くまに星がおちた日
両手両足を、金で捕えられたバーグベアを見て、私は、別の事に気づいてしまった。
火だ。
火が、もう、消せないと思う。
相棒に聞くまでもない。
もう、これは、人がおさめられる領域を、こえている。
これは、街に届く災害だ。
オレンジに燃える夜の中で、
私は、とても悲しかった。
物心ついた時から、食堂屋だった。
たくさんの人の、食事を作った。
たくさんの人と、毎日しゃべった。
この街は、私と共に育ってきた街だ。
私と共にあった人達が、育てあげてきた場所だ。
それが、それが、燃えてしまうのだ。
みんなの、大切な、大好きな、街が。
ユータだって、だから火を使った。
わかるよ。守りたかったんでしょ?
みんなのために。誰かのために。
でも、これが、結果ってか。
街は、捨てられるだろう。
ユータは、こう思うだろう。
「 あの時、ぼくが、火をつけなければ。」
「 あの時、ぼくが、外に出なければ。」
「 あの時、ぼくが、勇気をださなければ。」
酷いと思った。
この炎は、街と、少年を殺すのだ。
明日を奪い、過去に縫いつける、呪いだ。
目の前の魔物が、言葉がわかればこう言うだろう。
"火をつけたのはお前らだろう"
"俺は腹がすいただけだ"
とても、イラついた。
とても、怒っている。
何にしたって、さっきのあの嘲笑は許し難い。
大事なものを守ろうと、震える心があった。
ウチのお客を喰おうとした、お代は、デカい。
バーグベアが、怯えている。
なんで? 私を見て?
音で、気づいた。
私の、身体中の、黄金が、
唸りをあげて、回っている。
空間を駆り取る、旋回!
火を反し、煌めく黄金!
────怒りは、重力を削りはじめていた。
「ぐっがああああああああ────!!!!」
悲鳴のような咆哮と共に、バーグベアが、口から、岩石の玉を吐いた。
まだ、そんな事ができたのか。
ムダだよ。
身体はもう、浮き始めている。
前、炭坑跡で、試したこと。
「高速回転の歯車は、ゆっくりとしか動かせない」
しかし、破壊力は抜群。
でも決定打には、勢いが足りない。
どうにかして、思いっきり、当ててやれないか。
「────私は、速く森を動ける」
────はは、ははは、簡単じゃないの!!
私がまとって、突っ込めばいいじゃない!
大きな岩のたまが、当然、下をとおりすぎる。
私、物覚え、いいのよ。
7歳には、みじん切りできるようになったし、
8歳から、卵を焦がしたことないわ。
食堂屋の娘だからね。
さっき、空中で、少し浮いたでしょ。
だったら、できるでしょ?
え? 普通できないって?
だから私、怒ってるんだってば。
だから、普通なんて、どこに置いてきたって。
いいよね? クラウン。
『────状況変則更新中。
────▽高機動装甲が構築されました。』
────▽体表62パセルテルジに展開中。』
────▽素回転指数200/毎:ビョウ。』
────▽反重力機構が開発されました。』
────▽慣性制御体が更新されました。』
────▽軸動補助システマ、"値震煉異"が機動します。
──────▽予測実行を開始します。』
「「ういてる……」」
熊と、子供が見あげている。
金の少女が、月陰に浮かぶ。
天を突く、旋回を纏う脚は。
幾重にも、閃光の渦を彩る。
────今だけは、大地の炎より、月の光が勝っていた。
「出し惜しみは、なしよ」
『────"断罪執行"。』
光が、通り過ぎた。
少女は、魔物の後ろに、立っている。
熊の魔物は、首と、頭が、無かった。
────勝ったで。