クルルカンの部屋と魚のごちそう しゃーしーんー
ごめぬ、さしえじゃねぇ( º言º)+にやり
「こいつは、すごいの……」
遺跡の丸塔の天井裏に、
こんな場所があったとはの……。
階段を登ると、そこには、
なかなかの部屋があった。
いや、これはどうやら、寝室じゃ、寝床がある。
奥に、いくつか扉が見える。
なるほど、これは、隠れ家じゃな……。
元々、遺跡が作られた時代に、
出来たものではない。
滅んだ後に、何者かが、作った場所じゃ……。
「これは、歴史的な発見だぞい……」
「むっ」
「い、言わん言わん……絶対言わん」
金の目に刺され、手を振り答えた。
確かにすごいと思うが、ワシはそこまで、
歴史や、金銭に欲があるわけではない。
壁の、光の魔石が、自ずと灯りはじめる。
はて……どうやって魔力が流れたのじゃろう……
「まぁまぁ、ね……」
「ん?」
「こっちの話……です。エンマさん──」
「なんじゃ? ──うおっ!?」
ドンッ! と、
知らぬうちに、大きな水桶が、
目の前に置かれている。
「な、な!? これっ、どこから出よった?」
「さっきからありましたよ」
「んなわけないじゃろう!」
「これで、身体を拭いてきてください。はいこれ」
「えっおっ? 手拭い、か……?」
「それ、あげます」
「よ、よいのか?」
とても上等な手拭いを渡され、
思わず問い返してしまう。
ん……? なんだ、この煙は……。
! 湯気かっ……!?
「お、おい娘っ子! この桶の中は、お湯か!?」
「ええ、そうよ」
「なっ、いつの間に……!」
いつ、沸かした!?
それ以前に、どこからでたのじゃ!
な、何者じゃ、この娘!
金の瞳の……金の、ひとみ……。
「はて……」
「エンマさん、少なくとも、二日はお風呂、入ってないでしょ」
「え? う、うむ……」
「身体、拭いてきて」
「え、いや、しかし……」
「お湯、足らなくなったら、まだあるから」
「まだあるのかっ!?」
「ほらっ、私、お風呂入ってない人と、一緒の部屋で寝るの、やぁよ!」
「おおうぅ……」
この娘っ子、眠気で遠慮が飛んでおるの……。
まぁ確かに、身を清めるのは久しぶりじゃあ。
ここはひとつ、丁寧に洗っておくか……。
木製のお湯が入った桶は重かったが、
ワシは腕力には自信がある。
ひとつドアを開け、
その先が、本のある部屋、
もう一つが、小さな何もない部屋じゃった。
そこで、身を清めることにする。
「ふぅ……世の中は、ひろいのぅ……」
遺跡のこんな隠された場所で、
ひとっ風呂やるとは、思わなんだ。
大きな桶に入り、湯で身体を清める。
部屋の壁は、なんというか……
淡い赤の塗料が塗られておった。
これは……風や水を防ぐためじゃろうか。
部屋には小さな窓があり、
夕日がさして、光の線となる。
今日の夕日はあまり赤くなく、
何とも言えん、情緒ある空気が、
小さな部屋の中を、満たしておる。
あのような小窓があれば、
もっと床が汚れると思うが、
まるで、そんなことはない。
見えない窓でも、はまっておるようじゃ。
やれやれ、窓さえも、神秘的じゃのう。
なかなかゆっくりと身体を清め、
すっきりとする。
肩の鎧や、ベルトは締めずに、
楽な格好をすることにする。
あの娘っ子も、この部屋で風呂にするのだろうか。
どちらにせよ、湯は、下の遺跡に、
捨てにいかねばなるまい。
部屋をでると、目の前に書庫……というには、
本が少ないが……の部屋が目につき、
なんの気なしに中にはいる。
ひとつを手に取り、パラパラとめくり……
「……こいつは……」
ある、国の貴族のリスト。
ある、植物の詳細な情報。
ある、魔物の調査の結果。
ある、伝承の裏付け項目。
ある、学者の行動調査書。
ある、女性の好きなもの。
ある、単位の呼称の問題。
「これは……まずいな……」
ワシなんかが、見ては、いけないものだった。
ここの、主は、
なにか、とんでもないことをしておったのじゃ。
一部、女性の口説き方を考えておるような、
青臭いページもあったが、
その他は、何やら機密性の高い、
謎多き資料がほとんどじゃった。
「…………あの娘っ子、何故、こんな場所など……」
────────"二代目"、だから──。
「──!」
──"二代目"。
そう、言いよったな。
なんの、じゃ……?
あんな、黄金の義賊のカッコの娘が、
なんの二代目だと────。
「────なっ!? ま、まさか……」
ど、は、は。
ま、まさか、の……。
「"クルルカン"……!」
実在、していたとでも、いいよるんか……。
「──い、いかん! これ以上は、いかんの!」
パンッ! と、本を閉じ、
あの、黄金の娘っ子のいる部屋に、
戻ることにする。
ん……?
何やら、甘い臭いがしよるな……。
部屋に戻ると、
黄金の娘っ子が、何やら部屋の中で、
鍋を焦がしておった。
「うぉおい! 何をしとんのじゃい!」
「うるさい。お風呂どうでした」
「あ、お、おぅ、よい湯じゃった」
「後で、お湯すててきてくれますか」
「それは良いが……それ、焦げとらんか……」
「大丈夫です。見てますから」
「いや、大丈夫かの……?」
娘っ子が、壁にもたれて座りながら、
床の鍋を転がしておった……。
真っ黒い、何か、ドロドロしたものが、
鍋の中で、泡を吹いて、焦げかけておる……。
黄金のブーツの横に、
何か、黒い液体の入ったビンが、
置かれていた。
思わず、手に掴む。
「……なんじゃ、この液体は。ソースか何かか?」
「シャウユ」
「ん?」
「シャウユ」
「しゃうゆ?」
「ん」
…………。
「調味料なんかぃ?」
「多分」
「た、多分……」
「何かの豆から作った、謎のソースらしい……」
「つ、つまり、謎の黒い液体じゃと……」
「そ」
どお、おおおお……!
この娘っ子は、そんな得体の知れんモンを、
なして鍋で焦がそうとしておるんじゃあぁい……!
というか、
何故に床から火が噴き出しておるのじゃ!
「な、何故そんなもんを……」
「仕方ないのよ……ウチのお手伝いが、間違って大量発注したんだから……」
「お手伝い?」
「あ、いや……」
歯切れが悪い返事じゃ。
見ると、随分、娘っ子は眠そうな様子じゃった。
すぐ横に、切りそろえられた、
魚の切り身のようなものがある。
ワシが風呂をいただいている間に、
切りそろえたのじゃろうか。
「……わざわざ調理せんでも、先ほどの焼き魚でよかろう……」
半ば呆れて言うと、
「やだ。飽きた」
おねむの義賊は、随分とわがままな答えをした。
いや、そこまで頑張るなら、
ワシは何もいうまい……。
神妙な顔をしていると、
眠そうな顔で、ワシを見て、言う。
「……大丈夫、心配しないで。このシャーユ? シュガーと、すごく相性いいから……」
「え? お、おぅ……」
黄金の義賊の調理は、
まさに、道化師のそれじゃった。
急に止まったり、着いたりする火。
いつの間にか綺麗になる鍋。
知らずうちに並ぶ食器。
……なんと、面妖な……。
そう言えば、この部屋に、
寝床は二つもあったか?
あちらのベッドは、
ここに入って来た時は、
無かったように思うのじゃが……。
まるで、摩訶不思議な空間に迷い込んだようじゃ。
さすが、絵本の主人公なだけのことはあるのぅ……。
ワシは、湯の後始末をすることにした。
湯を捨てると、下の階段が、
自ら、せり上がってきよった。
どうやら、時が経つと、
螺旋階段が巻き取られるらしい。
そりゃあ、見つからんはずじゃあ。
部屋に戻ると、
謎の料理が出来ており、
クルルカンの娘っ子が、
床に倒れて眠っておった。
「くぅ……、……くぅ……、……」
「……しょうのないやっちゃな」
抱え、さっきは無かったはずの、
ベッドに運ぶ。
今度は、ワシがお姫様だっこしてやったわ。
流石に、娘っ子のヨロイは脱がせん。
そのままの格好で布団を被せるが、
許せよ、娘っ子。
戻り、謎の料理を見る。
「…………」
な、なんじゃ、これはぁ……。
あ、甘いにおいがするのぉ……。
お、下のコレは、炊いたライスか……?
どこから出しよったか、娘っ子……。
上の飴色のコレは、
先ほどの魚の切り身ぞ?
いやしかし、このような甘そうなものに、
ライスはあわんじゃろうて……。
「…………」
「すぅ……、……すぅ……、……」
意を決し、横にあった、
フォークのようなものを掴む。
あの、剣のような焼き魚を食ってから、
それなりの距離を歩いておる。
腹は減っておるのじゃ。
「やれやれ……娘っ子が起きたら、この料理の文句を聞かせねばのぅ」
ライスと甘い魚を、かっ込んだ。
ほろりと、とける。
「…………!」
…………。
…………。
うまい。
あまじょっぱさと、
ほろりとなくなる切り身の儚さ、
それを受け止める、ライスの度量を感じた。
今まで食べた、どの魚料理よりも、
美味かった。
ほくほくと、食べ、
気づけば、最後のひときれじゃった。
ライスと、最後の切り身を、
しっかりと、同時に含んだ。
「──……黄金の義賊には、もう頭があがらんのぅ……」
食器を重ね、
なぜか、眠る娘っ子に、軽く一礼した。
神秘の小さな窓を見ると、
もぅ、かなり暗くなっている。
この遺跡に、こんな安全な場所があろうとは。
名残惜しく、水を一杯飲み、
残された、もうひとつの寝床にもぐり、
幸せな気分で、目を閉じた。
( º дº)<ぐおおおお!
ウメェェェえええ!
たけぇぇええええ!










