ひとはみためによりません!
────おのれの無知を、呪いたい。
里に入る、ちょっと前のこと。
「…………マジですか……」
「ははは、マジです……」
「いや……流石にこのまま里に入るのはなぁ……」
………………。
「…………失礼ですが、おいくつですか……」
「あーえと」
「僕も、コヨンも、23だ」
「……マジっすか」
「ちなみに夫婦だよ」
「……マジっすか」
「はは……ポロ、やっぱり兄妹だと思われてたね!」
「妻の旧姓は、ロトラだ」
「ちょ、ポロ……そんな情報いらないよぅ……もぅ」
「え、いや、そうか……ふっ、すまん」
「ふふ……!」
「はは……!」
……何やら甘い空気をかもし出す、獣人2人。
……当然だわ。恋人以上の存在なんだもの……
この子ら、こんなに、ちんまいのに、
私より、ずっと大人のカンケイだわ…………。
「……早く、言ってくださいよぉぅ…………」
地面に膝をつき、
がっくりと、肩をおとした。
クラウン……なして教えてくれんかったん……
『────訳。解説開始時に戦闘が展開。優先事項が再編されました。』
「ふんがぁぁ────……」
「あ、アンティさん、元気だしてください」
「別にそんな気にすることないだろ」
いや気にするでしょ。
タメ語きいてた人が、超年上だったのよ……
接客業としてやっちゃダメだろ……
超サラダ食わした記憶があるんだけど……。
「あんた達、よくガマンしてたわね……こんな年下の義賊クルルカンに、好き放題されて……」
「あ、いや、別にガマンなんて事は……」
「……正直に言うと、最初はアレだと思ってたよ?」
「ぐっ」
「ぽ、ポロ……!」
「……その強さに、怖さも感じてた。でもさ……」
「?」
「一言で言っちゃうとさ、あんた、いい人だよ!」
「え」
「ふふ、そうですね。そうとう、いい人ですね!」
「え、えと……」
「いや確かに子供扱いされて、戸惑ってたけどさ、そんな事関係なく、あんたはその格好をしてるのに、相応しいと思ったよ!」
「……いや、こんな絵本の仮装が相応しいって、私、何ですのん……」
「あ、私も同意見ですよ!」
ぐっ……この、仲良しラブラブ夫婦がッ……!
私が、クルルカンにふさわしいですってぇ……!?
「……泣けてきたわ」
「あ、そうそう、もうその口調でいいよ」
「そですね。私もそれで慣れちゃったし」
「はぁ……ポロ君、コヨンちゃんでいいわね?」
「「割り切るのはぇえ……」」
まさか8歳も年上だったとは……
アンティ、一生の不覚。
食堂娘として、あってはならない行為だわ……
年上にタメ語で野菜強要するとか……。
「なんで教えてくれたの?」
「これから里に入ったら、さっきまでのアンティなら、どう思う?」
「……なんで、子供ばっかしか、いないのよ意味わかんない、とか……?」
「はは……だから教えました」
「……ありがとうございます……」
「しかし、えらい早くついたなぁ」
「ほんとに。ビックリです」
「あんまり早いと、怪しまれる?」
「……いや、王都に片道一週間もかかるってこと、僕達くらいしか知らないと思うんだ」
「そんなバカなことする新婚夫婦は、私達しかいません」
「あんたらなんて無謀な新婚旅行してんの……」
そうか、じゃあ、今日の内に、
ラクーンの里に行ってしまおう。
この森をもうすぐ行けば、着くんだろう。
「あの乗り物は、もう乗らないの?」
「こんなデコボコの森じゃ、流石に無理。もうすぐなんでしょ? 歩いていきましょ」
「……ちょっと残念だ」
「楽しかったよね?」
「最初は震えてたくせに……」
「「ぐっ……」」
砂岩帯を抜けた所で、
ガルンツァーはバッグ歯車行きにした。
最高速度をクラウンに訪ねたら、
『────最高速度:777ケルメル/ジカ。』
とか言うので、
へぇ、この子も冗談言うようになったな〜〜と、
妙に感心した。
そんな速さ、私達だけならともかく、
この夫婦は、吹っ飛ぶわ、色々。
「なぁ、アンティ。その……その格好で、里に突っ込むのか?」
「……あによ。そうよ、文句あんの?」
「いや、目立ちたくないんだろ?」
「当たり前じゃない!」
「当たり前なんですか……」
「世界で一番、説得力がないぞ……」
な、何故に世界規模……
う、う、こんな黄金、黄金なんて……!
「しかもあんた、誰が子供か大人か、判別つかないんだろ?」
「うぅ、うん……」
「はっきり言うが、そのまま里に入ったら、子供はあんたの身体に登りまくるぜ?」
「なんでやねん!」
「あ──……登りますね、多分……誰が大人か子供か、取り巻きも含めて、ワケわかんなくなりますよ……」
「うわぁぁぁあああああ……」
な、何故だ。
なんなんだ、この金ドラ鎧の効果は……!?
特殊能力!? アレか!?
子供が人間登山するのは、仕様なのか!?
「なぁ……せめて、仮面だけでも隠そうぜ?」
「そのヨロイも、何とか隠せませんか?」
「うう……でも、仮面を外すと、顔が割れる」
「あんた……犯罪者じゃないんだから」
「それだけじゃない……力が落ちる」
「! そうなんですか!?」
「うん……"速さ"と、"魔法を見る"のが出来なくなる」
「……その仮面、すごいんだな」
「秘密でお願いします……」
「う、うん、しゃべらないよ。墓まで持ってく」
「私もです。でも、チイタハより早い魔物は、この近辺では、見ませんね」
「そうなの?」
「ああ……魔法も、氷とか水とか、見えやすいと言えば、見えやすいし」
「こおり? みず?」
「里の中で説明するよ。ようするにアンティ、僕達が言いたいのは」
「"クルルカン"に、見えないように変装しよう! ってことです!」
「ううぅうぅぅううう……変装してるのに、さらに変装する事になろうとはァ……」
そんな訳で、私のイメチェンが決まったワケである。
浮いてるクラウンに、
ポニーテールの髪留めをやってもらい、
前髪は、いつもと違う形の歯車で、結わえた。
"白金の劇場幕"は、
いつもはマフラーマントだけど、
実は、かぁなぁりぃ、デカい布だ。
いつぞやのヒキ姉を参考にして、
ローブ状にして、ヨロイを隠した。
仮面をとる時に、ポロとコヨンが、絶句した。
「「…………」」
「……あによ。アホみたいに口あけて」
「い、いや……」
「き、貴重な光景だな、と……」
「はいはい。で、どう?」
「とってもいいです! なんかカッコイイし!」
「後は、偽名決めようぜ!」
「ええっ!?」
────というような流れで、
ポニーテールと、ローブをまとった、
謎の冒険者、"アンティラ"さんが、
爆誕したのであります。
で、いま、ジジアラさん家の、客間。
「ふぁ〜〜、疲れた〜〜!」
誰が大人か子供か、
まっっったく見分けがつかないので、
全方位、くっそ丁寧に対応するしかない。
あ、一応、食堂の看板娘なんで。
丁寧な接客ってのは、まぁ、芝居みたいなもんよ。
「しかし、何故こんな設定になった……」
アンティラ様、て……。
巫女て、神官て、何やねん……
私、どこへ向かっとんのや……。
ギィ────……
「「ジィ────……」」
「わっ──!」
客間の扉のスキマから、
新婚夫婦が覗いていた。
「ちょ、ちょっと、あんた達、ビックリするじゃないのよ!」
「よかった……やっぱりアンティさんだ……」
「おまえ、敬語、喋れたんだな……」
「え、なに、ケンカ売ってんの……?」
……おい、何を遠い目をしてやがる。
「「人って、見た目によらないんだなぁ……」」
「……いや、あんたらもだから」
──その見てくれで、どうせ人には言えない事も、
しっかり経験済みなんで……
「あっ、ていうか、あんたら、私ん家で、一緒にシャワー入ってたでしょ!」
「アンティさん、おやすみなさい」
「明日また迎えにくるよ」
────ガチャコ。
「……逃げやがった……」
『────ご愁傷さまです。』
─────────新婚、マジ、ゆるすまじ。










