動き出すはぐるま
「あの……神官さま?」
「…………」
お姉さんが固まってしまった。
私の能力を鑑定してるんだよね。
超不安な反応なんですが……。
「えっと、もしかして生活魔法レベルでしたか」
「あ! えぇ、とですね、何と言いましょうか、ね。」
「まさかとは思いますが……魔無しのままとか、ですか」
「い、いや! スキルはあります! あるんです! 能力おろしは成功しました! あなたは魔無しではありません!!」
そんな語尾に力をいれなくていいじゃんよ……。
「どんな能力ですか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
神官さんがチラチラ私の顔を見てくる。
「……はぁ」
ため息つきやがったよこいつ。
「アンティさん、こちらへ」
「え」
右奥の扉に案内される。教会の中の廊下。
途中で違う神官さんがいて、入れ替わりに教会に出ていく。
小さな部屋に案内される。机と、イスが2つ。
何? 取り調べ?
「座ってください」
椅子を引いてくれる。
神官さんは前の席へ。
「あのー」
「アンティさん」
「はい」
「私も神官になってもう4年目になります。正確には3年と3ヶ月ですね。私はまだ若輩者ですが、今まで勉強してそれなりに神官として立ち振る舞えているようにはなったつもりです。」
「はぁ」
「気のない返事ですねぇ……」
いやそりゃそうよ。
神官さんの経歴に興味なんかありません。
私の能力が気になるんですよ。
「こほん。つまり、私も誠実公正をかかげた立派な神官の1人、ということです。」
……自分で立派って言っちゃいましたか。
いやそりゃこの若さで女の人なら苦労してるのかもしれないけどさ。
「なので、いま私が見たもの、正直にあなたに伝えたいと思います。……慈悲はありません!」
慈悲ないの!
ここ教会でしょ!
ここいら近辺で一番慈悲深くあるべき!
神官さんが取り出した紙にサラサラと書きつける。
そっ、と差し出された。
身を乗り出して見る。
アンティ・キティラ
人間(♀)15歳
スキル:歯車法Lv.1
「…………」
「…………」
……なにこれ?
はぐるま?
「はぐる、魔法?」
「アンティさん、ハグルという属性の魔法はありません」
「いやでもこれはぐるま」
「あなたのステータスの異常さについて説明します。」
神官お姉さんにかぶせ気味でスルーされる私。
「まず第1に、あなたの体力がわかりません」
「は?」
「この紙を見てください。私が鑑定した情報は、それが全てです。」
「えと何がおかしいの」
「おかしいでしょう! 普通は体力とか、魔力とか、素早さとか見えるんです! 神官なめちゃいけませんよ!」
「な、でもこれ……」
「そうです。あなたには見えませんでした。名前と歳、性別、変なスキルだけです」
変なスキルっていうなや!
「次に、経験の値が見えませんでした」
「経験の値?」
「自身の成長の際に、身体に蓄積された魔力を消費する事があります。レベル、とも言いますね。あなたのステータスを見てください。変なスキルにはレベルは表示されています。ですが、
あなた自身のレベルは表記されていません」
へ、へんないうなやぃ……。
「最後にこの、へんてこスキルですか……」
まじ、慈悲ない神官。……グスッ。
「泣かないでください。ある意味、誇っていいですよ。これはおそらく、人類の魔法の歴史の中で、初めて確認されたスキルです」
「は、歯車法って、"魔"の文字ついてませんよねぇ……」
「…………」
何か言えや。
「とにかく、初見のスキルにある程度は興味あります。使ってみてくれませんか? 実はすごいスキルかもしれませんし」
ある程度って何よ!
「親戚のおじさん再婚するんですって」 「ふ~ん」
くらいの興味じゃないの!
ぐぐぐ、クラスの連中といっしょで、バカにしくさって……。
見てなさい!
もしかしたらホントにすごいスキルかも知れない!
あきらめたら試合終了なのよ!
意を決して、私は立ち上がる。
神官お姉ちゃんが怪訝そうにこちらを見ている。
そうだ見てろ、吠え面かかせてやるわ。
『 いでよ! はぐるまほう! 』
(うわぁ……叫んじゃったよこの娘……)
……
………
…………。
なにも、おきない。
いや、おきた。
目の前に円盤が浮かんでいる。
淡い金色の金属のような円盤だ。
あ、真ん中に穴ができた。
にょき。
にょきにょき。
外側に歯が生えました。
「「…………」」
手のひらサイズの、はぐるまです。
「……まわりますか?」
「……へ?」
「いや、歯車だから……」
…………。
きゅいいいいいいいん!
「めっちゃまわってますね」
「うわあぁぁぁぁん!! お母さああぁぁぁぁぁん!!!!」
ぎゅういいいいいいいいいいいいいいいいいん!










