聖域 さーしーえー
誤字報告あざます(;^ω^)
みとてれ→みとれて(笑)
みとれて、いたのだ。
2人で。
ああ、
これは、すごい。
「…………」
「…………」
ここに来た時は、
この存在に、気づけていなかった。
私の進化した視覚は、
暗闇の階段の下に、
おおきな、球状の物体があることをつげた。
「エンマさん、下に何か見えたよ! おおきな……まん丸の何かが、階段に繋がってる!」
「まん丸、じゃと!? それは確かか?」
「う、うん、すごい綺麗な、球体……えと」
"視覚域拡張野"に、
即座に形状分析がされていく。
おお……暗闇の球体の表面に、
スパイダーの巣みたいな模様の、
光の糸が表示されてるわ!
この光の模様とか文字、
私の視覚にしか映ってないのよね?
今、形状、材質、距離、を調べてるみたい。
クラウンが、この中から、
私が一番知りたい情報をアナウンスしてくれる。
『────対象直径:100メルトルテ単位です。誤差がないと思われます。』
「ちょうど、100メルの直径……すごい……」
暗闇の中に、わずかな光を放ち、佇む、球。
すごい、存在感だわ……。
真っ暗で、底無しの、怖い場所のはずなのに、
一瞬、それを忘れるほど、見入った。
よくよく見ると、その大きな球体には、
輪っかのような円盤がついていて、
水平に、球の中間についていた。
普通の丸いラワムギの帽子を、2つ重ねたら、
あんな形になるな、と、思った。
─────────────────────────────
>>>まるで、惑星みたいだ……
─────────────────────────────
視界の、光の会話記録に、
クラウンと先輩のしゃべった通りに、
文字が表記されていく。
先輩の言葉のイミは、よく分からなかった。
やがて、エンマさんの肉眼にも、
目の前のおおきな存在が像を結びだす。
「……信じられん。娘っ子よ、本当にあれは、100メルぴったりの幅なのか」
「うん、そうだよ。なんで?」
「……重さをどう支えているのかも気になるが……あれは真球だ。どう見ても、まん丸だ……」
だ、だからそう言ったじゃん……。
「ワシは鍛冶師だからわかる。正円、真球。これらを作ることは、非常に困難じゃ。おっそろしい技術と、根性と、閃きがいる……完全な球など、この世には存在せん。球を作るというのは、途中で妥協するという事なんじゃよ……」
「……"完全な球"は、作れない……」
「そういうことじゃ」
ドワーフさんの言葉に、
経験からくる重さを感じる……。
そっか……。
どんなに綺麗に見えても、
どんなに努力を重ねても、
完全な球は、作れないのね……。
細かい所を見ると、
どこかが凹んだり、
どこかが傷付いたり、してるってことね……。
今の言葉だけでも、"球を作る"っていうことの、
奥の深さが垣間見えちゃった。
「しかし、あれはなんじゃ……娘っ子、あの大きさは、作れん。普通ではない……。しかも、まさかとは思うが……あれは、"真球"ではないのか? ワシは今、生まれて初めて、"ホンモノの真球"を見ているのかもしれん……」
「そ、そんな、大袈裟な……!」
「娘っ子よ、スマン。こればっかりは、言葉じゃ説明できん。感覚じゃ。ワシも、随分、もの作りに関わってきた……。感じよるんじゃ……ぴりぴりとした、美しさを……!」
「…………」
「どはは……おかしいと思うじゃろう。あんな大きな物を、こんなオヤジが見ただけで、完全だとわかるのか、と……」
「…………いえ」
…………。
……多分、
"感覚"が、最後に、くる。
何かを、極めた人ほど。
生き物の、根幹だから。
理論より、
訓練より、
数値より、
最後に、それがくる。
私だって、食堂の調理場から、
一番遠くのお客さんの小鉢に、
生卵をすっ飛ばすくらいの事ならできる。
「てぃやっ!」ってすれば、
入るよね。
それは経験や、情報や、
色んな事が絡んでくるけど、
それが集約されて、表れるトコは、
"感覚"だ。
そんなふうに、思って。
今のエンマさんの言葉を、
私は、否定できなかった。
……言っとくけど、
卵、落としたこと、ないかんね。
「おお……! あの、周りの円盤のような所に、この階段が繋がっとるの!」
「ええ、いきましょう」
エンマさんのブーツが、ゴツゴツ、と。
後から、私のブーツが、キンキン、と。
暗闇を、裂いて、進む。
円盤に、降り立った。
すごい。黒い。でかい。
暗いから黒いと思ってたら、
どうやら、この球も、
今、立っている輪っかも、
真っ黒のようだった。
だってそう書いてあるもん。
この視覚域、メチャ便利。
『────環状構造物に到達。
────小惑星帯とは異なり、滑らかな表面です。』
しょうわくせいたいって、何やねん。
─────────────────────────────
>>>環の幅……70メルトル!?
また綺麗な数字だねぇ……
─────────────────────────────
え、先輩……その言い方を使うの?
……"環"?
"輪"じゃないの?
『────等間隔に、建造物:有。』
「? 建造物?」
「見よ、娘っ子……」
「! それって──!」
……こわいけど、神秘的ね……。
階段から降りてすぐ、
女の人の、立像が建っていた。
簡素なデザインで、表情はないけど、
でも、独特の魅力がある造形だわ……。
シンプルに「魚とごはん!!」
とかのほうが、心に響くのと一緒ね……。
「! この女性像、左右で、一対になってるね!」
「ああ……しかも、その後にも、ずっと続いておる……」
「! ホントだ……!」
クラウンの言った通り、等間隔だわ……!
階段終わりの、左と右。
それの後ろに、また、同じように。
それの後ろに、また。
また。
また。
また。
…………。
「"道"、じゃろうな……」
「この像の、間を通ればいいの……?」
「……行ってみるしかあるまい」
「……はい」
きいん きいん。
ゴツゴツ ゴツゴツ。
すすむ。
すすむ。
すすむ。
像は、全部で14体あった。
最後の、7番目の一対に並ぶ頃、
目の前に、四角い光の筋が入る。
「──エンマさん」
「……うむ、ワシにも光の筋が見えるぞ」
「え? じゃあ──……この光って────……」
────────魔法のひかりじゃ、ない?
そして、真の球は、崩れ、
扉は、開かれた────!
──────────────。
「…………」
「…………」
どうやって入ったのか、
あんまり、覚えてない。
目の前に広がる光景に、
惹き込まれていたんだ。
この、巨大な、ステンドグラスに────!
「……ここ、教会、だわ……!」










