ピンク姉妹 さーしーえー
エンマさんに呼ばれて、祭壇にあがる。
……昔、この、学校の教壇みたいな所で、
偉い神父様が、説法とか、していたのかな?
通り越して、白い石の円がある所に────。
──石の円……?
「こっ、これって……!!」
驚いた。
だって、とっても見覚えのある物が、
あったんだもの。
魔法陣みたいなモノが書いてある、
この足元の、白い石の円────!
「……"能力おろし"を、する場所、だわ……」
間違いないと、思う。
これは、能力おろしをする魔法陣だ。
私が、全く、わからないからだ。
魔法陣の座学は頑張ってたほうなんだけど、
ドニオスの教会のものと一緒で、
能力おろしの魔法陣だけは、
ちんぷんかんぷんだった。
教科書のどこにも、
この術式に似通った魔法陣は、
載っていないもの。
「……こんな遺跡の地下に……大昔も、魔法が使えない子たちが来て、助けてもらってたのかな……」
魔無しだった自分にとって、
なんだか感慨深い場所だわ。
思わず、立ち止まって見ていると────……。
「おぅい、どした、こっちじゃぞ」
「ハッ」
すぐ前にいるエンマさんに、
不思議そうな顔をされていた。
「ほれ、これを見ろい!」
「?」
でっかいヒューガノウンのステンドグラス。
その真下の祭壇は、まさに、豪華絢爛だわ。
近づくと、
壁の時限石だらけのレリーフに負けずと、
かなりの彫刻がされてて、
何やら自分が、
ずいぶん場違いな場所にいるんじゃないかと、
不安になるような神聖さだわ……。
失礼な言い方だけど、
ここいらの彫刻にさわったら、
バチが当たりそうで怖いわね。
「すごい根性入ってる彫刻ですよね」
「ちがわい!! そうじゃのぅて、ここじゃ、ここ!」
な、なんなのよエンマさん。
てか、あなたが乗っている長方形の石……
それ多分、カンオケが乗る所ですよ……。
おっかないわね……勘弁してください。
もう呪われませんよ、私は。
んん……? あ!
もしかして、アレ?
「その、小さな檻の中の……」
「そうじゃ! あの緑の原石と、同じものじゃ!」
豪華な彫刻に飾られた祭壇の、
私の胸元辺りの高さに、
小さな小さな、檻があるわ。
頭くらいの大きさの、ちっちゃな檻だ。
その中に、台座の上に乗った、
緑色の原石がある!
形は違うけど、
私達が持っている原石と、
確かに、同じような質感だった。
「これはおもしろいのぅ……! この檻をあける、仕掛けのようなものが、どこかにあるはずじゃ!」
「え、この原石も、とるんすか……」
「ここまできて、何を言うておろう! さあ、探すとしよう!」
こ、これ、本当に盗人にならないんでしょうね……。
この教会、どう見ても歴史的価値があるでしょ……。
だいじょぶかなぁ……。
この教会と一緒に、
私達も、教科書に載るんじゃないの……。
ごっそごそと、
周囲をあさりまくるエンマさんを眺め、
両親に顔向けできないような悪い事は、
したくないなぁと、心配しはじめた頃。
エンマさんが何かを見つけたらしく、
ニカッっと笑ってこっちを向く。
「おいっ! 見ろい! ここの下のじゃ!」
「はいはい、なんですか……」
さっきの教壇みたいな所の下を、覗き込む。
「ほれ、ここ」
「! ハンドル、ですか?」
直径30セルチくらいの、
青く錆びついたハンドルが、
下に隠れるようにあった。
カーディフの街にある、
ハンドル式の水引きポンプを思い出す。
くるくる回すと、水がでてくるやつね?
よく見ると、歯車が何個か、
組み合わさっているみたい。
エンマさんが、ハンドルに力を込める
「どむむむむむむ……」
「…………」
なんちゅう掛け声なの……。
ハンドルは、まっったく回る様子がない。
「〜〜〜〜ッ!! っはぁ、はぁ……こらぁかたい」
「錆びてますね……や、やめときませんか?」
「! そうじゃ、おぬし、これを回せるのではないか!? あの岩を砕くほどの力じゃろう!」
「うえっ!」
ちょ、やめてよ……!
ホンモノの盗人の仲間入りしちゃうじゃないのよ!
え、こら、ちょ……。
「このとおりじゃ〜〜!!」
「…………」
……ふぅ。
何だか色々、頼まれまくってるわね、私……。
ううう、仕方ない……。
故郷の父さん、母さん、ごめんなさい……。
持ち主、いないみたいなんで、大目にみてねぇ……。
切ない気持ちで、ハンドルを握る。
よしょ……。
ググッ……!
ギ、ギ、ギ……!
「お、お! 少し、回ったぞい!」
「そ、そうですね。も少しチカラ、入れてみますよ?」
ギギギギゴゴ……!!
ガッチャチ……!!
「! 今、祭壇の檻が、少し上がったぞい!」
ホントにあそこの檻の仕掛けだったのか……。
わかりやすすぎでしょ。
もっと隠し場所、考えなさいよ。
簡単に見つかったせいで、
私、窃盗紛いの事してんだけど……。
─────────────────────────────
>>>いやまぁ いーじゃない!
こんな大発見してさ!
何も貰わない手はないよね〜〜
─────────────────────────────
元、盗賊が何か言ってるわね……。
ううう、エンマさんは、
檻を食い入るように見てるしぃ……
なんで私がこんな事を……ぐすん。
ええぃ、ちくしょう!
ガガゴゴゴ──!!!
──べきッ。
「あっ」
──────
>>>あ
──────
『────あ。』
おれたわ。
「──"反射速度"ッ!!」
──きゅいいいん……!
──カチッ。
ギリりりり──……!
「なんじゃ!? 今、一瞬、ガクンって! 檻が、ガクンってなったぞ!?」
「ア──イロイロ、イタンデンジャナイッスカネ──」
『────……。』
>>>…………。
おい無言やめて視界に出てるよ。
私は遺跡こわしてなんかないの。
ぜ、ゼッタイ教科書には、載らないわ!
ギリゴリギリゴリギリ……!!
ダリャリャリャリャ──……!!
「お、おし! 今じゃ──!」
エンマさんが、祭壇にポッカリと空いた穴に、
筋肉質の手を突っ込み、緑の原石を取り出す!
ばぎゃ、バキャ──!!
ガッチャン!!!
「──おっ、うおおっ!」
エンマさんが、腕を引き抜いてすぐ、
何かが壊れる音がして、
小さな檻が、大きな音をたて、おりた。
どうやら、祭壇内部の歯車の仕掛けが、
耐えきれずに壊れたみたいだ……。
ほっ……。
「ず、ずいぶん、老朽化してたみたいですね」
「──ぉおおお、危うく挟まれるところじゃったぁあ!!」
へし割れた歯車の代わりしていた歯車を、
そっと消して、エンマさんに近寄る。
「ホント、同じ石だわ……」
「うむ……何やら、変な形をしておるのぅ……」
うん、今まで持っていた原石よりも、
ずいぶん細長いわね。
何だこの形。自然界では、
こんなふうに原石ができるのかな?
うーん……。
──タッタッタッ……。
……ん?
『────警戒。動体有。』
「────────!!」
クラウンが、そっとした声で、危険を告げる。
─────────────────────────────
>>>嫌なタイミングだな
石を取った瞬間だよ……
─────────────────────────────
ヤなこと言わないでよ先輩ぃ……。
私もそれ、気になってたんだからぁ……。
ど、どこだ……。
「……娘っ子、どした。何を天井の方を見ておる……?」
「……エンマさん、やばい、何かくる」
「……なんじゃと? ワシには何も聞こえ……」
────タッタッタッタッタッ。
「「────!」」
────タッタッタッタッタッタッタッ。
────上か……?
「エンマさん、私の後ろに隠れて」
「バカいうでないわ……こんな娘っ子に、庇うてもらえるかい……!」
エンマさんが、
持っていた大きなハンマーを構える。
……ちぇ、無理しないでよ?
「クラウン、ベアークラッチたのむ」
『────レディ。再構成。』
キュウオオ──……シャキンッ!
ステンドグラスを見るために、
上半分を解いていた視覚域拡張野が、
透明の、細長いアナライズカードで、
再び、構成される!
いきなり頭の後ろから、
魔物に掴みかかられたような錯覚に陥る。
……少し、ビクッとした。
まだ慣れないわ……。
────────シュッ!
視野が拡大した瞬間、
真上から、それは落ちてきた。
大丈夫。冷静に対応できる。
「避けるよ」
「──……!? うおっ!!」
エンマさんの服を掴み、後ろに飛ぶ。
────タァァァァ────ンン──!
彼女らは、教会の床で、両足をつかい、
きれいに、衝撃をコロしやがった。
……やれやれ、やっぱり、この方たちでしたか……。
「 キルル……キルル……キルルルル…… 」
「エンマさん、多分お相手は……十四姉妹よ」
「……はっ! 親御さん達は、よく頑張ったモンじゃのう!」
「……それ、女の子の前で言っちゃダメだかんね?」
私とエンマさんは、構えた。










