うしさん、あったまい〜い! さーしーえー
二足歩行の、うしさんだった。
まっくろで、
デカくて、
錆びたクッソでかい斧を、持っていた。
『────検索完了。
対象名【 アステリオス 】
弱点部位:脚。弱点属性:不明。
全長6メルトルテオルバ。
亜種認定。危険です。』
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>>>とんで!!
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「──ふっ!」
───キィイン!!
──ぐわァァん!!
飛び退いた場所に、浅黒い腕が通りすぎるっ!
なんだコイツ、掴もうとしてるのかっ!?
──キキン、と着地。
「ぐっ……」
っぶね。
唖然と見すぎて、えらい近くにいたわ……。
右肩が、ちょっと、痛い。
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>>>クラウンちゃん
あいつの名前、
ホントに"アステリオス"!?
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『────肯。タウロス系統の上位亜種個体。』
「たうろす……って、牛だよね!? ウチの食堂でも、お世話になってたんだけど……」
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>>>いや、あれはヤバイから!!
食用タウロスと一緒にしちゃダメ!!
色が黒とか聞いたことないし、
武器が物質顕現してるっ!!
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「やっぱ、やばい……?」
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>>>激ヤバ
黄金の草食系統魔物ランキングで
上位3本指に入る個体!
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「なんなのそのランキング……」
──ブモォオぉおおぉおおお…………!
「うえ。超、ヨダレたれてんな……」
『────重心移動。来ます。』
「りょ!」
──どぉあああああんッッ!!
一蹴りでくるのッっ!?
牛が蹴った地面から、苔と泥が剥がれる!!
「ちっ」
────ギュッ!!
横に飛んだっ!
くそ、苔に足をとられる!!
これ、藻みたいになってる!!
いやな足場だ!
でも、間に合った!
──ぶぉおおおあああん!!
でかい腕が通った所の、空気の震えが、やばい。
こいつ、さっきから、なんだ!?
なんで、私を掴もうとするっ!?
──ずががざざざざ──……!!
アステリオスが、自分の勢いで、
緑の地面を滑りながら、着地する。
「ねぇ! こいつ、私のこと捕まえようとしてなぁい!?」
『────肯。アンティ、それは、あなたの性別に関係があります。』
「はァ!?」
な、ど、どういう事!?
なんで、性別なんか……。
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>>>後輩ちゃん
不快にさせるけど、聞いて
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「なぁに、先輩」
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>>>あの牛、絶賛お嫁さん募集中
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「…………」
……ああ。
あのヨダレ、そういう……。
────ブモォオオオオオオオオオ────…………!!!!
「なるほど、わかった。うるせぇ」
……ま。
女として見てくれたのは、光栄ですけど。
見境無し、ってのはねぇ。
てめぇ、鏡みろよ。
池とか行ったら、見れんだろ。
「……ラクーンと、"女"のテキ、って事よね?」
『────模範的な解答。』
「ふぅ……」
……牛肉ステーキ、決定だわ。
肉料理ごときが、
私と付き合えるワケ、ねぇだろーが。
「……まだ、恋愛に興味とかないんで。さーせん?」
────ブモォオオオオオオオオオオオオオ!!!
ぶぉおおおおん!!
上から、掴みかかってきやがる。
はっ!
舐められたもんね!
────キィィン!
腰を落とし、
"反射速度"と"力量加圧"の定番メニュー。
腕が落ちてくる軌道を避け、
目の前に、踏み込む。
────トッ。
牛の、膝あたりを、踏み台にする。
……!
こいつ、けっこう反応、はやいな。
かなり速く動いてるのに、
自分の手元から、
膝にいる私の方に、
目線が、動いてる。
───グググ、ダァアン──!!
ヤツの右膝を使って、
頭の高さまで、飛び上がる。
目の前には、角のある顔。
「────ゥ、らァ!!」
あんまり、お上品とは言えない掛け声で、
なぐりかかる。
女のテキときいて、
ワリと、感傷的な拳だ。
─────ギキィィィイイイン!!!
─────ごぉおおおおおおおん!!!
─────ブモォオアアアアアアア!!!??
「────っ!!」
こいつ、斧で、防ぎやがった……!
やっぱ、はやい……!!
も少し、こっちも速くしないとダメかな?
でも、ヨロイの力が乗った拳は、
牛の腕力に、勝ったみたい。
勢いの殺せなかった斧の面で、
したたかに、顔を打たれていた。
「よっと!」
空中で、身をひるがえし、半回転。
ちょうど、さっき掴みかかって来た方の手が、
目の前に伸ばされてきたので、足場にさせてもらう。
────キィィン!!
────ブモォオオオアアア!!?
小指のつけ根当たりを、
思いっきり蹴ってやった。
くるくるくる────……キキン。
「さっき、投げてくれたお礼よ?」
────ブモォオオオオオ……!
「あら、まだ足りない?」
────ブモォオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!
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>>>めっちゃ怒ってるじゃないすか……
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「み、見りゃわかるわよ」
『────警戒してください。敵対象は、未だ武装を使用していません。』
……クラウンの言う通りだわ。
今まで、武器をもった魔物って言うと、
最初にヒキ姉を助けた時の、
オークたちが思い出される。
……!
確かあの時は、
遠距離攻撃で倒したんだっけ!
「クラウン」
『────レディ。チャクラム展開。』
黄金の二重構造の歯車が、
私の左腕に、四つ、展開される。
それぞれ、組み合わさったソレらは、
互いに回転を伝え合い、
甲高い騒音を、撒き散らす。
───ギャル、ギャル、
───ギャルルルルルルルル──!!!!
「直前で、巨大化ね」
『────仔細把握。投擲。』
───キュウゥンッ────!!
四つで一つの回転が、解き放たれる。
まだ、小さな歯車。
でも、あの八つの歯車が生み出す回転は、
凄まじい勢いを秘めている。
──ブモォオオオオ……!
おおおおおお──……
「──! 斧を、あげた……?」
『────接敵直前。肥大化。』
────ギャウオンッッ!!
チャクラムの集合体が、
ヤツの直前で、大きくなる!!
命中すれば、一気に牛肉だわ!
ぶぉおおおん──!!!
ガキィィヤヤァァアアアン────!!!
「──うっわ!?」
『────攻撃失敗。武装に弾かれました。』
た、叩きつけやがった……!
チャクラムの速さに合わせて、
斧を振りぬいて……!
「歯車は……無事か」
歯車は、今まで壊れたことはないけど、
流石に、心配になる音だった。
……でも、バラけてしまって、回転の威力が、無い。
「! "黄金の駆逐"なら!?」
砂岩帯で初めて使った、
腕装甲に歯車を組み込んだ、
歯車弾丸連続発射装置。
クラウンが、
"ましんがん"の概念とか言ってたやつ!
あれは、連続で発射できるし、あるいは……!
「クラウン!」
『────レディ。』
腕を組み替えるために、
左手を前に出す。
右手は、ちょっと万全ではないからだ。
────! ブモォオ!!?
バラけたチャクラムに、
気を取られていたアステリオスが、
腕を向けた私を見る。
────ドッッ!!!!
「な────!?」
あ、あいつ……!
木の後ろに、隠れやがった……!!
この森の木々は巨大だっ!
あいつでも、充分に全身を隠す事ができてしまう!
「あ、のやろ!」
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>>>腕を真っ直ぐ伸ばした方に
攻撃がくるって、バレたんだ……
遠距離の直線攻撃は
当てるの難しくなったよ!
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「は、は、腹立つ〜〜!! ウシさんのクセして〜〜!!!」
『────"黄金の駆逐"を、構成しますか。』
「いや! 中断! 追っかけるわ!」
あんなのが徘徊してたら、
ラクーンのみんなも安心できないわ!
特に女の子!!
あの体格差は、シャレになんない!!
マジで女のテキ!!
────キンキンキンキンキン!!
ヤツが隠れた巨木の後ろに、駆けこむ!
────ベチャッ!
「うわっ!!」
足場が、ぬかるんでる……。
「うええ……」
『────動体、無。』
「えっ!?」
そ、そんなハズ、ないって!
このでっかい木の周りは、
他に隠れられる所、ないでしょ!?
なにか、変だ。
最初に襲われた時といい、
何故か、クラウンが感知できない!
「一体どうなっ────」
────ヴォン。
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>>>うえ うで
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────────────ハッ!!!?
瞬時にヤバイと感じ、
両腕を、頭の上で組んだ。
"ガード"だ。
────ブモォオオオオオオオ!!!!!
腕のスキマから、
おもいっくそ、斧を振り下ろしながら、
飛び降りてくる、うしさんが見えた。










