ひみつのれんめい まえへん! さーしーえー
息抜き( º дº)ある組織の話です。
「────着いて、しまった」
肩からさげている、
膨らんだカバンが、重い。
今日、本当はここに来たくなかった。
せっかくの休みに、なんてことなの。
神さまに助けてほしいわけじゃない。
いざと言う時に、助けてくれるのは、
神さまじゃなくて、知識と、経験だ。
それを、私は、ギルドで学んだから────。
「────……はぁ……」
────なのに、私は。
いま、教会に来ている。
ドニオスギルドと、教会の位置は、
建物をいくつか挟んでいるが、
けっこう近い。
少し段差があるために、
普段はその存在を気にしないでいられるが、
こう、職場から近い場所に、
休みの日に呼び出されてしまうと、
気が滅入ってしまう。
仕方ない。
顔を出さなければ、
後で、えらい目にあうのは、目に見えている。
私は、開け放たれている、神聖な扉の高さまで、
自分の足で、階段を登らなければならなかった。
足取り重く、登りきる。
大きな茶塗りの装飾扉は、
誰も、拒むことはない。
当然だ。ここは、教会だから。
誰にでも、開け放たれている。
心に重みを抱える私にさえも。
──カツン、カツン……。
──コツン、コツン……。
石の並べられた、美しい床を歩く。
長椅子で両側を囲われたここでは、
自然と、中央の道を行くしかない。
教会には、誰も、いなかった。
当然だ。いくらなんでも、早朝すぎる。
私も、こんなバカげたことは、
早く終わらせたかった。
そして、はやく私の、
ささやかな休日を、取り戻さなければ────。
……。
ああ。
ああ。
いた。
動かない。
さいしょから、立ってるわ。
ど真ん中だ。
真ん前に、もう、いたんだ。
この子は、
笑みを浮かべ、微動だにしない。
正直、カンベンしてほしかった────。
「……やっと来たのですね。キッティ……」
「アマロン……」
朝日が、薄暗く照らす、
ステンドグラスの下で。
その神官は、歓喜を浮かべて、言った。
この女性の神官とは、3年程前からの付き合いだ。
私と歳が近い事もあり、
職場が近かった私達は、
自然と、仲良くなっていった。
たまに昼休憩の時に、ギルマスの目を盗み、
ちょっと、教会までご飯をたかりにいったり。
逆に、向こうが遊びにきて、
ちょっとギルマスの目を盗み、
休憩室でお茶なんかをしていたものだ。
しかし、あの事件が、
私達の関係を、
ガラリと、変えてしまった────。
「……キッティ。まだ、私に見せてくれないの?」
「────っ……」
この会合も、もう何度目になるだろうか。
そう、会合。
私は、ある組織に、属している。
ギルドの事ではない。
私はなんだかんだ、
ギルドの受付嬢であることを、
誇りに思っている。
出来れば、この女の組織から、
足を洗いたい。
しかし、それは難しい。
私達の組織は、規模を、拡大しすぎた。
このドニオスを隠れ蓑に、
かなりの同志が、名を連ねている。
今も、その規模は拡大を続けている。
私が何故、そこから逃げ出せないのか。
────理由は、とても簡単だ。
目の前にいる神官が、組織のトップ。
……私が、ナンバー2だからだ。
組織の皆が、それを、知っている。
冒険者の中に、同志は多い。
私がギルドで働き続けるためには、
そう簡単に、この肩書きをすてるわけには、
いかなかった。
「……ねぇ、アマロン。もう、こんなこと、やめませんか?」
「……─────?」
目の前の神官が、ゆっくりと、首をひねる。
「……──なんと、言ったの? キッティ……」
「アマロン……私はただ、ゆっくりと、休日を謳歌したいだけです。こんな、夜と朝の狭間に、私達が会って、どうなると言うの」
「…………」
無言の瞳が、痛い。
私は、負けてはいけないと思い、
でも、何もしゃべれず、
言葉を待った。
彼女からもれた言葉は、
芝居がかった悲しみに、
満ち溢れていた。
「……キッティ。あなたは、いつも一緒にいられるじゃない……私がっ、いつも、どんな気持ちで、この教会にいると、思っているのです?」
「それは……」
「キッティ……私たち、ともだちでしょう。私を、悲しませないで…………」
「く……」
そう……あなたは確かに、友達よ!
でも、私だって、たまにはゆっくり、
お昼まで寝ていたい日があるわっ!
あなたが、あなたがこうなってしまったから……!
────コツ。
「────っ!」
───コツ、
────コツ、
─────コツ。
アマロンが、私に背を向け、
石の並ぶ道を、歩き出す。
僅かな段差を登り、向き直る。
あそこは、聖書を読むための、
台のようなものだろうか……?
その台を挟み、私と、彼女が対する。
「……キッティ、さあ、はやく……!」
アマロンが、両手を横に広げ、
私に、求めてくる。
ああ、私には、彼女が求めているものが、
全部、わかっている。
そして、それを今日も、
ここに、連れてきて、しまった。
「……どうしても?」
「くどいわよ?」
…………。
確かに、アマロンは、友達だ。
私がギルドで頑張ってこれたのは、
この子との関係があったお陰といっていい。
どうして、こうなってしまったのか。
……私は、どうすればよかったのか。
────くやしい。
この悔しさを、
どう、ぶつければ、いいんだろう。
あ────、うらやましい!
同僚はみんな、
「昨日の休み、昼過ぎまで寝ちゃったよ──!」
「気づいたら夜中まで本を読んじゃってね」
とか、気楽に言ってくれちゃったりして!
私は、この悪友のために、
毎日早寝超早起きなんだぞ!?
そりゃカウンタで居眠しますよっ!!
夜更かしとかしてぇ────!!!
私の中で、ふつふつと湧き上がる何かがあった。
決意を、固めた。
「……ふ、ふ、いい、わよ」
「──キッティ?」
ふん、アマロンが、首をキョトンとひねってる。
騙されない。
そんな仕草で、私はほだされない。
今日、私は、アマロンに──……、
一矢報いるんだ────!!!
「ほら……! あなたが、いつも、求めているものよ……!」
「わ、ワクワク……!」
ふっ、そのキラキラした眼差し……。
いま、目にもの見せてやる────!!
ガバッッ!!
「────くらぇっ!」
「────ッ!!?」
────ぽむん。
「────秘技、うさきんちゃく!!」
「にょや……」
「……………………」
教会の中に、早朝の静寂が、
一瞬だけ、戻った。
次の瞬間────、
「──いゃぁあああアアアッ!? うさ丸さまの、耳がああぁぁああああァァ────!!!??」
────もふもふ好きの神官は、絶叫した。
( º дº)<アレッ










