エンマと黄金の出会い
最初はバードの群れかと思うたんじゃ。
違った。
どうやらフィッシュ系の魔物のようじゃった。
空をえぐるように群れて、北に飛んでいく。
あまりのことに空を見上げ、後ずさり、
岩の隙間に吸い込まれた。
どうしても兜が挟まり、
腕も岩が邪魔でとどかんかった。
遺跡地帯に食料は置いてきたので、
今は練り込んだ保存食しかない。
ハンマーの手入れ用の水とすすったが、
そう何日も持つまい。
こんな所で干されてくたばってしまうか、と、
流石に弱気になりよる頃に、
ワシは、出会う事となる。
甲高い金属のような音が、等間隔に響き、
足音とわかる。
ここ数日、
ここいらには肉食系の魔物が少なかった。
何やら大きな魔物でもいるのかもしれん。
それが来たのかもしれんかった。
ワシは恐怖する。
しかし、声を掛けてきたのは、
どうやら人族の娘っ子じゃ。
「何してんすか……」
あまりにも想像だにせぬ格好だったので、
驚きを隠せぬ。
クルルカンじゃ! クルルカンじゃぞ!!
年甲斐もなく、興奮した。
今まで様々な鉱石を求めて旅をしたが、
絵本の英雄に会うのは今日が初めてじゃあ!
こんな奥地にいる娘っ子が、
まともな生業とは思えん。
半分、あきらめつつも、助けをこう。
その跳躍と、瞳の色に驚く。
この娘、只者ではない。
盗っ人にしては、美しすぎる眼をしておった。
この金……どこかで。
兜に愛着があると答えると、
岩を砕くと言い出した。
そんなバカな、と思いつつも、
雰囲気に圧され、顔を手で覆う。
数ビョウ後、ワシは生まれて初めて、
お姫様だっこされることとなった。
地表で白金のマントがたなびき、
大きな長剣が現れよる!
と、思ったら、焼き魚じゃった。
どはは! なんじゃ、ビックリさせよって!
バリバリと食いながら、
目の前のクルルカンを見る。
ううむ……完成されておるな。
見る者によって、わかる技量がある。
ただの、仮装ではない。
恐ろしく精巧なヨロイじゃ!
このヨロイ、まさか、
生体金属ではあるまいな……?
つい、気になり、娘っ子に尋ねるが、
あからさまに、
きいてほしくなさそうな表情をしよるので、
身を引くことにする。
この娘っ子、強いぞ。
ヨロイを使いこなせる度量がある。
ワシもちと、腕に覚えはあるが、
殴られると、やられるかもしれん。
恩人に、機嫌を損なわれても嫌じゃしな。
何故こんな所にいるのか聞いてみると、
どうやら、ワシが見た空飛ぶ魔物の群れ、
その出どころの調査をするためのようじゃった。
先ほど食べた魚が、
そのフィッシュだと知り、驚く。
魔物が移動した原因の調査とは、この娘っ子……
よもやギルドから依頼がいくほどの、
凄腕の冒険者なのやもしれんな。
おのぼりの貴族の娘が、絵本の英雄に憧れて、
軽技職か格闘職になったのかと思うたが……
ヨロイと、先ほどの力を見るに、
ただの道楽とも思えん。
たまに、自分の格好を、
恥ずかしそうにしよるしな。
ワシの一時のねぐらも遺跡なので、
向かう方向は一緒じゃ。
共に行くことにする。
やがて大きな森の領域を抜け、
徐々に、空がよく見渡せるようになる。
逆に岩の面が増えるが、
それらは、自然にある形ではない。
「これって……!」
黄金の義賊が、石畳みに気づき、
眼を見開く。
この反応で、この娘っ子が、
初めてここに来たとわかる。
どはは。
気持ちはわからんでもない。
今までは、大自然の道をきて、
突然、人工の領域が、ひょっこりと姿を現す。
まさしく秘境。
大昔に廃れた、確かに街があった場所じゃ。
ワシも初めてここに到った時、
言いようのない感動があったもんじゃい!
石畳を行く道中で、
黄金の身体が、たまに緩慢に揺れる事に気づく。
大丈夫か、と尋ねると、
「すこし、疲れてるの」
と返された。
どえらい事に気づく。
ワシが見た、大量の空飛ぶフィッシュの魔物。
それをこの娘っ子は、
焼き魚にして、持っている。
……まさか。
あの量を……倒しよったか?
い、いやいやいや!
あ、有り得ぬだろうて……。
仮に、あの量を倒したとしたら、
ぶっ倒れる所の騒ぎじゃないわい!
何故か頭に浮かんだ有り得ぬ想像を散らし、
ワシとクルルカンは、かつての街を目指す。
目の前が、崖のようになっている。
陥没しているのだ。
下に、砦跡と、崩れた街並みが見える。
「…………」
クルルカンは、言葉を失って、見ておった。
この、大きな穴に落ちたかのような、砦と、街。
天然の崖の中に街ができたのか、
後天的に、陥没してしまったのかは、
誰にも、わからん事だ。
その全ての記録は、この先にあるはずの、
忌まわしき湖の中に、消えてしまったのじゃ。
向こうっ側に、何とか降りられる、
岩の崩れた段差があると伝えると、
キョトンと、こちらを見られ、
その後、にんまりと笑われる。
金の髪、金の眼、金の鎧。
その、いたずらっぽい笑顔の、
美しさにゾッとしたのも束の間、
あっという間に黄金は掻き消え、
どうやら後ろに回り込まれる。
今日だけで、
生涯二度目のお姫様だっこをされたワシは、
野太い悲鳴と共に、崖下の街へと、
落ちてゆくのじゃった……。
「どわわわわはぁあわわわわぁ───!!!?」










