キラキラぺこぺこしょぼん巫女
ジジアラさん家の朝ごはんは、
茹でた野菜と、穀物だった。
ご飯のようなものが、
可愛く丸めてあり、驚いた。
ラクーンのみんなも、
特別な日に、これを食すそうだ。
……めっちゃ気ぃ使われてますやん。
とても美味しいまぜおにぎりだったので、
後で、再現したい。
着慣れぬローブを揺らし、里をまわる。
「あっ……アンティラさま、おはようございます!」
「えっ」
ぺこり。
だだだだだだだだた……。
「……なぜ、はしりさる」
────……。
とぼとぼとぼ。
ふらふらふら。
「あっ、アンティラ様だっ!」
「ほ、ほんとだ! きれいなお人だなぁ」
「きゃ──金巫女のアンティラさまよぅ!」
「うわっ、すごい……噂は、本当だったんだ……!」
「神秘的……」
「お美しいわぁ……」
「わ──! あんてぃらさまだ──!!」
「きれい──!!」
「は、はは、ははは、みなさま、おはようございます……」
────ぅぅぅう。
どうしてこうなっとぅぁぁああああぃ!!!???
わたしがきてからまだいちにちだぞ
わたしがきてからまだいちにちだぞ
わた らま だぞ
わたし からまだ ちだぞ
わた がきてからまだいちに だぞ
わ がきてからまだいちに ぞ
わたしがきて ちにちだぞ
わたしがきてからまだいちにちだぞ
めだちまくっとるやないの……
ぐすん……。
「はい、おはようございます」
「おげんきそうでなによりです」
「かわいらしいしっぽかざりですね」
「ほぅ、そんなことがあったのですね」
「ふふ、そんなことはありませんよ」
「わたしはそのようにりっぱでは」
「おやそのかたはこいびとですか」
「……いや、夫婦だから……」
「はは……知ってるでしょう?」
「はっ!」
ポロ君と、コヨンちゃんだ……。
「──ボロぐんどゴヨンぢゃんだああああ!!」
「うわぁ、いきなり芝居やめるのやめろよ!!」
「ちょ、アンティさん! 今は誰もいませんがっ! やり始めたことは、責任もって貫いてください!」
「だ、だっで、だっでぇ!」
「ちょおまえ泣くなっっって! "神秘の金巫女アンティラ様"で通ってんだからな!? あんた」
「なぁにぃぞぉれぇ〜〜〜〜!!?」
「はは……アンティさん、私達の里に、人間のお客様なんて、ほぼ来ないです。それだけでも注目の的なんですよ……」
「ちょ! ふざけんじゃないわよ! クルルカンより目立たないって言うからっ、この格好にしようってなったんじゃないぃ!」
「さ、叫ぶなって! バレるだろ色々!」
「あの……クルルカンのままだったら、抱きつかれまくって、歩く事すら、できなかったかもですよ?」
「うううううう……でも、なんでこんな、様づけなんて……!」
そうぞうして。
明日から、あなたの知り合い全てが、
あなたに、様づけ。
う、あ、ありえん。
ねこむ……
心がもたん……。
「なしてこんな悪目立ちするのん……」
「えと、いや、それはだな……」
「その──、ちょっと、ハマってしまってるというか……」
「……ハ、マる??」
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ」
「よ く な い わああぃぃい!!」
「アンティさん、落ち着いてください……」
「てかあんた、僕達が迎えにいくっていったじゃないか」
「あ」
「なんで自分から外歩いて、お上品な対応をしまくってんだよ……」
「うあああああああ──……!!?」
「アンティさん、自分見失わないでください……見ていて可哀想になってきますから……」
「おかあさまぁぁぁぁああああ────!!」
「──へくちっ!」
「お、なんだソーラ、風邪か?」
「……ん〜〜、あら〜〜?」
「どしたんだ?」
「娘に、様付けで呼ばれた気がしたわ〜〜♪」
「……な、何言ってんだおまえ」
「うふふふふ〜〜」
「お母さんばんざい……」
「ほら、とりあえず柵まで行こう」
「あまり皆が通らない所を選びますから!」
金の巫女は、小さな夫婦に、
ずるずる引きずられて行ったという。
ずらりと並ぶ、大きな丸太たち……。
「けっこう、しっかりした柵よね……」
「……むっ」
「えっ」
「ちょっと、怒った……」
「ポ、ポロ……」
「ごめん、なんでかな……」
「むっ」
「ポロったら、仕方ないよ……」
「えっと……」
私の一言で、ポロが怒ってる。
「……ちぇっ。アンティには世話になってるから、言ってやる」
「えと……」
「さっきの一言は、すっごい上から目線だってこと」
「──!」
「ドニオスに住んでてさ、でっかい街の壁に守られているから、"思ってたより"しっかりした柵、って評価になるんだ」
「あ、……」
「……アンティ、僕達は、死にものぐるいで、この柵を維持するんだ……」
「……謝罪します」
頭を下げる。
ローブの前に両手。
顔の横に、金が流れる。
命がけで作ったものを、
無意識に"それなり"と決めつけた。
そりゃ、怒るのは当然だ。
『────アンティ、それは──……。』
「ば! ばか! やめろって! 目立つから! あんたに頭下げられるとか、最高に目立ちまくるから!」
「ほ、ほ、ほら、頭あげてください、アンティさん!」
「で、でも……」
「いいから! 君はあんなに強いんだから、ちょっとは自分を主張したほうがいい! ……まったく。自分の想いに、自身の心をくわれるぞ?」
「う、うう……」
「ふふ、でも、強いのに素直って、とてもステキで、アンティさんのいい所ですよ?」
「ほら……そんな顔すんな。もういいから。ただ、他のやつに、そゆこと言わないでくれな?」
ポロや、コヨンは、私より小さな獣人だが、
今のやり取りは、彼らが私より年上だと、
よく感じるものだった。
久しぶりにガキっぽい失敗をして、
私はしょぼんとした。
「しょぼん……」
「口で言うのかよ……」
「アンティさん……今は、アンティラ様なのですから、お控えください……」
「すぅ……すみませぬ……」
そ、そうだわ。
今は、とにかく、この喋りで通さないと。
万が一、他のラクーン族がドニオスに来ても、
アンティラ様と、クルルカンが別人だと、
思えるような立ち振る舞いをしなきゃ……!
柵のまわりの、作業を始めている、
ラクーン達に目をやる。
けっこう騒いでたが、気づいてない。
とても、集中してるんだ。
目が、真剣そのものだ。
体が小さい種族だけど、この仕事が、
愛すべき故郷を、生命を守る事だと、
ここにいる皆が、理解しているとわかる。
「……順調だな」
「……そう、なの?」
さっきとは違い、少し、小声で話す。
「ああ。いや、王都まで一週間もかかると、思ってなかったのもあるけど……昨日は、魔物の襲撃がなかったらしい」
「……お爺様も言ってました。このまま、私達の柵が、仕上がってしまえば、よいのだけれど……」
「…………そうだね」
「────おぉぉおおおい! 遠方組が戻ったぞぉお!」
「「「────!」」」
私達と、その場のラクーン皆が、見張り台を見た。
一気に、晴れの空気が、険しくなる。
「この時間に戻るのは、おかしいわ!」
「え?」
「ああ、なにか、あったんだ……」
──たたかいが、はじまろうと、していた。
わたしがきてからまだいちにちだぞ
↑ちょっと遠目で見てね((((;゜Д゜))))。










