はは、職業病だよね」
私も、人が近づいてきたら、
自然に「いらっしゃいませ!」って、
言いそうになるよ。やらんけど。
この格好でそんな間違いしたら、
目立ち方がシャレになんないわ。
────しゃん!
────しゃん!
────しゅおん!
────しゅおん!
「おお……こっちのフライパンも、布でふいただけで、えらい音すんわね。ふふ、大事にしよう」
身元が思っきりバレてしまったけど、
実を言うと、その事より、
ヨトギサキを作った人に出会えて、
とても嬉しかった。
父さんと母さんが話してくれたドワーフが、
まさか、エンマさんだったなんて!
まるで、お話の登場人物に会えたみたいだ。
……ふふ、私もクルルカンなのにね。
手紙の最後の一文は、
私の格好を秘密にしてくれると書いてあった。
……信じるよ? エンマさん。
考えたら、私宛にお手紙貰ったのって、
初めてかもしんない。
なるほど……こんな大切な気持ちになんのね。
手紙を送られる人の、キモチ。
一人の"郵送配達職"として、
大切なことを学んだ気がした。
全ての調理器具は、カンペキな状態で、
私のスキルに仕舞われる。
いくつかの歯車が、私の身体にセットされる。
「────……」
改めて、大聖堂の中を見る。
やっぱり、綺麗だわ。
こんなトコロで料理したのは、
私くらいのもんかもしんない。
ふふ、本当にヒューガノウンが居たら、
怒られちゃうかもしれないわね。
壮大な空間の中で、膝を降り、
こんな時だけ、祈りを捧げることにした。
「どうか、無事にレエン湖にたどり着けますように……」
こんな格好じゃ、神様には、嫌われちゃうかな。
目をゆっくりと開け、
手をあてた乳装甲が目に入る。
あ、そだ……忘れてた……。
「"はぐるまどらいぶ"……」
──この乳装甲、包丁入るのよ!
「ね、ねぇクラウン……"はぐるまどらいぶ"って、歯車法のワザだったの?」
『────不明。ヨトギサキ同期時には、強制シークエンスが発生していました。初回起動と認識。クラウンギアは、シークエンスに沿ってアナライズしたに過ぎません。』
「え、えと……要するに、よぅわからん、って事よね……」
『────歯車法の基幹スキルには該当:無。ですが、何らかの影響が反映してることは確定。』
うん。
だってヨトギサキ、はぐるまになってたもんね。
そりゃ私のせいだわ、確定だわ。
─────────────────────────────
>>>そのおっぱいって 何製なの?
─────────────────────────────
「私のおっぱいは、私製だ……」
『────有罪。クルルカンを隔離します。』
─────────────────────────────
>>>え ちょまっ
─────────────────────────────
……やれやれ。
デリカシーのない義賊サマには、
ちょっと反省してもらってと……。
「うーん、確かに、乳装甲の材質って、よくわかんないのよね。金色ん所は、どうもドラゴンっぽいってのはわかるんだけど」
『────該当箇所の材質は、検索ヒット:無。ログにて、名称だけが判明。』
「名称──? そうなの?」
『────"さいしょのむねあて"、と。』
「あ──……」
確かに、どっかで見たことあんな、その名前……。
あ、あれだ。
ヨトギサキと交代しちゃった時の、
夢みたいな世界の中で見た、
アナライズカードで……。
たしか……。
"さいしょ の むねあて" に
"どらいぶ" が セット されました
実行しますか ?
▼はい
いいえ
「どらいぶ……」
乳装甲に吸い込まれた、はぐるまのカタチ。
────ここに、入れると、いいの?
「いま、"どらいぶ"って、持ってたかな……」
おおかみどらいぶ。
ほのおどらいぶ。
後は……サキのどらいぶ??
今まで、色々なモノが、はぐるまになっている。
「うわぁ、見事に試せないや……」
一つは花おおかみになっとる。
一つはうさ丸にあげちゃった。
一つはヨトギサキなので、ぜったいヤダ。
「うーん、運良くドロップしたら、ちょっと試してみよう……」
結局、乳装甲の謎はとけなかった。
ダメ元で、今度、アブノ店長に聞いてみよう。
製作者だもんね。
ドラゴンの装甲より硬いらしいし。
ほんとにもう、
なんて不明瞭な点が多いヨロイなのかしら。
『────アンティ。今の表現には、語弊があります。』
「──え?」
『────あのとき、アブノ・マールはこう言いました。"その胸当ては、どんな攻撃も通さないのだ"、と。』
「……? だから、とっても硬いってことでしょう?」
『────……。』
まぁ、それはさておき、冒険の続きだ!
私は郵送配達職だけど、
南で起こったであろう、魔物の異変?
には、とても気になる所がある。
目の前には、床に空いた、大きな穴。
──進もう。
ここまで、きたんだ。
「──さぁて、いきますか!」










