やべぇ、どうすっぺ?
草とキズで汚れたラクーン達が、
高い木の枝から、柵の上を伝い、
見張り台を通って、地上におりてくる。
ジジアラさんも、かけつけている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
これだけ人数がいるのに、しゃべらない。
しゃべりだすのを、待っている。
その表情は、複雑だ。
「はぁ……見たことのない、魔物が、いた……!」
「どんな、だ?」
横のポロが、あわせた。
「──おれを、おかしいと思わないでくれよ?」
「言えよ。こんな時に、疑うもんか」
「……空中を、泳ぐ、白い蛇、だ……」
「……詳しく」
「すまん! 俺らが、つけられたかもしれない! この里に……!」
「まずっ、話せ!」
「う……気温が、変わったんだ……」
「……」
「木の上で、湖の方角だった……」
「気温……」
「寒く、なったんだ……! 木の上で、だから、進んだ……」
「……奥にかい?」
「まさか! 湖の領域なんて、入らないよ! おっかない! 手前に広がる森だ! けっこう深くまで入った……そしたら」
────私も、聞き入っていたけど──……
『────警告。周囲に、不定速移動にて、接近する勢力確認。』
「────!!!」
────────くそったれが。
「どうしたの!?」
「!?」
手を掴まれ、
コヨンの目にとらえられる。
「──わかるの。私達は、気配を感じとるのが、うまい」
「コヨン……」
「どうしたの。今、何を、驚愕したの」
「……」
すごいな。
周囲のラクーン皆が、
私を見ていた。
驚きは彼らに、充分に伝わったらしい。
「……かなり、近づいています。魔物の数は……」
────ヴゥン。
クラウンが、"不可視の地図"を、
目の前に出してくれた。
……なんだ、この、点滅の数は。
「100は、いる……」
「「「「「!!!」」」」」
「ほんと、なのね……」
いきなり小娘が言っても、
疑われそうな内容だけど、
皆に疑うような空気はない。
心を、感じ取られているんだろうか。
「うわあああ! おれの、おれのせいだ!」
「お、おちつけよ!」
「バカヤロウ! くそっ! おちついてられるか! あいつらは、空を飛んでた! こんな柵なんて、意味無いんだ!」
「なっ……そ、それは……ぐ!」
ポロの顔が歪む。
ポロだけじゃない。
ラクーンは、この柵に、誇りがある。
確かに、ドニオスや、カーディフに比べても、
弱い柵かもしれない。
でも、確かに、この柵を、大切に守ってきた。
その気持ちが、今、すべて無駄になる。
「弓持ちはあがれ! 守るのじゃ!」
切羽詰まったジジアラさんが、
最低限の言葉を吐く。
私を信じ、すぐに指示した。
あがる……木のことだわ!
私が理解した時には、
すでに、ほぼ皆が、
流れるように、離れてた。
四つ足で、翔ける。
木に登り、射るんだろう。
「むっ、むりかもしれなぃ! あいつらは、しゅるしゅると……!」
「弱音をはかないで! 針矢はあるの?」
「う、あ、ああ! すまない……いくよ!」
偵察に出てたであろうラクーン達も、
疲れているはずの身体を駆り、木を目指す。
「クラウン、地図の敵、これ……」
『────震音探知、限界有。空中振動のみの感知及び、柵状建造物の障害による精度低下。』
地図の敵の点が、ついたり消えたりしてやがる。
振動……"ゆれ"だ。
ゆれを見る事が得意なクラウンは、
今回のは、きつい。
「飛んでる」、「多い」、
「柵じゃま」、「見えない」。
「──クラウン! 柵をこえられてからッ! この数を認識は、ムリだっ!」
『────同意。索敵不足。』
やっば。
数がある。
地図。
里は上から見たら、円状らしい。
外から、円の半分に、寄せ集まるように、
魔物の反応が吸い寄せられてくる。
考えろ、考えろ。
今しかないぞ、アンティ。
その場、その時。
来る前に、考えるのは、今しかない!
「────クラウン! あがれっ!」
『────! レディ。予測展開。』
ローブの下の、金色の片足を上げる。
「────らァ」
────タァアン!
────キィィィィィィン────!!
少し下品な気合い声と共に、
地面を、ぶち蹴る。
身体は、そりゃ、あがる。
────視線なんざ、どうでもいい。
『────准反重力機構、展開中。』
おし。
おし。
これでいい。
さいしょの一手は、
これで、いいはず。
冷や汗の温度が、
おでこの冷たさ、背中の温さ、
2箇所に感じる。
「もうすぐとまって! 索敵お願い!」
『────仔細把握。』
地図の敵の点滅は、この地形で、
クラウンが音と絵を拾えないから。
やつらは、木の間を縫って、飛んでくるのか?
小型なのか?
ならば。
各個撃破は、だめだ。
ひとつひとつにかまいすぎちゃ、だめ。
取り囲まれてる、範囲が広い。
まずは、全体が見える高さに……!
────キュインキュインキュイン!
くそっ! この感じ!
まだ、前後左右には飛べない!
バランスが崩れる!
上に行くしか無理だわ!
里半分を見下ろせる高さで、身体を止める。
"反射速度"……だめだ。
この数を相手に瞬間的に超加速してたら、
すぐに熱暴走する。
半円状の範囲を守るんだ。
里の円周まわりを、行ったり来たりするような、
バカなことはできない。消耗しすぎる。
煙ふいて終わりだわ。
『────敵対勢力、柵状建造物まで、後、15ビョウ予測。』
「──ッ! ……考えろ、考えろアンティ……」
地図を見る。
地図の敵の位置が安定しない!
全体を見る高さのせいか!
遠くて、木の下にいる!
感知しきれないんだわ!
「クラウン! チャクラム展開!」
『────レディ。接敵ポイントに均等配置。』
「──くそっ! 広い! 高い! 見えないっ!」
はじめての、広範囲を守りながらの戦い。
────シュタタタタタタタン!
──私は、焦っていた。










