深き緑の園ぴゅんぴゅん
────黄金の義賊になって、森を、進む。
「すごいね……!」
木々がかなり、大きくなってきている。
私は、敢えてゆっくりと、南に進んでいた。
いくつか、理由はある。
ひとつ。
クラウンの地図を見るに、ラクーンの里と、
レエン湖との間は、そんなに離れていない。
"私にとっては"、という表現がつくけど……。
間に遺跡群があるようだけど、
それを踏まえても、私の速力なら、
割とすぐに到着する距離だ。
だって、ここからここが、
ドニオスと王都の間でしょ……?
うん、近い……よね?
ふたつ。
私の体調が、万全じゃあない。
いや、所詮、筋肉痛レベルではありますけども。
今の私の移動法は、
"ぴょんぴょんたったか歩いてる"みたいな感じ?
この装備にしては、
ずいぶん、のんびり進んでる。
クラウンと仮面先輩に、
大きな加速の時ほど、些細な踏み外しなんかで、
木や壁に激突すると、釘を刺された。
うわぁ……激突したこと、あんのね。
確かに、この装備になってから、
全身が筋肉痛になんか、なったこと、ない。
木の幹にめり込みたくないので、
あまり加速しないようにする。
みっつ。
今、私は、ラクーンの里とレエン湖、
その、最短距離を、行っている。
つまりだ。
ここに魔物がいたら、ラクーンの里を
襲う可能性がある。
ヤバい魔物がいたら、倒しておきたいのだ。
・割と近い
・体が重い
・敵は倒す
この三つの理由から、
私はのんびり森林浴コースなのである。
えと、ドニオスを出て、今日で3日目かな?
うん……あと、2、3日で帰れば、
手紙の方も大丈夫だ、と思いたい。
うう……ちょっと罪悪感あるけど。
今は、この森の奥へ、進んでみたい。
確かにこれは、私にとっての、冒険だった。
────キキン、キキン、キィィン!
「とっ」
ゆっくり進んでいる(かな?)こともあり、
かなり、キョロキョロできる。
今までの森とは……全然、違う。
おおおおきい。
でかい。
ただただ、でかい。
カーディフの小山とか、
ここに比べりゃ、林だ。
樹齢が、違うのだろうか。
今、目の前にある巨木の幹は、
ウチの食堂の、建物くらいの太さがある。
ぶっっっとい。
うねっていて、力強いわ。
ボコボコした地面。
それらは、緑。
細い川や、角がとれている大きな岩。
たくさんの枝が、がんじがらめになった所。
ほぼ、全てが、輝く、緑だった。
「苔ってさ、こんなふうに一面にあると、すごい綺麗なんだね……」
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>>>そだねー
ちょっとだけ生えてたら、
"うわっ、キモっ!"
って思うのにねー
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「お黙り」
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>>>文字だけだもーん
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私の故郷の森は、かなり狭く木々が生い茂っている。
ここに比べりゃ、せまっくるしく、背の低い森だ。
ここはすごいわぁ。
でっかい木と、でっかい木の、でっかい間は、
けっこうな間隔があり、
そこは、グリーンの絨毯に包まれていた。
まだ、魔物には会っていない。
自分だけの、風景。
まるで、小人になったみたいだわ……。
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>>>"深き緑の園"……なつかしいな
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「ここの、名前?」
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>>>うん
前も、綺麗だと思ったもんだよ
ラクーンは、レエン湖が嫌いだから、
ここらから奥には進まないはずだね
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「そうなんだ……」
本調子ではないとはいえ、
このヨロイのスキルは、
デコボコ道くらいは、お手のものだ。
ほとんど疲れないので、かなり、景色を楽しんだ。
──ほらっ!
あれなんか、
でっかい緑色の、ブロコロのお化けみたいだ。
ふふ。
うさ丸が見たら、
にょんやにょんや、悲鳴をあげるに違いない。
『────動体反応:無。』
「……魔物、いないね。おかしいなぁ。みんなの話だと、ウルフとか、肉食系の魔物もいるみたいなんだけど」
かなり、穏やかな森を進んでいる。
ここまで魔物がいないなら、
もう少し速度を上げても、
倒し逃しは、ないかも。
通り過ぎた魔物が、
ラクーンの里を襲うのを、
心配してたからね。
「クラウン、少し飛ばすよ」
『────レディ。体調配慮。』
「ん」
────キィン。
そっと、緑の地面を蹴り出す。
ここまで苔や緑が綺麗だと、
距離滑りの歯車で、
地面ごと削るのは、気が引けた。
せっかく、新しい移動法ができるようになったんだ。
今はそんな急がないし、それを使うことにする。
「せいや」
舞い上がり、空中で、蹴る。
足場にする歯車は、ひとつだけじゃ、力不足。
だいたい、3つくらいかな?
固定してたら、けっこう蹴れる。
クラウンが、"フリーズの歯車"とかなんとか
言ってた。
……なんだっけそれ。
────キィィ──────ン……!
綺麗な金属の音が響き、
横に、私が飛ぶ。
飛ぶ? 吹っ飛ぶ?
まぁ、進んでる。
もいっちょ。
────キィィ──────ン……!
ぴゅ────ん! って、進む。
横に。
巨木と巨木の間は、広い。
余裕で抜ける。
────空を、走っている。
「森ガールも、ついに、ここまで来ましたよ……」
『────森ガールの定義の崩壊。』
ちょっと、何、勝手に崩壊させてくれてんのよ……
森ガールって、
テキトーに私が作った言葉じゃないの。
崩壊ってどういう意味よ……。
────キィィ──────ン……!
あ──……でも、この空駆け、
あんまり効率良くないかなぁ。
一回一回、けっこう力入れて、
蹴らなきゃいけないし。
しかも、一直線に進んじゃうよね。
体調が万全で、こんな苔まみれじゃなけりゃ、
スケスケでいくんだけど……。
そいや、ガルンツァーで移動するのも、
楽しかったなぁ。
帰りも、絶対アイツに乗ろう。
まだ、自由に空は飛べないのよね。
歯車を固定したら、上には乗れるけど、
動かしたら、重さに耐えられずに落ちちゃうし。
こんなふうに、宙を走るんじゃなくて、
鳥みたいに飛べたらなぁ……。
「こんな空中蹴れても、あんまイミ無いよなぁ……」
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>>>この子、マジで言ってんの……
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『────……。』
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>>>クラウンちゃん……
自分が、どんだけのコトしてるか、
たまに、教育したほうがいいよ……
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『────検討中。』
「あ、あによ、何の話!?」
2人で勝手に会話しだしたよ!?
なんだ、この寂しさは!?
く、くそぅ!
いいもんいいもん!
学校の、コソコソクスクスで慣れてるもん!
「ええぃ、先を急ぐ────」
『────鼓動検出。前方向。』
「────えっ!?」
こ、こどう────っ!
慌てて姿勢を整え、緑の絨毯に着地した。










