黄金の秘密の隠れ家 さーしーえー
「なんてこったい……」
ドワーフのエンマさんについていくと、
回廊のような場所が、崩れていた。
とても立派な砦だけど、
時の流れには勝てなかったみたいだ。
崩れた所のすぐ側の壁には、大きなハンマーと、
リュックのような物が置いてあった。
「……荷物は無事だったみたいですね」
「……すまん。ここには、四方を壁に区切られた、部屋のような所があったんじゃよ……」
「なんで謝るんです?」
「助けてくれたお礼に、寝床だけでも、と思うたのじゃよ……」
「あ、そ……うですね。もう、そろそろ夕方か……」
「おぬし、けっこう疲れておるように見えよるよ。二日もぶら下がっていたワシよりな」
「ん……!」
そんなに、見た目でわかるほどかな……。
ラクーンの里での戦い。
さっきの牛野郎のボコボコ。
ヨトギサキのこと。
身体的にも、精神的にも、
確かに、ちょっとまいっているかも。
とにかく、ゆっくり休みたいや……。
「そこらへんで、火を起こしたりしちゃあ、ダメかな」
「……あまり、よくはないのぅ。火を怖がる魔物と、興味を持つ魔物がおるからな……できれば、壁に囲まれたような場所が、ここの遺跡では安全なんじゃ……」
エンマさんは、この遺跡に、
珍しい鉱石や、遺物を求めて、
時々きては、滞在しているらしかった。
森が近く、食べ物もなんとかなるそうだ。
こんな街から離れた場所……。
多分、私より、冒険の知識や、
身の守り方は詳しいはずだ。
もしかしたら、ウルフくらいなら、
問題なく相手ができる実力者かもしれない。
「困ったのう……暗くなるまでに、まともな部屋を探さねばならん……」
「そ、ですね……」
─────────────────────────────
>>>アンティ 言っとくことが
─────────────────────────────
「?」
黄金の仮面様。
なんざんしょ。
(なぁに?)
─────────────────────────────
>>>ここ ぼくの隠れ家あるよ
─────────────────────────────
(──!!)
ま、まじかっ……!!
"隠れ家"ってと、あの、
蕾のナイフと、
バスリーさんへの手紙を、手に入れた場所のような!?
─────────────────────────────
>>>使うかどうか アンティに任す
ほら 今は この人いるから……
─────────────────────────────
「! …………」
「? どうした? 娘っ子……」
そうだ。
初代クルルカンが使った、秘密の隠れ家。
そんなすごい所に、
エンマさんを案内していいのかな……。
あ、私だけ行く……?
いや……。
────グラり。
「! おい!」
「──!」
おっ……と。
はは、ねむたい。
こりゃいかんわ。
『────情報隠蔽は、確かに重要度:高の事案です。ですが、あなたには、しっかりと休める場所での、休息を推奨。』
「ん……」
まだ、レエン湖には、ついていない。
ここで、倒れちゃうより、
しっかり休んだほうがいいに決まってる。
(先輩……部屋、きれい?)
─────────────────────────────
>>>はは
出ていく前に 掃除と結界したよ
まって マーカー出す
─────────────────────────────
(ありがと……)
「大丈夫か!? ちっ、こうなったら、ここいらで野宿するしか……」
「──エンマさん、きいてください」
「! なんじゃ?」
赤い髭と、赤い眉毛が、
くいっと、角度をつける。
「──今からあなたを、ある場所に招待します。ですが、その場所のことを、誰にも言わないでほしいんです」
「! むぅ──……」
エンマさんは、いきなりの提案で、
面食らったみたいだった。
こちらの眼を見て、考えている。
「……言えば、どうなる?」
「私が、困りますね」
「こ、困るて……そこは、おぬしがゆっくり休める場所なのか?」
「! ふふ……おそらくは」
グラ、りと。
また少し、身体が揺れる。
「っ……わ、わかった! 見ておられんわ! さっさと案内せぃ!」
「はは……こっちです」
「お、おぅ……」
懐かしい、透明の矢印に誘われ、
半壊した遺跡を、歩いていく。
後ろから、ハンマーとリュックを背負い、
エンマさんが、続く。
「ここか……?」
少しだけ、塔のようになっている場所につく。
しかし、周りの壁は、
やはり半壊し、太い柱のようなものだけが、
この部屋と、上のまぁるい屋根の部分を支えている。
「お、おう……確かにここなら、まだマシじゃが……」
「違うよ……」
「ん?」
私は、建物の中に入り、上の天井を見上げる。
……これまた、懐かしい。
黄緑色の魔法陣が、光って、見えた。
─────────────────────────────
>>>部屋の真ん中の、柱だからね
─────────────────────────────
「うん……」
「?」
まぁるい、石造りの部屋の、ど真ん中。
そこに、天井を貫く、一本の太い石柱。
そこにも、植物が絡むように、
光の蔦が、伸びてきている。
仮面が、熱くなった気がした。
触れる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!
「なっ、なんじゃっっ!?」
「────……へぇ」
この前は、いきなり地面が消えたけど、
今回は、天井から、何か、せり出してきた。
階段、だ。
ふふ、すご、い。
まるで、絵本、みたい。
────ゴ、ゴ、ゴ、ゴゥン……。
サラサラとした、砂煙を落としながら、
螺旋状の階段が、石の天井から、伸びる。
「こりゃ…………驚いたな」
エンマさんが、目をまん丸にして、
つぶやくように、言った。
「すごい、でしょ」
「お、おぬし……。ここは、初めて来たのではないのか?」
「ん……」
少し、怪訝そうに、きかれる。
あやしまれてるのかな……。
あや、あたまが、まわんなぃ…………。
「あの……ほら……私……"二代目"だから……」
「に、二代目……?」
眠さにかまけて、なんだか、テキトーに、
返事をする。
いいや。
登っちゃおう、かいだん……。
キン、キン、キン──……。
「いきますよぅ」
「──えっ、あ! お、おぅ……」
何やら首を傾げていたエンマさんも、
でっかいハンマーに気を付けながら、
石の螺旋階段を、登った。










