くま vs はぐるま
どむ。
「わ!」
「いたい!」
2人を地面におろす。
お尻から落ちたから、大丈夫だろう。
「な、なんで、めのまえに……」
そうね、熊がいるわね。
だからよ。
あんた達ちゃんとご飯、残さず食うからね。
重いのよ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」
でかい声ね。
うるさいのよ。
もう慣れたって。
いい加減、逃げるのにも飽きたわ。
それに、もう、ここで後ろに下がるのは、まずい。
ここは谷の下だ。
街との高低差は、もうない。
ここからそう遠くない所に、カーディフの街門はある。
このバーグベアは、多分普通より大きい。
あの木の門では、耐えられないのだ。
ったく、何なのよ。
あんたが来たから、ムチャクチャだわ。
起こされるし。
山は燃えるし。
子供は迷うし。
街は閉まるし。
木で肩打つし。
崖を落ちるし。
私が、街を守ることになるし。
うら若き食堂の看板娘に、なんて事をさせるのかしら。
熊だからって、お代はいただくわよ?
「ぐるるるる……」
バーグベアが、動き出す。
後ろの2人を巻き込む訳にはいかない。
地面を滑り、距離をとる。
歯車を手に出して、持つ。
あ、けっこう重いのね。
いつも浮かしてるから、わかんなかったわ。
クマの頭に投げつける。
ゴンッ
「がっ!」
「────こい、クソグマ」
「が、るるるるぁ……!」
ふふ、こんなもの投げつけられて挑発されたことなんて、無いでしょうね。かっかっか。
こちらにキレイに意識が向く。
冷や汗がでるけど、震えはない。
苦笑が浮かぶ。謎の状況だわ。
熊の魔物と、看板娘。
私がやるしか、もう、ない。
「クラウン、迎え撃つ」
『────了解。
戦闘をサポートします。』
がぁぁぁん!!
バーグベアが地面を蹴る。
すごい迫力だ。こっちにくるしね。
でも、ダテに1ジカも森を走りまくってないのよ。
距離滑りを逆回転。
後ろに木。
ギャギャキャーン!!
木をつたって空中へ。
次の瞬間。
木はすごい音をたてて、粉砕される。
空中で身体をひねる。
尾を引く金のツインテールが、視界に入る。
────トン、と、片足で着地する。
「すげ……」
「とんでるみたい~!」
小さくお褒めの言葉が聞こえる。
バカ、遠くに行ってなさいって。
私か、熊に、ぶっ飛ばされるわよ。
「ぐおおお!」
! 土を投げてきやがった!
足を折り曲げる。
回転が、開始。
真っ直ぐは進まず、円を描くように地面を走る!
当たんないよ~。
「があああ!」
向かってくる。
今のでわかった。
こいつ、移動するのはまあまあ速いけど、戦う時の小回りはきかないわ。
こっちの速さに付いてはこれない。
近ければ近いほど有利だわ。
ふふ、私、何言ってるのかしら。
家くらいデカイ熊に近づくって?
はは、どうかしてる。
「クラウン、罠をはる。高速回転する歯車を、とりあえず両手に2つずつ」
『────レディ。作戦概要の入力の申請。』
「なんて言うのかな……地雷?」
『────行動予測可能な回答。』
スキルと意思疎通ができた所で、バーグベアに突っ込む。
おお、キョドってるキョドってる。
向かってくるとは思わなかったんだな。
腕をふってくる。それしかないね。
きゅおん!
片足を前に突き出し、しゃがむ。
毛皮は上を通る。
「おみあげ」
胴体を一周して、等間隔に
高速回転した、歯車を設置する。
はいさよなら~。
「ぐぎゃああああ!」
もちろん歯車の歯は剣状に加工済み。
振り向きざまに、腹にくい込んだね。
おぉ、痛い痛い。
「ざまぁ」
『────プラン成功。
皮膚下7セルチの到達を確認。』
「家くらいあんのに、7セルチか……。けっこうカタイのね」
『────続行しますか?』
「いや。思うんだけど、こいつ、行動は単純だけど、頭はいい。同じ事したら足をすくわれる」
さっき、ストーンスタンプした時に、2回目と3回目は明らかにタイミングを合わせてきてた。2回目は避けられたしね。
同じやり方で、飛び込んだら、万が一捕まると、やられちゃう。
「ぐおお……」
? バーグベアの身体の方向がおかしい。
私から、目を離したな。
どこを見てる?
警戒しながら、目線を追う。
……火だ。
山火事のではない。
あれは松明だ。
街から、いくつかの松明が出てきている。
街の入り口が、バレた。
「ガガガががっ……!」
この熊、笑いやがった。
頭はいい、ってのを、取り消す。
こいつ、根性が腐ってやがる。
バーグベアと、街の間に、立ちふさがる。
「がああ……」
何、スゴんでやがる。
こちとら食堂の、看板娘なんだよ。
クレームつけてくるお客の相手も、してんだよ。
酒の種類を、増やせとか、
揚げもんの油が、腐ってるとか、
野菜の切り方が気に入らない、とかよ。
てめぇの顔ぐらいでは、ビビんねぇんだよ、私は。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」
覆い被さる影。
振り上げられた前足。
デカい爪ね。
迫力あるわ。
あんた生きてる間、そればっか、してきたんでしょうね。
バカのひとつ覚えってね。
────じゃあ、それからいきましょうか。
「────おねえちゃん、あぶない!!!」
きゅううううううん!
シュパッ!
「ぐおおおおおおおおおおお、おお?」
バーグベアの、振り上げられた腕が、とまる。
バーグベアが、不思議そうに振り返る。
腕に、黄金のブレスレットをしている。
歯の部分が、ワリとオシャレだわ。
そうよ、こう使えばよかったのよ。
輪投げ、しまる、固定する。
それでいいじゃない。
「ぐお! ぐお?」
がっ、がっ。
今さらそんな可愛い反応しても遅いのよ。
もうちょい追加しましょうか。
ギャギャギャ!
「ぐおお!」
ギャギャギャギャ!
「ぐおおお!?」
「ぐおぉおおぉぉおおぉおん!!??」
バーグベアの四肢は、完全に拘束されている。
さぁ、お代をいただきましょうか。










