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きょうせいおひる さーしーえー

 

 魔物に空を覆い尽くされて、

 泣きながら、弓を射た。


 この場所が、好きだ。


 私はここで育ったし、

 私はここで恋をした。


 街に比べれば、ひどい場所だと思う。


 森の中だし、

 魔物はくるし、

 南は、邪悪な湖、

 北は、砂岩帯だ。


 でも、それでも。


 風の中で揺れる緑の大地。

 雨の日の匂いと、森の音。

 その後の、透き通った夜。

 大木の上から眺める景色。


 一番高い木の上で、

 ポロに、告白された、あの日のこと。


 思い出が、つまりすぎている。

 ここを、逃げ出すことは、できない。


 だから、泣いた。

 泣きながら、射った。


 こんないっぱい、勝てないと、思う。

 でも、ここで子どもを産んで、

 私の好きなものを、見せたかった。


 気づけば転んでいて、

 ポロが、覆いかぶさった。


 蛇のような魚の魔物が口を開き、

 目の前に、たくさん氷の杭ができた。


 ポロの背中に手を回し、

 横に投げようと思ったが、

 ポロの体は動かなかった。


 氷の杭が放たれて、

 私はただ、しがみついた。


 貫かれる瞬間は、こなかった。


 金色の輪っかが、浮いていた。

 ポロも、私も、ぽかん、と見た。

 この色を、見たことがある。


 輪の穴は、白い光の膜のようになっていた。

 放たれた氷の杭は、その膜に触れた所から、

 なくなった。


 ポロが射た針矢が、魔物の頭を射抜いた。

 金の輪は、違う所へ飛んでいった。


 空を見た。

 金色を見て、彼女しか想像できなかったからだ。


 あの人は、空中に、立っていた。

 それを見た時に、

 本当は、私なんかが、

 声を掛けたらいけなかったんじゃないかと、

 目を、見開いた。


 蛇のような魚の魔物の氷は、

 すべて、金の輪によって防がれた。

 私達が射って、魔物の体が、地面に転がる。


 やがて、光の雨が降り出した。

 はやくて、よく見えない。

 光が魔物にぶつかって、

 それを、倒す。


 しゃらん、と音が鳴って、

 あの人を見た。


 黄金の彼女は、舞っていた。

 空で、舞っていた。

 くるくる、くるくると。


 空の淡い濃淡と、

 雲の切れ間の薄紅と、青。

 そして、煌めく黄金。

 目が、奪われた。


 大きな布の袖から、

 2本の光の帯がでて、

 美しく、魔を駆逐した。


 すごいなぁ、

 どうやって、お礼をしたらいいんだろう。


 たくさんの魔物に感覚が麻痺して、

 そんなことを思っていた時、

 あの人が、屋根に、落ちた。


 熟れた実が、

 地面で潰れるみたいに、

 落ちた。


 光の雨が、やむ。

 私は、叫んでいたらしい。

 ポロに肩を揺すられ、

 でも、彼の顔も歪んでいた。


 なんで、こんな事になっちゃったんだろう。

 私達が、助けを求めたから。

 巻き込んだから。

 こんな。


 残りの魔物たちが、空に舞い上がった。


 里の上を、大きな輪になって、

 ぐるぐると、飛んでいる。

 あの人が、立った。


 もう、立たないで、ほしかった。

 明らかに、消耗している。

 無茶をしていると、一目でわかった。


 叫びながら、屋根を、歩いてる。

 何度も、踏み外しそうになりながら。

 何度も、意識を失いそうになりながら。

 それでも、歩く。

 私とポロは、走りだしていた。


 私達が屋根に搔き登った時、

 彼女は屋根の端っこで、

 片手を天に、掲げていた────。


「アンティ!!」

「アンティさん!?」


 ぐらり。

 彼女の身体が、傾いた。

 駆け寄り、思わず支える。

 私が、左を。

 彼が、右を。


「────あ……」


 声を聞いて、いけない、と思った。

 休んだほうが、いい。

 生き物として、ダメになる。


「りが、と……たすかったわ」

「隠れ……よう、にげよう!」

「むりです、無理ですから……!」


 私も、何が無理か、よくわかっていない。

 彼も、逃げたくは、ないはずだ。

 でも、この人は、限界なんか超えていた。

 このままでは、ダメだった。

 触れている黄金は、小刻みに震えていた。

 もう、力が入らないんだ。

 確かに、私達は助けてほしかった。

 でも、こんなのって、ない。


「ポロ、コヨン、たのみ、があるの」

「にげよう……アンティ」

「もう、いいから……」

「身体を、ささえてて……」

「こんなになってるんだぞ……」

「やめてください……」


 金の目は、半分も、開いていない。

 魔物は、きれいな輪をつくり、

 空を、回っている。


「また、数が増えた……なんなんだ、よ……」

「もう、ダメなのかな……」

「バカ言わないの」


 もう、目が、開かないんだろう。

 瞼を落として、でも、言葉を紡ぐ。


「あんたたちは、私の正体、知ってるでしょう? 私、クルルカン、なのよ?」


 さも、元気そうに出す声が、

 どれだけ無理をしているか、

 余計に私達に、感じさせた。


「黄金の義賊の絵本が、悲しい終わり方なんて、する?」


 汗が流れる頬を、傾けて、言う。


「アンティさぁん……! でも、でもぉ!」

「……しんじゃうよ……これ以上そんなになったら……!」

「しぬとか言うな」


 ポン、と私の頭に手が置かれる。

 金属のようなグローブ越しでも、

 優しさと熱意が、伝わってくる。


「大丈夫。見てなさい?」


 ほんの少しだけ、目が、開く。


「私これでも、正式な、"2代目"なのよ──?」


「「──はぃ……?」」



 ────きゅぅおおおおおおおおん……!



 彼女が天に掲げる右手が、

 唸りをあげている。

 思わず見る。

 光の輪が、いくつも回っている。

 腕の装甲が、ガチャガチャと開いた。

 隙間から、煙と、金の光が、出てる。



 ────ぐぉぉぉぉおおおん──……!



 頭上に、大きな存在が、顕現する。

 金色の、巨大な輪っか……?

 私達を守ってくれたのと、同じもの……?

 彼女の右手から吹き出す煙と光が、

 勢いを増した気がした。


「クラウン、先輩、ついびしき。わかる?」


 誰かに、しゃべっている。

 私達にじゃない。

 ……くらうん、と……"先輩"?


「え……火力……? じゃ、増やそう」


 ────ぎごごごごご……!


 天空の金の輪が、わかれた(・・・・)

 円盤状のひらべったい形状が、

 大小あわせ、五つの輪っかに。

 池に石を投げた時の、

 波紋の形を、連想させた。


 ────ガゥン

 ─────ガゥン

 ──────ガゥン


 順番に(・・・)回り出す(・・・・)

 規則正しく、ずれながら。

 中央はブレずに、縦へ、横へ、斜めへ。


 ────ガゥン

 ─────ガコォオン


 全ての輪が、回り出す。

 中央は、ブレない。

 ゆっくりと、加速する。

 金の円盤だったものは、

 空間を孕む、球体へと、なっていく。


「おあ……」

「きれい」


 金の輪の残像で、

 大きな、半透明の球体ができる。

 陽の光で、たまに、キラキラと光る。

 アレに触れたら、どんなものでも、

 削りとられ、なくなってしまうだろう。


「燃えるもの、ぜんぶ突っ込んで」


 また、誰かに語りかける。

 この人……本当に、

 神さまと喋ってるんじゃ、ないだろうか。


「……え、小麦粉……? い、いいけど……調理油? あれ、高いんだけど……」


 ……神さまと、なんの話をしてるんですか。


「ま、周りから、風の魔素も。粉モン全部つっこんで、テキトーでいいから」



 初めは、目の錯覚だと思った。


 球体の真ん中に、火の精霊が見える。

 こんな所に、生まれるはずがない。

 白い炎をまとった、塊だった。


 ────ぐぉおおおおお……!


 まばたきを、いっかいだけ、した。

 その間に炎は球体を、飲み込んだ(・・・・・)


 (まぶ)しい。

 あつい。

 まるい。

 たまに、爆発してる。


 ガチャガチャ、と音がして、

 もういっかい、右腕を見る。


 ヨロイの裂け目の下で、

 小さなギザギザの輪っかが、

 噛み合いながら、回っていた。


 眩しさに溺れながら、

 しかし、直感で、理解する。

 この大きすぎる炎の球体は、

 この腕一本によって、抑えられている。

 あれと、繋がっているんだ────。


「先輩……私、もう目ぇ見えない。回転の力で……拡散させる。索敵任せた」


 神さまは、何人かいるらしい。

 確かに、この人の表情はもう、

 眠っている時のものだ。

 口だけが動いていることが、

 違和感を感じさせた。


「……なに慌ててんの、できるでしょ。できるから。英雄の力、見せてよね?」


 なんか、神さまにゴリ押しした。


「ポロ……」

「今は、支えよう……」


 この火の玉が、どうなるのか、わからない。

 でも、この光と熱は、希望だった。

 優しさが込められた、チカラだった。

 煙が吹き出す身体を、支えた。

 白金のローブがほどけ、

 生きているみたいに、

 私達の身体を、覆った。


「クラウン、拡散、任せた。それまで、何とか意識保つから……あ? 技名……? あんた何なのよ……」


 球体の炎が、強烈な光を孕む。

 もうすぐ、はじける。

 私は、ひとつの絵本を思い出した。



 片腕をあげ、

 炎の球を掲げし、

 聖なる乙女の挿し絵を。


 そうだ……そうだよ、そうだ!

 まさに、そのまんまじゃない!

 彼女は、何かを、考えている。

 ローブの下で、思わず抱きつき、

 ぽつんと、つぶやいた。



「たいようの、みこ──……!」

挿絵(By みてみん)

 巫女は、炎の星を(・・・・)ほどいた(・・・・)




「あ────……、"真っ昼間(デイタイム)" 」




 ────────太陽(たいよう)は、蹂躙(じゅうりん)した。







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