打ち上げアンティ
───うあああ、やっちまったわ!
「ほれっ、ほれっ!? 娘っ子! どこじゃ、どこが光っとるのじゃ!!」
拝啓、
故郷の父さん、母さん。
私は今、
むっさテンション高いドワーフさんと一緒に、
遺跡の、ボッロい街の中にいます……。
ま、おわかりだと思いますけどね……
"眼魔"が、発動してたワケですよ……。
もらった緑色の宝石? の原石から、
ポヤポヤと、湧き水の泡みたいに、
緑色の光が出ていたワケで……。
それを、うっかり言っちゃったのよ……。
しかも、遺跡の街で、
同じような光を見たのも、
その流れで、言っちゃったもんだから……
「どっふぉおお───!!! 楽しみじゃの楽しみじゃの!! どーこぞにあるかいの! わんが愛しの鉱石ちゃんワぁ────!!?」
「うん、やらかしたわ……」
エンマさんのテンションが、ヤッバい。
わかる?
ちっさい筋肉質のおじさんが、
ゆっくりげんなり歩く私の周りを、
ぴょんぴょん跳ねながら回転してるのよ……。
なんで軌道がズレないの……
ドワーフの歩行術、マジで謎だわ……。
「────ああ、もぅ!! 周りで飛び跳ねないでくださいッ!! 落ち着いて移動もできやしませんッ!!」
「いやほほほ! そんに堅いこと言うなてぇ! おぬし、まさか隠れた魔力を見る力なんぞ、持っておるとはのぅ!!」
「──くっ────!」
先刻の自分の迂闊さが悔やまれるッ!!
こんなおじさんぴょんぴょこ状態になると知っていたら……!
うう! なんでだ!
なんで、眼魔はいつも、
いきなり発動するのよ!?
仮面のバカぁぁあ───────!!!
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>>>いや……そこは自分で気付こうよ……
光ってる段階であやしいでしょ……
クラウンちゃんもそう思うよね?
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『────……。』
「────ッ!!」
我が心の相棒である、王冠の、まさかの沈黙。
クラウン……あ、ん、た。
その沈黙は、『肯定』ってイミ……!?
いつもやってる、『────肯。』ってやつ!?
そんな……仮面先輩と、グルになるなんて……!
「………うう、ぐすっ」
『────ァ、アンティ。その判断は早計と判断。』
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>>>クラウンちゃん?
判断でサンドイッチなってるよ?
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く、くそう!
もぉういい!
私はスネる!
ええ、ええ、どうせ私のせいですわ!
「どっふぉふぉお────い!! 鉱石鉱石ィイ──♪♪♪」
うううっ!
何なの、この私の周りを飛び跳ねる筋肉は……!?
誰か説明して……
『────サイクロイド曲線です。』
わっっかんねぇぇ……。
「みてくるから、待ってて」
騒ぐ筋肉に、私は言う。
さっき、私たちが居た砦跡は、
街に比べると、高度があった。
ま、その上に、さらに崖があるんだけどね。
よするに、高いところからの方が、
あのポヤポヤ光玉は観察しやすいってこと。
「どうするつもりじゃ?」
「上から見るんですよ」
「上からじゃと?」
さっき、砦から見た、緑の光の泡は、
そんなに大きくは無かったわ。
多分、ヒゲイドさんの身長くらいかな?
大体の場所を目指して来たら、
けっこう瓦礫や建物跡が多くて、
光が見えなくなってしまった。
近いと、見えにくくなるものって、ある。
昔、ルーンバタフライを追っかけてて、
近づいたら、どの花にとまってるか、
わからなくなったことがある。
そういう時は……!
「────上に、離れるのよ!」
せ──……よぃ──……の──……!
キィィィ────────────ン!!!
「……これ、耳鳴りみたいでヤだな……」
真上に打ち上がる、私の身体。
おお、一望できるわね。
すっご……ここまで、
バカみたいに真っ直ぐ上だけに上がったのは、
初めてかも。
淡い、紅色の石の街並み。
でも、ここから見ると、
かなり精巧に作られた街だとわかる。
道の跡が、弧を書いているのだ。
まるで、大切な、まぁるい何かを、
包み込むような、道の通っていた跡────。
「────あ……」
見、えた。
緑の、光じゃない。
瓦礫の果て。
水面が、見えた────。
「レエン湖────」
白い。
水面が、白い。
─────光か?
あんな風に、強烈に反射するのだろうか?
たまたま、そういう角度なのかな。
………わかる。
まるい。
まんまるだ。
ヒゲイドさんの、地図の、通り──……。
あれが、私の小さな冒険の、
────最終、地点なんだ────。
ひゅ
う
ぅ
゜
「うわっ……」
や、やばっ!
レエン湖に見とれてたら、
落下しはじめたわっ!
今は、准反重力機構は使ってない!
流石に空中に浮ける事、
エンマさんにバレたら、
えらいこっちゃだわ!
し、しかたない……。
落下しながら、光を探す方法は……。
「────"反射速度"!!」
時間は重さを持って、
広大な景色は、
まるで、
大きな絵の中にいるみたいだ。
ゆっくり。
ゆっくり。
ゆっくりと。
身体ごと、下を向く。
へんな、感じだ────。
地面はこっちのはずなのに。
足が向く空が、下に感じる。
地面は、前。
上は、また、空。
私の後ろが、天空だ。
星が、目の前にあって、
大きいんだな、と、わかる。
……はは。
何、当たり前のことを、私────。
『────アンティ。落下加速に合わせて、貴方の思考も加速しています。このままだと──。』
「! 熱暴走、まっしぐらか」
いかんいかん……
調子にのって、ゆっくりにしすぎたみたいだわ。
ちょっと、なかなか見れない景色だったからね。
ええと、街の跡地の、緑の光……っと。
「あそこと……あそこ! 光が強い──クラウン!」
『────レディ。上空からによる正確なポイント設定。遮蔽物:無。マッピング完了しました。』
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>>>オーライ
こっちにも座標バッチリ!
おじさんに合わせた最短ルート
マーカーだすよー
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「よし、じゃあ、降りますか。よっと──」
少し、緩やかに思考の速さを戻し、
身体の向きを、少しずつ調整する。
おっと、意外と速く落ちてるのね……こわっ。
「くっ、クラウン──。」
『────レディ。地表接地直前に、瞬間的に准反重力機構を作用させます。流路起動中。』
「たのむ。流石に、こんな所で体当たり墓穴掘りなんかするような、親不孝な英雄には、なりたくないわ」
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>>>ははは……!
ぼくの分まで長生きしてよ
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「ばか。そゆこと言わないの」
『────限界まで衝撃は緩和可能判定。
────"力量加圧"、どうぞ。』
「あいよ」
ひゅ─────るるるるるるるるるるぅ……
ふおっ、
…………、
…………、
────キィィィ────────────ンん……!!
「ふぅ……」
着地、成功……だねっ。
「──エンマさん。とりあえず、光の強いトコ、わかったよ──?」
「…………」
「……? え、エンマさん?」
「──う、」
「う?」
「打ち上げ、クルルカン────……!」
……高く、跳びすぎたわね。










