おっぱいブレイク さーしーえー
( º дº)<……。)
王都のどこか。
秘密のどこか。
ちょいと大きな、お風呂の中で。
一人の、クリーム色の髪をした女剣士が、
鎧を外して、湯に浸かっておりました。
「ふぅ……」
穏やかな、一日の憂いを洗いおとす場所。
女性ということもあり、
綺麗な湯船を一番に使える事は、
副隊長の、特権でもございました。
しかし、湯に浸るその表情は、
どこか、かげりのあるものでした。
「あの子達……いったい、どうなったのでしょうか……」
羊雲のような髪は、湯気にあてられ、
僅かに、のっぺりとしておりました。
つぶやく声が、霞む浴槽の壁に跳ね、
自分の出す声を、よく耳が拾います。
あの子たち、とは、
説明せずも、顔見知りの、
ラクーンの夫婦のことでございました。
「あんな伝え方で……何もかも、うまくいくはずが、ない……」
湯の中で、温度を忘れ、
膝を抱え込み、うなだれてしまいます。
今の彼女は、多くの剣士を導く副隊長とは、
少し、言い難い、乙女そのものでございます。
鎧を脱ぎし乙女は、湯にかまけ、
憂いておりました。
自身に助けを求め、追い返した者達。
あわよくばと、希望を押し付けた者。
彼女の気にしている事は、
獣人の夫婦のことばかりではなく、
金を纏った、かの少女の事も、
ずいぶんな領域を、しめておりました。
「隠すと……墓まで持っていくと言っておいて、ただの、裏切りですね……」
自身の強さと、その、規格外の能力を隠す、
黄金を纏いし少女。
多分、自分を信じて、打ち明けてくれた秘密。
それを、蔑ろにする、
自分勝手な、押し付けがましい行為。
湯に溶けるよりもはやく、
乙女の心は重くなっていきます。
「はぁ……アンティ……怒ってるだろうな……」
慣れない芝居をして、けしかけた夫婦。
あの、黄金の義賊なら、もしかすると。
なんとかしてくれるのではという、淡い期待。
考えて、唯一の可能性にかけた、自分の選択。
しかしそれは、自身の良心を苛んでいました。
「はぁぁ……はぁぁああ……」
お風呂だからこそできる、間延びした溜め息。
湯気に溶け込むその憂いは、すぐ側まで迫る、
もう一つの人影に気づくことを、妨げました。
「こォォらァああア──!!! ヒキハちゃんッッ!!!」
「──うわっッ!?」
パシャん、と湯の中で驚き、
振り向いた先に居たのは、
彼女の、双子の姉でございました。
湯船の縁に仁王立ちする彼女は、
何も、隠すという事をしておりません。
おっぴろげでございます。
「ヒキハちゃんッ!! そんな溜め息してると、幸せ逃げちゃうよッッ!? 大脱走だよッ!?」
「姉さま……ちょっとは隠してくださいまし……」
「私は、逃げも隠れもしないッッ!! とうッッ──!!」
剣士の長とは思えぬ言動をさらし、
彼女の姉は、湯船に飛び込みます。
叩き付けられたお湯が、
容赦なく、妹を襲いました。
「ぶっパァ……」
「い、いッたぁ……湯面でおっぱい打ったァ……」
胸を襲った衝撃を堪える姉を、
頭からポタポタ垂れる水滴の間から見て、
妹はまた、溜め息を付きます。
「はァ……いいですね姉さまは。悩みとか、なさそうで……」
「むっ! なぁに、その言い方……! わ、わたしだってね……」
ぷんすかする姉を前に、
それでも、次第にふさぎ込んでしまいます。
前髪から落ちる水滴で、踊る波紋。
お風呂は、流るる感情を、
良くも悪くも、
邪魔されない場所でございました。
「────……」
「! ────……」
ちゃぽ、と音がして、
姉は、妹の側によって来ました。
二人の髪は、全く同じ、
クリームのような、
雲のような色合いでございます。
湯は熱めですが、二人共、
熱い湯には慣れておりました。
双子の姉妹は、仲良く並び、
しかし、沈黙がございました。
妹は、いつもうるさい姉が、
妙に静かに隣に浸かるので、
少しずつ気になってきます。
ちらちらと、目線を動かし、
姉の横顔を、盗み見ました。
「──言って、くれないんだ……」
「──!」
子どものような、
口をとんがらせた声で、
姉が言います。
振り向いた妹に、
姉は、まだ目線を合わせません。
妹は、しまった、と、
思いはじめておりました。
「あの……姉さま」
「今日の訓練……ヒキハちゃんは、やる事は、やってた。でも、ふと時間が空いた時、本当に、うわの空」
「うっ……」
「ほんとうに空、見てたよ? 笑えない」
「わ、わら……」
姉が、ずぃ、と、
顔を、妹に近づけます。
体と体の間の湯が押され、
小さな波となって、
左右によけました。
「なに、悩んでるの」
「っ──……」
羊髪の妹は、喉を詰まらました。
本当は、姉に隠し事など、したくありません。
しかし、黄金の少女の秘密は、重いモノでした。
その内容と、そして、信頼が、です。
自らを信じて、しゃべってくれた。
その秘密を、守ると約束した。
なのにもう、一回、裏切ってしまっている。
これ以上、信頼を穢したくは、ありませんでした。
「う、う」
「──……そ。言えないんだね……」
「うぁ、姉さま、その」
ですが、その秘密のことで、
姉に、悲しい思いをさせたくはありません。
思えば、こんな風に、あからさまに、
姉に秘密をつくるのは、
初めての事でございました。
妹は、姉が離れることを恐怖しました。
しかし、姉は離れないかわりに、
少し、厳しい表情になりました。
「……なら、いい。私も、隊長として話す」
「えっ……! うぁっ……!」
じゃボン、と。
姉は詰め寄り、妹の身体は、
湯船のふちに、押し付けられます。
身体が重なり、逃げることはできません。
普段なら、冗談はやめてと、
押しのけようとする所です。
ですが、すぐ目の前にある、
自身と同じ瞳が、
剣士のソレであったため、
妹は、息を飲むこととなりました。
「聞きなさい、ヒキハ。今日のあなたは、副隊長、失格でした」
「──っ、ぅ、ぅ」
「隊の前で、自身の憂いを出し、義務と動作だけで振る舞う様が、何になるのです」
「────……」
重なる身体と、湯から伝わる温かさとは逆に、
妹の頭は、耳の後ろから、
冷えていくようでした。
それは、温かさと相殺しあい、
逆上せるわけでもなく、落ち込むわけでもなく、
妙な、常温となりました。
そのことが、素直に、
言葉を受け止めることに繋がりました。
「今のあなたのような雰囲気、獣人達の言葉で"シンエル"と言いましたか……隊員の中で、最近の副隊長は元気がない、と、噂が立ち始めています」
「そ、な……」
「ヒキハ、私達は女。あの中では、否が応でも、目立ってしまう。あなたは、見られている。隊の士気や、その技の精度は、私達に、直結しているのよ」
「……はい」
少し、落ち着きを取り戻し、
姉の心音が、わかるようになると、
妹は、自身の情けなさを感じてしまいます。
くしゃりと顔が歪む前に、
目を閉じて、誤魔化しました。
「申し訳、ございません……」
「……それだけじゃない。そんな顔をしてる剣士は、怪我をする。それを、私達は、よく知ってる……」
「はい……」
「……ばか。私には、言えないんだよね……?」
「は、い……」
秘密を持つ妹を見て、姉もやはり、
僅かばかり、寂しさを感じていないわけでは、
ありませんでした。
しかし、目の前で涙ぐむ妹を見て、
今、距離をあけず、
身体を押し付けたことは、正解だったかな、と、
姉もまた、
胸をなでおろす気持ちでございました。
「……よく、わかんないけどさ」
「はい……」
「いちど、けしかけたんなら、信じてあげなよ」
「────!!」
姉は、妹から、何も聞いてはおりません。
ですが、剣の長たる観察力は、
ある程度の予測を、打ち立てておりました。
それは彼女が、この王都で、
女性ながらに、皆に認められている力の、
片鱗でございました。
「ちゃんと、信じてあげるしか、ないじゃない。だからあんな、やり方までして、信じてみたんでしょ?」
「ねえ、さま……」
「そんでさ、信じちゃったら、もう気にしても、気にしなくても、一緒。気にしても結果、かわんないよ? ヒキハちゃん!」
「で、でも……」
「そんでさ、ダメだったらさ、次に会った時に、ごめんなさいすればいいじゃん」
「──……」
「だれが怒っても、だれが傷ついても、だれが泣いても。ちゃんと、ごめんなさいする。副隊長なんだから、その覚悟は、ちゃんと持ちなさいっ。それが、押し付けた者がする、責任ってやつだよ?」
「──はい……」
姉は、わざと、嫌な言葉を並べ、
妹を窘めます。
王都の剣士の長である二人。
それは、必要な言葉遊びでございました。
それに、窘めると言うには、
その言い方は、あまりに優しすぎるものでした。
「それに、もしかしたら、うまくいくかもしれないんでしょ?」
「……うう、それは……」
「もー、じゃあ悩みまくっても、しょうがないじゃん!」
「はい……」
「明日からは、ちゃんとがんばるんだよ?」
「! ──っはいッ!」
「うん、よろしいッ!」
ひっしと縋って、
涙目になりながら、
ハッキリと返事をする妹。
笑顔で、それに応える姉。
一つの淡い金の秘密は、
羊雲の姉妹の関係を、
壊すような事は、いたしませんでした。
「おねぇちゃんは、さすがです……」
「そりゃーそうだ! もう18年も、お姉ちゃんやってんだもん!」
「ふふ……」
「しかしですね、私、実はここ数日、けっっこう、心配しました。かァなァり、心配してました。隊長として、姉として、ここまでキたのは、なぁかなか、久しぶりですっ!」
「え、う」
「よって、罰を与えます」
「えっ」
姉のあっけらかんとした刑罰宣告に、
妹は、実感が湧きません。
しかし、ここ数日の、
自身の腑抜けた態度を思えば、
副隊長として、当然だとも、思いました。
「甘んじて、どんな罰でも、お受けします……」
「よい心掛けじゃ!」
明るく応える裸の姉に、
しかし、キリリと妹は見つめます。
はてさて、どんな罰が、
くだされるのでしょうか。
「おっぱいを、揉ませなさい」
「はい?」
「おっぱいを、揉ませなさい」
「はい?」
「心ゆくまで、私におっっぱいを、揉ませなさい!」
「………………」
姉の目が、本気でした。
「──っ! 自由への大脱走っ!!」
「あっ、こら」
バシャんと姉の身体をすり抜け、
胸をかかえ、脱衣場を目指す妹!
しかし、忘れる事なかれ。
妹は、副隊長。
姉は、総隊長。
そこには、なかなかどうして。
超えられぬ壁のようなモノが、
ございました。
「ふ、甘いわ……シュバっ」
「えっ、なっ、なッ──!?」
姉が、湯船に両足をとられているにも関わらず、
恐ろしい速度で、妹の前に回り込みます。
この時ばかりは、姉との実力の差を、
痛感せずには、いられませんでした。
「わっ、わたしの姉さまは、バケモノか……!」
「ふふ、そんなものか、ヒキハよ……」
「くっ……!」
ここで全力を出さないと、とられる!
今は、何も身体に纏わず、
純粋な実力が試される時にございます。
意を決して、妹は、湯を蹴りました。
「敢えて、後ろに下がるッ!!」
「なんだとッ──!?」
妹と言えども、副隊長の実力は、
本物でございます。
思い切り蹴った湯船の底からは、
爆発するような、お湯の波が生まれました。
流石の総隊長殿も、この衝撃波からは、
逃れられません。
「ぶぁぁっぱァァァ────!!」
「い、いまだっ!!」
後ろに大きくさがりながら、
同時に湯の壁を浴びせた妹君。
揺れる胸を手で押さえ、後は、
湯船から脱出するのみ!
「これで、私は姉を超え────!」
「──た。とでも、思ったか?」
「──はっ!?」
姉が波をくらい、
倒れていると思っていた方向とは、
見当違いの所から、声がしました。
妹の耳の、後ろからでございました。
距離が近すぎて、ぞくりとする妹君。
やばいと思った時には、遅すぎます。
振り向いた所には、だれもいません。
足をかけられ、湯船に倒れ落ちます!
「わっ! ……ぱぶくぷくぶくっ──……!」
バッシャ────────ァン!!
見事に、水……お湯柱をあげ、
無様に、湯船に沈む身体。
鎧を付けていれば、溺れる所ですが、
幸い今は、すっぱだか。
うまく落とされたからでしょうか、
どこにも打ち身はしておりません。
すぐに、底に手をつき、
お湯からの脱出を、はかります。
「────ぷはぁ!」
むにゅ。
妹が、湯面にでると、
背中に、なんとも言えない感触がありました。
妹は、息を飲みました。
そう……すべては、姉君の、手のひらの中。
妹は、自ら、姉の胸へ。
と び こ ん で、
し ま っ た の で す。
「あ、あの、ね、え、さ、ま……?」
「ふ──っふっふっふっふ……
ヒぃ、キぃ、ハぁ、ちゃああ──ん……?」
背中に柔らかい温かさを感じながら、
ゆぅぅううっくりと振り返った妹が見たのは、
当然……手をぐっぱぐぱ、ぐっぱぐぱ動かす、
実の姉の、すっぱだかでした。
「かくごなさい、妹」
「い、いやぁぁああ〜〜〜〜!!!??」
「おい……総隊長と副隊長、まだ出てこねぇぞ……」
「もう交代の時間、とっくに過ぎてるよね……」
「なんか、スゲェ悲鳴、聞こえてくんだけど……」
「おいお前、ちょっとはやくしろって言ってこいよ」
「やだよ、俺、まだ死にたくないよ……」
「裸おがめるぞ」
「王都剣士トップ2の、だけどな……」
「地獄の門、開くな……」
「どうでもいいけど、このままじゃ俺たち、風邪ひくぜ……」
その日の夜。
麗しき隊長殿方に楽しいお風呂を譲った、
強く、優しい男性剣士達は、
五フヌで風呂を済ませるハメに
なったのだと、いうことです。
「うりゃうりゃうりゃうりゃ〜〜!!!!」
「うわぁひゃぁああ!!! おねぇちゃぁぁあん!? らメェェェェエエエエエ!!!!!」
──バシャバシャ、バッシャ────ン!!!
( º дº)<……俺は悪くない)