ひみつのれんめい こーへん! さーしーえー
むしゃくしゃしてやった
こうかいはしていない(つд⊂)
「うわぁ────ん!! ばかぁ────!! みみ! ほどきなさいよォ────!!」
「やれやれ……これだから、根が真面目な神官さんは……」
「にょ……にょんにょんや?」
人気のない早朝の教会。
非番のギルド受付嬢の前で、
一人の神官が、錯乱している。
「ああああ……我らがうさ丸さまがっ!? こっ、こんなっ、お労しいお姿にぃぃ……!? え、これ大丈夫なの? 耳、みみが!? ほどけるの? どっ、どうしたら」
「だいじょぶですよ。何度もやってますから」
「なんどもですってッッ!!?」
くらりと、倒れそうになる、
栗色のくせっ毛の神官。
────彼女こそが。
今やドニオスで一番の勢力となりつつある、
慈善組織『にょきっと連盟』の会長、
アマロン・グラッセ(19)、その人である。
彼女は数年前、
うさ丸の可愛さに、やられてしまった。
幸か不幸か、彼女の職場は、
教会という、最も多くの人々が、
足を運ぶ憩いの場であった。
彼女は時たま、うさ丸を連れ去っては、
教会にて、神が与えたもうた可愛さについて、
布教した。
神官の、頭の上に乗るうさ丸は、
ステンドグラスの光と相まって、
後光がさしていたという。
結果、一般人も含め、
たくさんの職業の人々に、
うさ丸を慈しむ心が育まれたのである。
その勢いは留まるところを知らず、
多方面に伝説を残す事となる。
菓子店"クリーメル"『にょきにょきパン』
中は蒸しニンジンを主体としたおかずパン。
菓子屋で期間限定販売されたのにも関わらず、
その圧倒的ビジュアルで、大人気に。
数日後には、お1人様2つまでとなる。
雑貨店"まじカル☆ニーナ"『にょっきりスープカップ』
ニーナちゃんが生産職と企画した、
うさ耳が可愛いスープカップ。
フタの裏にはニンジンの意匠が描かれている。
限定33個しか作られず、
今では、伝説の一品となっている。
服飾店"マール服飾店"『にょきっとうさ丸マフラー』
うさ丸の意匠が可愛いマフラー。
正面の引っかけをはずすと、
グローブとまんまるうさ丸とが分離する。
訳あって、本店ではなく、
教会と孤児院合同のバザーで販売されたが、
開始わずか、30フヌで、
全ての在庫が底をついた。
"うさ丸は、至高────"。
そう。
日々を生きるドニオスの街の人々に、
確かなにょきっとな心が、生まれつつあった。
だが──。
そんな平穏な日々は、
ある日、試練を迎える事となる。
「魔物は、やはり自然に返したほうがいいだろう?」
ドニオスギルドのマスター、
"ヒゲイド・ザッパー"が、
うさ丸野外放逐作戦を提言したのである。
これを耳にしたアマロンは、激昂した。
親友の受付嬢が、冷や汗をかきながら、
閉口するほどであった。
日頃、真摯で敬虔な神の信徒である彼女は、
この時ばかりは、神様そっちのけであった。
すでにうさ丸に心を兎掴みにされた者は多く、
彼女のこの街での影響力も相まって、
ギルドマスターの発言は、その日の内に、
ドニオスの端から端まで伝わる事となる。
同日、正午頃には、
女性冒険者中心の革命派集団が、
ドニオスギルドに押しかける事となる。
あまりの事態に面食らったギルドマスターは、
その真摯な眼差しに負け、
「わ、わかったわかった好きにしろ……俺は知らん」
と、実質、テイムされていない魔物の存在を、
黙認する考えを示した。
この時にうさ丸は、
哀れみの目を、ギルマスに向けたとされる。
それを見た者たちは、
この可愛さをわからぬとは、
確かに哀れな事だと、皆、納得したという。
歓喜の声が、わき上がる中、
アマロン・グラッセは『うさ丸至上主義』を提言。
その場の勢いで、
慈善組織『にょきっと連盟』が設立された。
うさ丸は、やんごとなき『宗主』。
アマロンは、連盟を導く『会長』。
キッティは、名付け親として、
『副会長』の座を守ることとなった。
ギルマスが溜息をし、
受付嬢の顔が引き攣る中、
そこには栄光を勝ち取りし、
気合いに満ちた集団のかけ声があったという。
「「「にょきっと! にょきっと!」」」
「にょきっとなぁ……」
そのツートップ……いや、スリートップは、
今、教会の一角で、菓子店クリーメルの、
特製キャロットクッキーを食べていた。
「あの……せめて、私が副会長というのは、やめにしませんか?」
「あああ、うさ丸さまァ……ふっかふか、にゅっくにゅく、ふふふふふふふふ……!」
「あ、聞いちゃあいませんね……」
「はぁ──い、うさ丸さまぁ! あ──ん♡」
「にょにょ! にょんむにょんむ……」
「帰りたい……」
落ち込む受付嬢。
にっこにこの女性神官。
神官にホールドされながら、
野菜クッキーを食べるラビット。
今日もドニオスは、平和であった。
「うさ丸を置いていくので帰りますね」
「──にょ、にょやッ!?」
「ちょっと待ちなさいキッティ! 確かにあなたはついでですが、相談したい事もあります」
「あれ? おかしいな涙が……」
「次の"にょきっと連盟"の"チャリティー"のアイディア担当は、我がドニオス教会になったのです!!」
「……だからどうしたと言うんですか。また孤児院のみんなと、バザーでもやればいいじゃないですか」
「あれは教会主催ではなく、あくまでも孤児院主催のイベントでした! 今回はガッツリ教会のターンですっ!」
「ターンて……」
「にょんにょんや? にょんにょんや……」
興奮している神官の話を要約すると、
今回の街おこしのイベントの案を、
相談したいという事であった。
受付嬢は、
普段職場ではしないしかめっ面をもって、
当然の意見を言う。
「そんなの、神官さん同士で相談すればいいじゃないですか……なぜ、私が呼ばれたんですか……」
「うさ丸さまがいないと、でる案もでないでしょう!」
「もうやだこの人……」
うさ丸がいればいいなら、
私はいらないじゃないか。
何故、たまの休日に、
日も昇らないウチから、
教会に出頭しなきゃあいかんのだ。
受付嬢の憂いは、尤もである。
「その顔は何ですかっ! 私も何も考えていない訳ではありません!」
「じゃあ、うさ丸はいらなかったじゃないですか」
「もうキッティ! 少しは乙女心をわかりなさい!」
「自分で精一杯ですよ……ひゃわわわわわ……」
「さいきん、黄金の義賊の格好をした冒険者さんがいると、耳にしました」
「……!」
思わぬ不意打ちに、目を丸くする受付嬢。
……なぜ、そんな事を言い出すのか。
「……それが、どうかしたのですか」
「! やはり、本当なのですね! クリーメルにたまにケーキを食べにくるそうですよ!」
「うわぁ、やりそう……」
受付嬢は思う。
あの奇っ怪な黄金の少女は、
秘密が多いワリには、
なかなか目立った行動をする。
ギルドロビーのソファで、
脚をおっぴろげて爆睡するし。
カウンタ上の天窓から、
いつも降ってくるし。
この前は、子どもに登られて、
人間の集合体みたいになってたし。
そもそも、あの格好と、
足音と見た目がうるさいし。
しかし、その目に宿るのは、黄金。
オレンジゴールドの、決意と優しさ。
それをベテラン受付嬢は、
とても、気に入っている。
「……で? その冒険者がいたら、どうだと言うんですか?」
「決まっているじゃあないですか!」
「?」
神官は、ずずんと立ち上がり、
腰に手をあて、胸を張り、
ふんぞり返って、宣言した。
「────"劇"をするんですっ────!!!」
「────」
受付嬢は、
明日、ギルマスに相談することを、
心に決めた。
「にょおおぉ───!!」
うさ丸さまが劇をご所望だ……(つд⊂)