先輩おにつよ さーしーえー
みてる。
みんな見てる。
地面に、刺さって、転がってる。
ラクーンも、魔物も、私も。
じっと、見ていた。
地面の。
────────────黄金の歯車を。
この時ばかりは、時が、止まったようだった。
『>>>え──っと、操作系……これか』
「え」
コロロン、
コロロン、
キンキンキン……。
「え、あの……」
『>>>アクセス。なんだこれパスワードか? 生意気な。あ、これ形状識別だな。ちょっとごめん』
あ、あの……?
クルルカン、さん……?
『>>>よいしょ。これでいいね? ──じゃ、いこっか?』
────きゅううううっん!!
────ジュアアアアアアアアンッ!!!
「────ッわっ!?」
地面の歯車たちが、全て同時に起動する。
聞いたことのない音が、重なった。
────ふぃに、声色が、変わった。
『>>>──じっとしてるなんて、余裕だな?』
ぞクリ。
それは、私に言ったことだったか。
それとも、魔物に言ったことだったか。
それとも、どちらにも、だったのか。
────ギュグオイインッ!!
「────!!」
地面に近い所にいる、くだ状の、魔物。
そのほとんどに、一瞬で、金の輪が光った。
それらが、一気に、地面に引っ張られる。
『>>>はぁい、おつかれさま』
「ッ! ……あなた──!」
前に、さっきの高さの声を、聞いたことがあった。
冷静だけど、冷たくなく。
熱を帯びて、のぼせない。
真ん中。
この声は、真ん中。
揺るがない。
ほんとに────さっきまでと、同じ人?
──シャアアアアアアァァァ!!
──シャ、オ! シャオオアァァア!!
『>>>……このスキル、便利すぎでしょ……』
「え、ちょ、ちょっと!」
『>>>ん──?』
え、だって、まだ。
「まだ、動いてる、よ?」
『>>>……もう。何言ってるの』
「えっ」
『>>>下』
だって、私が、倒さなきゃ──……え?
「した──?」
「──おっ、おい! 地面におちたぞ!」
「よ、よしっ、今だ! 弓を放て!」
「全然うごかないわ!」
「この金の輪、まさかあのお方の……」
「今は速く、数を減らしましょ!」
「あ、ああ!」
「やった! これでかなり減ったぞ!」
「やりましたぞ────っ! アンティラ様ぁ────!!!」
「あ────……」
みんなが……
みんなが、助けてくれた……!
『>>>……ね──え?』
「えっはっ、はい?」
『>>>ちょっとだけ、お説教、してい──い?』
うぇ!?
え、えと……?
この時の声。
怒ってる、っていうよりは、
優しさが、にじんできたような、声だった。
私はなぜか、母さんを、思い出していた。
失敗した時の私を、
優しくおこってくれる時の、母さんの声を────。
「──ま、まって、みんなが! 氷の魔法から、守らないと!」
『>>>だ〜〜いじょうぶぃ!』
「え、ええっ!?」
な、何を言って──────!?
──────ギュウインンッ!!!!!
「ぅっわっ!」
歯車たちが、一斉に、目線の高さまでくる。
私と、同じ高さ!
ば、ばかっ! そんなことしたら!
下にいる、みんなが!!!
「氷の魔法で! みんな、やら────!?」
『>>>だから、だ い じょ お ぶ !』
「ぅえ……?」
な、何を、根拠に……?
『>>>いや──だってさ……』
────ヴォォォオオオン…………!
『>>>──今。感知系と操作系──……』
『>>>どちらも僕と"直結"してるからね──?』
────きゅうおんっ、たぁァァん!
「なっ────!!」
歯車が────"打ち込まれる"。
この表現が、たぶん、
しっくりくる。
歯車が、真下に、飛ぶ。
敵の胴を、砕いた。
切れていない。
でも、地面に、打ち付けた。
氷は、見えない。
ラクーンたちが、構える。
「いまだっ!!」
「アンティラ様を、助けるんだ!」
「よっし! くらぇぇ!」
────────ソォォン!
──シャアァァ──……
「やっ、やった……すごい!」
『>>>ほぉらね? ぼくと違って、きみは、助けてもらえる! ──そぉら!!』
────シュッ! たァァアン!!
─────シュシュッ! たタァァアアン!!!
打ち込まれる。
打ち込まれる。
……なんで、当たるの?
先程までの歯車だと、
飛び交い、旋回し、
みだれるように、
盾となった。
しかし。
今は。
さ さ さ さ さ
が が が が が
る る る る る
゜ ゜ ゜ ゜ ゜
あ あ あ あ あ
が が が が が
る る る る る
゜ ゜ ゜ ゜ ゜
────上下にしか、動かない。
『>>>お空に浮いたのは、いいよ! とても、よく見える』
────きゅうういいん……ガッ、チャッ!!
『>>>さて……どんどんいくよ?』
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────はっやい。
見てて、わかった。
向きが、違う。
円盤を投げるみたいじゃなく、
輪っかが、落ちてくように。
上から、底の無いコップを、被せるように。
閃光みたいに、落ちていく。
回って、風を生み、風を受けず。
はやい────。
氷なんて、見えない────。
『>>>こぉら、きいてるぅ?』
──うわっ!
「──あっ! ぅえっ、と────」
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────シュタタンシュタタンシュタタン!
や、やば…………。
最初は、
「こんな時に話なんかしてる場合じゃ!」
って、文句を言うつもりだった。
けど……このひと──……
────────『格』が、違う。
全く、敵の氷の魔法が見えない。
さっき、"感知系"と、"操作系"を、
使ってるって、言ってた。
よくわかんない言葉だ。
──でも、察するに、この人────、
魔法を使いそうな魔物を狙って、
一番はやい形状の歯車で、気絶させてる……!
────ムダな動き、一切、なしッ!
こんの大量に魔物がいるのに、
一回も魔法使わせないとかっ……!
あんなに動きまくってるのに、
一回も攻撃を外さないとかっ……!
どんなに簡単そうに見えても、
一回も方法を変えないとかっ……!
そんなこと……人間ワザじゃ、ない────!
『>>>いやあの……人間、やめてるからね……? ほら、それより"お説教"!』
「あ、え!? はははは、はいっ!」
こんな時だけど、
空中キオツケする。
敵の攻撃があんまりにも、
発動すらしないので、
ついつい、かしこまってしまった……。
『>>>ふっ──ふっふ──!! では、心して聞くように!!』
え、うわ────、
まさか、めっちゃ、怒られるんじゃ───……!
────ご、っくん。
『>>>いつも、ひとりでしなくていい!』
『>>>いつも、ひとつをみてちゃだめ!』
……………………。
「──ふぇっ?」
────そ、そんだけ?
『>>>いやいやいや! いまからこれやっとかないと、ぼくみたいに、ホントにしんじゃうかんね!? ほんとだよ!? ねぇ、ねぇ?! きいてる!?』
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────シュタタンシュタタンシュタタン!
────シュタタンシュタタンシュタタン!
……これさぁ……。
お説教きいてる内に、終わっちゃわない……?
( º言º)ちっ










