くままじぱねぇ
目の前に、向こう岸まで10メルはある谷がひろがっている。
下には木が生い茂っていて、暗くて不気味だ。
さっきは1人だから飛びこえられた。
3人ではキツいだろう。
「……ぼくらがきたときも、ここがあって、左にいってまわったんだ」
「てことは、こっちから見て、右側に道があるのね? はやく行かないと……」
迂回してはやく向こう側に……
「ぐおおおおおおん……」
ずん、ずん……。
「くっ……」
「お、おねえちゃん~」
少し遠いけど、これ、絶対に右のほうから来てるよね。
どうする? 突っ込んで、横を通り抜けて下を目指す?
いや、ダメだ……下手すると谷側に追い詰められる。
私だけなら岩肌に食いつけるかもしれないけど、3人分の重さでここを落ちるのは最悪のパターンだ……。
「くそっ!」
「! アンねぇちゃん! そっちは!」
わかってる。街への道とは逆の方だ。
右へ行って、さっさと下へ降りたいけど、バーグベアに接近しすぎてる。今、出会い頭に攻撃されたら、小回りがきかない。
こっちから敵に近づくのは悪手だ。
それなら大きく左に迂回して、つかず離れず、追いかけられながら、左周りに進路をとった方が安全だ。
また少し山を登らなければいけないのは、うんざりするけどね……。
右後ろから感じる気配と反対、ガケぞいに左に進む。
少しずつ、崖から離れていって……。
ドドドドド……
? なんだこの振動は?
ドドドドドドド……
……冷や汗をかきながら、顔だけゆっくり左を見る。
「こ! 転がってきてる!?」
黒い塊が、ものすごい速さでこちらに向かってくる!
回転に回転で対応されたってこと!?
め、目が回ってくれてたりとかは、しないよねぇ……。
ドドド……ダン!!!
と、飛んだ
「! やば、いっ!!」
ほぼ反射的に、空に飛んで、避ける。
黒い影が、みるみる大きく、迫る。
ダガァァァァァアン!!!
バーグベアが、さっきまでいた所を、着地と同時に殴りつけた。
信じられない事が起こる。
崖側の地面が、裂けた。
うそでしょ
着地する、地面が、ない。
「「うわあああああ!!」」
加速が始まった。下へ、下へ。
周りには何もない。
燃える山がある。
高い。
「おおおあああ!!!」
無我夢中だった。
落ちる先の、空間に歯車を固定。
足場にできないか。
慌てていたのか、弾かれる。
身体が回る。
もう3つ。
こっちの勢いがありすぎた。
突き抜けて、落ちる。
ああ、
ああ、
ぜんぶ無駄になる。
下の森が広い。
大きい。
多分、私は叫んでいる。
こんな所で終わりたくはない。
みんなそう思うのかな?
風が速くて目にしみる。
歯車が上に流れていく。
あがこう、あがこう。
1人では、ないのだから。
偶然がおきた。
下から上に。
がむしゃらに、歯車を出していた。
大きな歯車。
あんなもん、輪っかに身体が通ってしまう。
足場として、意味が無い。
私は、慌てていた。
その歯車は、内側に歯ができていた。
その歯車を通るとき、
私の足首の回る歯車と、
その大きな輪が、
ガチリと、噛み合った。
ブォォン!!!
大きな歯車が、小さな歯車を、軸にして、まわる。
フワッ、と身体が空に止まる。
遠心力だ。
一瞬、私達は、浮いた。
横に、高い木がある
遠くて足は届かない
でも これしかない
「クラウン、チェーン」
『────予測実行します。』
黄金の鎖が、走った。
「─────えちゃん、おねえちゃん!」
「おきておねえちゃん~!」
気がつくと、地面に突っ伏していた。
生きてるわ。
やったね。
のろのろと、立ち上がる。
どごおおおおおおおおん。
前を見ると、熊が落ちてきた所だった。
相変わらず、怒り狂ってらっしゃる。
でも、熊。
お前、自分ばっかキレて、わかってないでしょ。
私だって、怒ってんのよ。
「チ……」
「「チ?」」
「チョ──……」
「「?」」
「チョォ──……、ム・カ・つ・くぅぅぅぅうう─────!!!!」










