表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
249/1217

と、とんだぞっ!?

 


 私の手に握られた、金を包む、黒の包丁。



 この肉を、サキで(さば)く事に、

 思う所が、ないわけじゃない。

 でも、ここでやらなかったら、

 逃げてるだけのような気がした。


 大きな肉に、包丁を向ける。


「……──ぬ、し……」

「──え?」


 ヨトギサキの事に思い浸っていて、

 エンマさんの異常に、気づくのが遅れた。

 え……な、なに……?


「え、エンマさん?」

「お、お、おぬし……どこでそれを……!!」


 エンマさんは、私の包丁を指さして、

 ぷるぷると震えてる?


 ……っあ!

 え、エンマさんって、旅の鍛冶屋なんだよね!

 も、もしかして、ヨトギサキ……この包丁が、

 "魔刀"だって、気づいちゃったのかな……。

 私の脳裏に、初めてサキを見た時の、

 ヒキ姉の顔が思い浮かぶ。


 ま、まさか、エンマさんも刃物マニア……?



「あ、あのですねエンマさん、この包丁はですねぇ……」


「……──盗んだのか(・・・・・)──?」



「は         ──?」



 ────────、


 ──────、


 ────……は?



「……はァ?」



 あんまりの言葉に、


 素で、あんぐりと口があいた。


 この、ひ、と……なに、いってんの……?



ぬす(・・)()()──?」


「お、おぬし、その包丁は、ただの包丁ではない! 見よ! その空気をも裂きし、優美なる刃を! ヌシほどの実力者じゃ! その刃の価値に気づき、手に入れよったな!?」

「な、な!? え、エンマさん、急にどうしたんですかっ!? なんで、そんなッ!!?」


 驚きがある。

 さっきまでのエンマさんは、

 ひょうきんで、愉快なドワーフさんだった。

 なのに何故か、今は、"怒り"のような覇気を感じる!

 えっ、えっ!?

 ────怒ってる(・・・・)、の!?

 なに!?

 なにが起こったの!?


「おっ、おぬし! それは、おぬしのような者が持っていてよいものではないっ!! やはりおぬし、盗っ人の(たぐい)であったか!!」


「なっ……!!?」


 な、何なのよいきなりさ!!

 これは、私が父さんと母さんから譲り受けた、

 大切な包丁だ!

 何故、私が持っていちゃダメなんだ!!

 かなり、カチンとくる!


 ああくそっ、でも、

 実家の食堂の事は、もちろん話せないし……!


 な、なんでエンマさんは、

 包丁を持っているだけで、

 こんなに私に突っかかるんだ!?


 まさか、魔刀だからなのっ!?

 危なそうなスキルを持っているから!?

 でも、この包丁に宿る意志は、

 優しく、高潔だわ!

 何も、危険なことなんてない──!!

 それを、いきなり盗っ人呼ばわりなんて……!


「たっ、確かに私はこんな義賊の格好をしています! でも、これは、盗んだモノなんかじゃありません!」

「いいや、信じられんっ! 現に、それは……!!」


 エンマさんの表情に、明らかな怒りと、

 疑いの眼差しが見て取れる!

 な、によ、何なのよぅ……!?


 あ、サキを、ずっと右手に持ちっぱなしだった。

 こんな、怒ってる人の前で、

 包丁を持って、しゃべりたくない。

 相手を刺激しそうだ……。


 とりあえず、横にあった大聖堂の長椅子の上の、

 お肉とまな板の横にヨトギサキを置き、

 エンマさんの方へ向き直る。


「エンマさん、急に何なんですかっ!? おかしいですよ! いきなり怒りだして!」

「おかしいのはおぬしじゃあ! なぜ、それを持っておるのだ!」


 …………ヴヴヴヴヴヴヴ……。


 ん? なんだ、この音……。

 え、あ、いや、それどころじゃなァ────い!!!


「え、えと、この包丁はですね……」


 ジロり、と。

 エンマさんが、長椅子の上の包丁を見る。

 その後、もう一度、私の方を見た。

 ご、ごくり……。

 髭面のドワーフさんの顔って、

 怒るとかなり怖いぃ……!

 な、なんでよぉ、なんでそんな顔で見んのよぉ……!


 …………ヴヴヴヴヴヴヴ……。


 突然の怒りを受けて、

 私は完全に萎縮してしまっていた。

 それを見計らったのか、

 エンマさんが行動にでるっ!


「とっ、とにかく、これは返してもらうっ(・・・・・・・)──!」


「──えっ、ちょ──!?」



 エンマさんが、置いてある包丁に、

 ゴツい手を伸ばす────!!!



 ────その時、


 ──えらい事が起きた────。


 置いていた包丁が────……、




 ─────────ぴょ─────────んっ!!




「─────なっ────!?」


「────っわっ─────!!!」




 ─────私の方に、すっ飛んできた(・・・・・・・)──!!




「ちょ! おっ──!」


 いきなりの事に、ビビる!

 うおっ、旋回しながら、包丁がくるっ!!


 ─────ひゅんひゅんひゅん、


 ────────────────パシッ!


「…………ほっ」


 元通り(・・・)、私の右手に、戻った(・・・)……


 な、ナイスキャッチ、私。



「な……な……?」


 エンマさんを見ると、流石に、驚いたみたい……。

 包丁が、ひとりでに飛んで、私ん所にきたからね……。

 さっきまでの怒りの表情は抜け、

 いまは、呆気に取られてる。


 …………ヴヴヴヴヴヴヴ……


「わっ……」


 エンマさんの表情に気を取られていると、

 手の中の家族の、異変に気がついた。


 ────ふるえてる(・・・・・)……?


「……あの人が怖いの? サキ……」


 小声で、包丁に話かける。

 でも、エンマさんにも、聞こえていたかもしれない。

 小刻みに震える包丁は、

 私の金のグローブと触れて、

 微かな振動の音を、周囲に響かせていた。


「……ふるえて、おるのか?」


 ほら、エンマさんにも、聞こえちゃってる。

 でも、今のエンマさんには、

 さっきまでの怒りんぼうな感じはしない。

 ……説明するには、今しかないわ。

 ええと、食堂(じっか)のコトは言えないから……。

 恐る恐る、しゃべりだす。


「あの……エンマさん、詳しくは話せないんですけど、この包丁は、ある大切な人達から、私が直接、受け継いだものです……」


 惚けた顔で、エンマさんが、私を見る。


「……"受け継いだ(・・・・・)"、とな……?」


 あ……話きいてくれそう。


「……はい。その、この包丁が貴重なモノだと、確かに私も理解しています。でも、断じて……断じて! 盗んだりした物じゃあ、ありませんっ……!」


 少し、語尾が荒んだ。

 気持ちがこもってしまったんだと思う。

 これは、父さんらから譲り受けた、

 私の誇りのようなものだ。

 それを、盗んだなんて、思われたくはない。

 それに、この包丁には、優しい魂が、宿っている。

 もう、充分すぎるくらい、愛着があるわ。

 私以外の、誰にも触らせたくはない。

 あの、夢の中で会った、気高い(おもむき)の彼女が、

 こんなに、震えてしまってる。

 今度は、私が守ってあげなくちゃ。


「わたし、この包丁が、大切です……! もう、家族みたいなモン(・・・・・・・・)です! この子、とても怖がってるわ。エンマさん、どうか、落ち着いてください……!」


「"家族"……」


 エンマさんは、まだ惚けた顔で、

 指をさしたまま、止まっている。

 でも、今見ているのは、包丁じゃない。


 ……()

 ……私を見てる……?


「……"受け継いだ"……"家族"……"金の目"に、"金の髪"……? お、おぬし、まさか……?」


 な、なによぅ、なんなのよぅ……。

 ボソボソ言ってて、よくわかんないわ……。

 クラウンなら聞き取れたかな。


 エンマさんが、

 なんて言ってたかクラウンに聞こうとしたら、

 いきなりエンマさんが─────、




「……────どわっはッッはッはっはっはッッ!!!」


「──うえっ!?」



 ────腹を抱えて、大笑いし始めた。



「どはっはっはっはっは!!! そ、そうじゃったか! な、なんじゃ今のは!!? と、飛びよったぞ!!? ほ、包丁がっ、どわっはっはっは、ぴ、びょ───んて!!! どわっはっはっは────あ!!!」


 う、うわぁ……!

 何なのよこの人……。

 さっきまで、めっちゃ怒ってた風なのに、

 いま目の前で、床でガッシガッシ、

 笑い転げてるんでスけど……。


 …………ヴヴヴヴヴヴヴ……!


 わぁ。

 ヨトギサキ、めっちゃ震えてるわね……。

 大聖堂中に響きまくる、

 エンマさんの笑い声が、怖いのかなぁ。


 な、なんか印象と違うな。

 夢で会ったヨトギサキは、

 凛としていて、ちょっとやそっとじゃ、

 怖がったりしないような、

 かっこいい系の、女の人だったんだけど……?


「……あ、あの、エンマさん? なんか、この包丁、エンマさんが怖いみたいなんです。デカい声で笑うの、止めてくれませんか?」


「どわっはっはっは──!!! そっ、その包丁、ワシが怖いと抜かしよるかっ!! どわっはっはっは───!!! こらたまるか!! どわっはっはっはぁ──!!!」


 …………ヴヴヴヴヴヴヴ……!


「…………」



 その後、


 エンマさんが、5、6フヌ笑い続けている間、

 ヨトギサキは、ずっと震えっぱなしだった……。



 なんなん……。

 どうしたんさ、ふたりともぉ……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ