仮面は上下、幼女左右 さーしーえー
森深くの、獣人たちの住処。
魔物に蹂躙されつつあるこの場所で、
しかしまだ、命を散らす血は、流れていなかった。
胴が長く、小さな"龍"のような魔物たち。
数は、今も、増え続けている。
だが、それらは、
凍てつく氷の魔法を、行使できずにいた。
──天から降る、黄金の衝撃によって。
小さな獣人たちは、見る。
白金のローブ。
髪の黄金飾り。
太陽のような、
濃い光の、瞳。
まるで、絵本の一編のような。
「あの方は……神の御使い様、なのか……?」
彼らは、弓を構えつつ、だが、見上げていた。
────天に浮く、神秘を纏いし、金の巫女を。
戦いの最中に。
獣人たちの視線を集めし巫女は、
あろう事か……お説教をくらっていた。
自らの額を守りし、黄金の仮面によって。
彼女の素直さは聡明であり、弱点でもあった。
明るき所は、仮面の言葉を聞き逃さない。
「ひとりでしない……ひとつをみない……」
『>>>そ。今回のは、この2つに尽きるよ』
空にて、仮面と巫女はしゃべる。
まるで、絵本の語りべのように。
魔物におそわれし、獣人の森で。
それは、油断ある愚かな行為か?
命を蔑ろにする、軽率な行為か?
……だが。
だが、それでも。
────仮面は、許さない。
信念を持った、獣人たちの死を。
氷の魔力の奔流。だがそれが発せられる前に、
黄金は、魔のモノに叩き込まれる!
────仮面は、忘れない。
巫女にいだく、感謝と慈愛を。
自身の想いを成し遂げた、心優しい少女。
害なすモノは、地面に叩き落とされるであろう!
皆様、騙される、ことなかれ。
かの道化の、道化たるしゃべり。
だがしかし、それは、
観客を沸かす、まさしく道化である。
──その本質は、黄金。
彼女に伝えるために。
彼は、抑えきっている。
彼は、邪魔させる気など、微塵もない。
彼は、遠慮する気など、さらさらないのだ。
数体の宙を泳ぐ魔物が、巫女たちに、近づく。
『>>>あのさぁ……ぼくがさ、魂の恩人と、大事な話してんだからさぁ?』
右の手には、黄金の、くさり。
左の手にも、黄金の、くさり。
『>>>ちょっと、空気読んどけよな──?』
─── ─────────── ──
───── ─────── ────
─────── ── ───────
───────── ────────。
振り回す"くさり"に、音など、しない。
仮面の意志が、巫女の両手を、しならせた。
巫女は、落ちゆくソレらが、
────"刺し身"に、見えた。
「……あなたもしかして、けっこう短気?」
『>>>な、やだなぁ……心外だよ?』
「ふふ……」
巫女は微笑み、追及しない。
気づいている。
彼女は、愚かしく、真っ直ぐだ。
彼に、守られていることも。
彼が、心を伝えたいことも。
「おおっ! また巫女様が、魔物をのされたぞ!」
「おしっ……! トドメは俺たちがっ!」
「構え! 落ちた瞬間に矢を放て!」
鎖の断ち傷だけでは息絶えなかった魔物たちも、
獣人の古き伝統の弓で、尽く狩り取られる。
地面に転がる魚を、彼らは逃したりはしない。
「また──……」
『>>>ひとつめは、もう、わかったかな……?』
仮面は、先程までの荒々しさをひそめ、
誓うように、優しく、話しかける。
「みんなを、頼れって、こと、だよね……」
『>>>あ、なんか、嫌そうだね』
「う……」
『>>>やれやれ。あのね? 後輩ちゃん……』
「────?」
『>>>たよることで、みんなに危険が及ぶって、考えてるだろ』
「う──……」
図星であった。
巫女は、自身が強くなりつつある自覚があった。
それに戸惑いつつ、一方で、責を感じていた。
チカラを持つ事の、責任を。
弱き者を、助けなければいけないという、強迫観念。
心は、圧迫されている。
しかし、同じ道を通って死んだ者。
彼は、気軽に、否定する。
『>>>……ちょぃと、ヒドイこと言うよ?』
「う、うん……」
『>>>おもいあがんないの』
「ぅッ……」
仮面は、ずいぶん、優しく言った。
『>>>アンティ。さっき一人でやろうとして、その結果が、あの悲鳴』
「…………」
ぐぅの音もでない巫女。
年相応の、表情が出る。
『>>>はは、そんなクチ、とんがらせないの』
魔物は黄金に、叩き落とされ続けている。
『>>>昔、ぼくの故郷で、こんな言葉が流行っていたよ』
「どん、な?」
『>>>"ぼくたちは、一人では、何もできない"』
「! それって───」
ありふれた、教示。
巫女は、仮面の故郷が、何処かは知らない。
だが、今、彼が言った言葉は、
意思を持つ生命が、いずれたどり着く、
絶対の観念ではないか。
少なくとも、ある程度、文明をもつ生き物たちが、
必ずと言っていいほど、手にとっている言葉だ。
『>>>先に言っておく。ぼくは、この言葉が大っ嫌いだ』
「ええっ……」
『>>>この手の言葉はね……発するだけで、それが尊いものだと、勘違いされやすい言葉なんだ。力を合わせることが、一番正しい生き方だと。力を合わせられない奴は、間違っているのだと、勘違いされる』
「え、えと……?」
『>>>ぼくはね、その勘違いのせいで、苦しみまくった奴を、よく知っていてね?』
「それって……」
巫女は、絵本の一ページを思い出す。
雪が積もりし中で睨み合う、金と銀。
まっしろなページの、最期の戦いを。
『>>>……ごめん、ちょっと感情的になった。ま、大嫌いな言葉だけど、教訓はあるんだ。わかる?』
「えっと……」
巫女は、考える。
わずかな時間だけ。
仮面は、道徳や、善悪の話をしたい訳ではない。
だとすれば、だ。
単純な、事実しか、残らない。
「みんなでやれば、はやい」
『>>>ははははは! なんだ、わかってるじゃない! そうだよ? 本質は、それだけなんだ。正しいとか、間違ってるとか、どうでもいい。物量……工数とも言うね。みんなでやると、やれる量は、増える。そして、はやい。当たり前だ』
「…………うん」
巫女は、仮面の声と、感情に触れ、
少し、思うところがあった。
彼は義賊……つまり、盗賊だったのだ。
世間の道徳からはずれた、正義の犯罪者。
誤解を恐れず表現すれば、彼は。
──"世の中に適合できず、つまはじきにされた"。
彼の信念は、大衆のソレと、少し、
────混ざれなかったのだ。
だから、彼は、黄金の義賊になってしまった。
巫女は、彼の心を感じとっていた。
『>>>アンティ。きみ一人でキツイなら、ちゃんと周りに、迷惑をかけなきゃ、逆に迷惑だ』
「────」
大衆とは、少し違う感覚。意見。
しかし、何故か妙な、説得力がある。
『>>>君だけで無理なら、みんなが傷つく。迷惑をかけて、みんなで済む問題なら、迷惑をかけたって、最後は迷惑にならないんだよ?』
「そ、それはっ……何となく、わかるけど……」
『>>>ぼくの時は、全ての者を、利用した。ぼくを嫌いな人も、ぼくに憧れる人も、ぼくが守っていた人も。……ぼくは少し、それをやりすぎた』
「……クルルカン……」
その仮面の声には、
確かに、悲しさと、寂しさが含まれていた。
声は、感情を伝えてしまう。
『>>>でも……きみは、違う!』
「え────」
力強い声が、額の仮面より、響く。
『>>>きみは、多分、心から、助けようとしてる! 本当に、本当に、心から! だから……それが、伝わるんだよ』
「───そ、そんな、こと」
『>>>あるよ。ぼくも、そのひとりだから』
力強く、言い切る、英雄。
先ほどまでの悲しさなど、
もう、吹き飛んでしまう。
それどころか、その声に、
温かい意志の輝きが、生まれ始める。
『>>>ぼくは、途中から、なんで守ってるのか、わからなくなってた。理由を考えて、問いただし続けて……』
「…………」
『>>>それなのに……くくっ、きみは、"困ってんだから、助けるのは当然じゃないの"ときたもんだっ!』
「え!? いやそりゃ、えと……」
『>>>眩しいよ、全く。そりゃ、笑顔になるし、心は照らされるよ。ずるいなぁ』
「え、えぇ〜〜……?」
金の鎖が、また、薙ぐ。
緊張感のない会話の中、
また刺し身が、地面におちた。
「そそ、そうなのかな……」
『>>>そうさ! それは、たくさんのもの、ひろいばしょを助ける力になるよ!』
仮面は励ます。黄金の巫女を。
自分のようになってほしくないから。
嘘をつかず、本当の心で。
こんな彼女だからこそ、
共に何かを守りたいと、思ったのだから。
『>>>前に、言ったでしょ? みんな、きみを助けたいって、思ってくれてる。それ、もう、才能だよ? ぼくと違って、みんなとやればいいのさ! 勿論、ぼくもいるしさ!』
「ありがとう……」
巫女は、敬意を払った。
助け続けて、死んだ英雄に。
そして、今も、助け続ける英雄に。
心強く思った。
──かの、黄金の義賊が、ここに、いるのだと。
『>>>お? なんか、いい感じでまとまったかな? いぇい! これで今までの好感度が……』
『────バックアップデータ、復旧完了。』
そして、
『>>>……あ』
「──え?」
もう1人の仲間が、目を覚ます────。
『────再起動完了。』
────歯車法常時展開型基幹デバイス。』
────"クラウンギア"、行動再開しま──……。』
『>>>あっ……お、おっはよ──……』
「???」
『────黄金の義賊クルルカン、貴様に一件、疑問点申告。』
『>>>な、なんでしょか?』
『────私はなぜ、貴様の膝の上に、収まっているのでしょうか。』
『>>>は、ははは────っ』
『────────有罪。』
「────……」
この時。
地に足を付けた獣人たちは、見た。
いくつかの黄金の歯車が、
今までの上下運動を止め、
いきなり真横にぶっ飛び、
幾つかの魚の魔物たちを、
三枚おろしにした瞬間を。
「けんかしないでってば……」
(*´∀`*)オイカメンオモテデロ










