巫女? 神官? この人だれ?
もう夜だが、わしの家は、騒がしい。
「うわぁぁぁ……綺麗な人ねぇ……」
「すっげ……人間って、みんなあんな髪の色なの?」
「な、なんか、つり目って、いいよな……!」
「おでこ、きれい……」
「あの髪型、真似したいっ!!」
「わぁ、動く度に、サラサラしてる……うつくしぃぃ」
「あの服、なんか、神官さんみたいだな!」
「え! 巫女様なの?」
「え! そうなの??」
「なんでもいい……あの、隠しきれてない感じ……」
「ステキすぐる……」
「わかる! あんなに見えてる所、少ないのに!」
「きれいだよねぇ……溢れ出す、あの魅力ぅ……!」
「あっ、あっ! 手ぇ振ってくれた!!?」
「「「キャ〜〜〜〜!!!」」」
「す、すみませぬな……お騒がせして……」
「は、はは。いえ、人間が珍しいのでしょう。私も、獣人の方の集落に来るのは初めてですから、楽しいですよ」
「そう言っていただけたら……」
喋ってみると、謙虚な方じゃった。
珍しいだけで、このように皆が群がるわけがない。
この人は、自身の美しさに、うといようじゃった。
やれやれ、わしでも少し、あてられるわぃ。
「わしは、一応この里を任されておる、ジジアラ・ロトラと申しますじゃ」
「ご丁寧に。私は……あ、"アンティラ"と、名乗っております……」
む……?
今、不思議な雰囲気を感じよったな。
むぅ? "恥ずかしさ"……か?
悪意は、まるで感じぬ。
しかし……本当の名では、ないやもしれんな。
よもや、身分を明かせぬ理由があり、
それをおして、来てくだすったのだろうか……。
「つかぬことを」
「──はい?」
「ポロとコヨンとは、どういうお関係で?」
「あ、えと……友人の、友人、という事になるのでしょうか」
「なんと……よもや、無報酬で?」
「ふふ、今回は、特別に」
「……あいた口が、塞がりませぬな……」
じろりと、すぐ隣に座っておる、
新婚夫婦をにらみつける。
「あ、う……」
「うえっ! いやあの、おじいちゃん、あのね……?」
「やれやれ……孫娘夫婦を、こんな面の皮が厚いラクーンに育てた覚えはないのじゃが……」
「「うう……」」
「はは……本当に、ご夫婦なのですね……」
「……? と、言われると?」
「お恥ずかしながら、つい最近まで、ラクーンの方が、成長しても体格が変わらない事を知りませんでした……」
「おや、そうでございましたか」
「最初、彼らの事を、兄妹と思っておりまして……」
「「はは……」」
「じろり」
「「うっ……」」
……むぅ。
わしらの体格が小さい事は、
いくら人との交流が少なくとも、
けっこう有名だと認識しておる。
……まさか、本当に、
どこかの神職や、巫女の方なのか?
一部の地方では、隔離された、
穢れなき場所で、神職の教育を受けると、
昔に聞いたことがある。
「……失礼じゃが、貴方様は、どこかの神官か、巫女様でございますかな?」
「は、はい──!?」
顔上半分しか見えぬ少女の、
それでも、驚愕が伝わった。
表裏のない、素直な驚きの表情は、
彼女への不信感を、消し去りよった。
「な、なぜそんな事を、唐突に……私は、冒険者です。若いですが……ある程度の腕は、持っています……」
「冒険者……なるほど、先ほどの、身のこなし!」
リンセルごと、見張り台が崩れた時、
空を舞い、身体を抱えてくだすった。
見事な早業じゃった。
「同胞の生命を救っていただいた。心より、感謝申し上げる……!」
「あ、あ、いえ! そ、そのように謙らないでくださいっ! 私は、貴方より、遥かに若い……!」
「年齢など、今の感謝に、関係ございませぬよ。ふふ、アンティラ様は、随分謙虚が過ぎる」
「あ、アンティラ、"様"!?」
「お気に障りますかな?」
「…………いっ、いえ……人生で、様付けされた記憶が、あまり無いもので……」
「ぶっ!」
「ぷっ、くっくく」
「ポロ! コヨン! 何を笑っておる!」
「「っ! はいっ! すみません!!」」
「まったく……このような素晴らしい方を、無償で連れ回すなど……」
「す、素晴らしい、方……」
「「…………」」
「今日は、わしの家にお泊まりください。コヨン達は、もうこの家を出ております」
「……夜の、里の防衛は、よいのですか?」
「ウルフなどでしたら、見張りを交代して、木に潜ませておりますゆえ。見張り台が倒壊した所にも、多めに、射手を置いております」
「…………」
「それに、最近は、明るい時にくる、水属性の魔物が目立つのです」
「水属性、ですか」
「はいなのじゃ……ふぅ……」
神秘的な少女の前で、
しかし、思わず溜息をついてしもうた。
「アンティ、……ラ様。この頃は、水や、氷の中距離魔法を使う魔物が、多いんだ」
「柵を削る氷の魔法も脅威ですが、遠距離で、柵を越えてくる魔法が、危険なんです……」
孫娘夫婦が、代わりに説明してくれよった。
「日が登っている時に、水と氷の魔物がくるのですね……」
「うむ。なので、夜はまだ、気が楽なのですじゃ……」
「……心中、お察しします」
「ほほ、若いのに、丁寧な方じゃの」
なんと礼節をわきまえたお方じゃ!
普段の生活も、お淑やかで清貧に違いない。
同じ歳頃のラクーンに、
今の会話を、聞かせてやりたいもんじゃ。
冒険者と言っておられたが、実は、
正体を隠した巫女様か、神官様ではござらんか?
「見張りの手伝いでもと思いましたが、夜に休んだほうが良さそうですね。ジジアラ殿、お世話になります」
「はは、よい、よいのですよ。ご自分の家だと思ってくだされ! こんな、老いぼれしかおらぬ!」
「恐縮です」
丁寧なお辞儀と共に、
優雅に、美しい髪が流れた。
「「「きゃぁぁあ! きれ────い!!」」」
「「「う、うつくしい────!!」」」
「こりゃ────!! 皆、そろそろ家に帰らんかぁ────!!」
「はは、よいのです、ジジアラ殿」
「……ポロ。この人、だれ……?」
「いや……わかるけど、僕に、ふるなよ……」
『────200話更新を確認しました。』
「いや、だから、何話か本編以外の話あったでしょ……」
『────アンティ、いくつかの出版ギルドから、クルルカンに取材をしたいと人が来ています。』
「げっ……そんなことされたら、目立っちゃうじゃないの……逃げるわよ、クラウン」
『────レディ。逃走を、補助します。』










