寝落ちするにはまだ早い!
ん……。
木だ。
割れてる。
『────、───……。』
『>───!! ──』
ねむ、い。
あ、れ?
これ、木の、板?
『────、────…。』
『>──、────!!』
あ、
これ、
屋根だ。
からだ、おもい。
「ああ──……」
───わたし、落ちたんだ。
『────アンティ、応答を……。』
『>>>アンティ! アンティ!? 無事か!?』
「う、あ」
なんだ。
ねむい。
おもい。
屋根に、めり込んでる。
まぶた、おんもっ。
うぅわ、ぐらぐらする。
ここ、ラクーンの里だ。
身体の向きが、わからない。
手で、探る。
屋根があるから、
こっちが下のはずだ。
手を、つく。
ぐっ、と……力が入らない。
でも、持ち上げる。
「う、あ……」
『────制動補助。』
『>>>! ゆっくりでいい!』
───きゅおおん……
歯車が肩や背中に付き、
身体を支えてくれているみたい。
まだ、どっちが下か、よくわかっていない。
ねっむい。
油断すると、目が、閉じる。
心地よい暗闇に、噛みつかれている。
────シン………
右頬が冷たかったので、
その方を向いたら、
右肩が、氷付けだった。
イッパツもらったらしい。
痛くはない。
むしろ、眠気をとばすために、
氷に、頬を、つける。
すこし、心地よさが飛び、
足に力が戻る。
「わたし、は……どうして……」
これって……疲れて、いるの……?
『────肯。
────アンティ、あなたは、疲弊しています。』
「ひ、へい……」
だめだ。
ぐらつく。
この冷たさだけじゃ、
この眠気を散らす事はできない。
『>>>くそ……どうして……! まだ、経験値には、余裕があったはずだっ! ぼくはわざと、小さな歯車だけを使って攻撃してたのに……!』
あ……そいえば……
そんなとこ気にしてくれてたんだ……。
『────肯。歯車法は、次段階レベルへ到達する直前でした。レベルアップは遠のきましたが、レベルシフトは未だ発生していません。』
『>>>それなら……それなら何故!? このヨロイのチカラは、なぜこの子を守ってくれない!?』
切羽詰まった声でさえ、
ゆるんでいく。
意識が、とおく、なっていく。
まずい。
まだ、まわりに、敵が、いて……る……。
『────仮面。感覚と肉体の同期──。』
『>>>ま、さか────』
おきてなきゃ。
おきて、なきゃ……。
『>>>精神面から、持ってかれてるっていうのか……肉体も、引っ張られて……そんな……』
『────精神と肉体を、全て分析することは不可能判定。重要点は、先刻の状態がダイレクトに消耗に繋がるという事実。』
『>>>……総合負荷が、大きすぎたんだ……そりゃ、そうに決まってる……こんな、女の子に……ぼくは、なんてミスを……』
お、おい……
んだよ……
わたし、おいてきぼりかよ……
ちがうで、しょ……
『>>>くそ……くそぅ……』
『────分析完了。外傷は皆無。気を確かに。』
『>>>でも! ……クラウン。ラクーンだけ、で魔物共を排除できるか?』
───ガクッ、ガァアンッ!
『────ッ。』
『>>>大丈夫かっ!?』
力が抜け、膝をつく。
いや、だいじょぶではなさそうだけどさ……
「うわ──、─────ぞぉお───!!」
「まだ、こっちにい、───────!」
「──くる─────お、あ────!!」
「──わぁ─────さぁぁん!!」
「─────て! あき───な──!!」
「──すけて────れか───!」
「やらなきゃ、いけないでしょ」
『>>>むりだよ……』
「あんで、よ……」
『>>>声だけでも、わかるよ……』
「…………」
やめ、ろ、って。
意識、させんな。
私、もう、あんたの感覚で、
考えられるんだぞ。
やばいって、
自分でわか、るだろが。
ぐらり、ぐらり。
無理やり起きていて、吐き気がする。
首の後ろに、力が入らない。
は、は。
立ってるだけがやっと、って、
自分がなると、キツいわ。
『────アンティ。ラクーンの弓は、優秀です。』
「何、言い出して、ん……」
『>>>アンティ……今は、他に頼ってほしいんだ……』
『────現時点で、消耗が発生した要因が、分析不可能判定。』
『>>>この後も、歯車法を使い続けて、どうなるか、わかんないんだよ……!』
いや、おま、だからって……!
あた、ま! おもいっ!
私のあたま、おもいっ!
ゆがむっ!
くそっ!
今! 私はっ!
真っ直ぐ立ちたいんだってば……!!
「やだぁ」
『>>>アンティ!』
『────無謀です。』
ガ、
ガキッ、
ガ、キィン────!
片足を、
何度もコケそうになりながら、
屋根から、引き抜く。
「ここで、やめない」
『────これ以上の戦闘は、身体への影響値が、予測不能。』
『>>>やめろって……! フラフラじゃんか! ホントに見ててヤバイって思うレベルだよ!』
「わたしらで、やらなきゃ」
ガ、ガガ──……!
キキ、キィン───!
屋根の傾斜で滑って、
バカみたいに、踏みとどまる。
「守らなきゃ、いけない……!」
『>>>……どうしてさ』
黄金の義賊の声に、怒りのような、
哀しみのような音が混ざった。
「あん?」
『>>>きみ、何でそこまですんのさ。お金も貰わず、なんの得にもならず、人のために……』
「あんた、も、昔……やって、たでしょ……センパイ?」
『>>>──ッ!』
キィン……
キィン……
屋根を、ガクガクと身体を震わして、登る。
『>>>……おい』
やっとこさ、屋根のてっぺんに、きた。
『>>>……きけよ』
……あによ。
『>>>ぼくは、絵本のような、正義の味方なんかじゃあない』
煙突のような所に、肩を預け、
身体が崩れるのを、防ぐ。
『>>>ぼくは……ぼくが人を助けたのは、"復讐"だった』
「──ふく、しゅう……」
ねむい。
いみがよく、あたまにはいらない────。
『>>>昔の昔、いちばん最初に……ぼくのチカラは、穢らわしい、と吐き捨てられたんだ。ぼくはその事を、憎んでた』
「は、は──」
何言いだした、この人────。
『>>>ぜんぶ壊してやろうかと思った。けど、それじゃあ、なんの罪もない人たちにとったら、とばっちりだろう? だから───』
こんな時に……。
なんつ──話をしやがるの、この先輩は。
『>>>"逆"に、助け続けてやろうと、思った。この穢らわしいと、蔑まれた力で。どこまでも、どこまでも、どこまでも……そして、死のうと思ってた』
「────」
『>>>ぼくはね、悔しさと、憎悪で人を助け続けたんだよ』
…………。
…………。
ふ、
ふふ、ふ──。
──────────ばかか、こいつ。
『>>>──え?』
「────あんた、ばかだな……ふくくく!」
『>>>は、はぁ!?』
「ふふ、ふふふふくくくくく────!」
笑わせて、くれやがる。
やめてよ、余計、疲れるじゃない。
食堂屋の娘、ナメんじゃないわよ?
「はぁ、はぁ……おっかし」
『>>>な、なんで……』
そんなことも、わからないの?
「……ね。私に、言ったの、ウソ?」
『>>>──へ?』
「"一緒に守ってくれる"って、言った」
『>>>あ、あれは──』
「……ウソ?」
『>>>あれは──ッ! ウソ、じゃない……!』
「だよね」
今、私には、あなたの感覚が、心に宿ってる。
音で、温度で、心で、わかる。
でも、その前に。
小さな食堂にいる、田舎娘の心でも、
ちゃんと、わかったよ?
前に、あなたが言ってくれた事────。
──"きみは、ぼくと一緒に、何かを守ってくれるかい?"
あれが、
憎しみだけで、
出てくる言葉なワケ、ねぇぇだろぅが。
「……ねぇ、クルルカン」
『>>>なに……』
「あんた……やらかしたのよ」
『>>>は、はぁ?』
「あんたの昔のこと、私はよく、知んないけどもさ……」
『>>>お、おい……!』
────キィン!
まえに、踏み出す。
持たれかかった身体を起こし、
屋根づたいに、前に進む。
「さいしょは捻くれてさ、がむしゃらに守ったんだろけどさ……」
『>>>ひ、ひねくれて……』
「ずっと、ずっとさ、人を助け続けてくウチにさ……」
────キィン!
一歩、踏み出す。
「その中で、本当にさ……」
────キィン!
進む。
「"心から助けたい"って思った事が」
────ガッ!!
「一度も無かった、っていうのッ!?」
『>>>な────』
よろけそうになる。
踏みとどまる。
進む。
────キィン、キィン!
「思い出してみろ、てめぇ」
足を、前に出せ、私。
────キィン、キィン!
「もし絵本のとおりならさ!」
────キ、キィン、キィン!
「たくさん人をさ、助けまくって、守りまくって────」
────キィィン、キィン!
「めっちゃ笑顔とか向けられて──」
────ガ、キィン、キンッ!
「"ありがとう"って言われてさぁ──!!」
──────キィィィィン!
「────めっちゃ嬉しい日も、あったんじゃないのッ!!?」
『>>>そ、れは────……』
「──憎しみだけで人助けてた奴がよ、最期に好きな人のために、がんばって死ぬかぁぁ、ボケぇええ!!!」
『>>>う────……』
「あんたはさぁ!! さいしょは嫌々、人助けしてたかも知んなぃけどぉ……知らず知らずのうちにッ、ホンモノの! 英雄サマに! なっっちゃってたんだよッ──!!」
『>>>────ッ!』
「ふくくッくッ、散ッ々、英雄譚残しといて、今さら、そんな、良い人間じゃなかった!? きっははっは、は……笑わせないでよ、ね……!」
『>>>…………』
「はぁぁ……叫んだら、ちょっとだけ目ぇ覚めたわ」
よいしょっと。
──ここが、屋根の、端っこだ。
『>>>……でも』
「あに」
『>>>そんなやつに、君は、なろうとしてるよ?』
「……い──んじゃない?」
『>>>よくなぃだろ……人のために、ボロボロになってさ……』
……。
うーん……。
人のために、か……。
「ねぇ……私、あなたの絵本、すきよ?」
『>>>なんだよ、いきなり』
「いきなり現れて、ぜんぶ助けて、ピュッ! と居なくなるの」
『>>>! は、はは……それだけ聞くと、台風みたいなヤツだな』
「ふん、そうね。でも、カッコイイわよ?」
『>>>…………』
「あなたはいつも、自身の強さに驕らず、真剣に人々を見て、駆け抜けた」
『>>>ぼくは……』
「みんな、知ってることよ──」
あなたの絵本は、とっても、有名なんだから。
目の前には、空に入り乱れる、たくさんの魔物。
ああ、ああ、また、増えた気がする。
でも。
今。
私は、ここに居るから──────。
「────きめた」
『>>>え?』
「カッコ、つけることにする」
『>>>はぁ?』
「ここでさ、私が寝込んじゃ、カッコ悪いじゃない?」
『>>>はぁ……吐いて、倒れそうなくせに』
「うるさい。私、ここでみんなを助けた方が、カッコイイと思う!」
手を、上に掲げる。
片手を、天空たかく、たかく。
「ここで、ババァ───ッンと大技だしてさ! みんなをちょちょいと助けてさ、ハッピーエンドにするのっ!」
内側から、痺れてくるような身体を、声で支える。
「そういう結末がいいっ! そういうのが、好きだっ!」
『>>>……うん』
「私、それがいい! 私は、"自分のために"、それを目指すっ! そのために、助けるよっ!!」
『>>>そ、それって、結局ヒトのためになっちゃうんじゃ──……』
「うっさいわね先輩! 今は私が2代目なのよ!? 黙って後輩を支えなさい!!」
怒鳴りつけてやったわ。
『>>>は、ははは……ムチャクチャだな、この子……きみ、よくこの子に付き合ってきたね』
『────褒め言葉として、受理されました。』
あら、調子でてきたじゃない?
さぁて……身体、持つかな……。
「クラウン。あと、黄金の義賊さん? ちょっと、チカラ、貸してくんない──?」
『>>>……やれやれ。お安い御用ですよ、"2代目"さま?』
『────"レディ:オーバー"。アンティ。
────私たちの物語には、黄金しか、残らない。』
さぁ──て、
"絵本のお約束"を、見せて、やるわ?










