⚙⚙⚙ 謎の巫女 ⚙⚙⚙ さーしーえー
あの方が、この里にきたのは、
陽の光がやわらぎ、
少し、腹の落ち着いた頃じゃった。
「ふぅ……」
「やっと、ここまで、きた……」
前に見える、小さなラクーン達が、額を拭う。
男連中は、次の丸太を用意し、
女子たちも、縄結いに精を出しておる。
わしも、柵の進捗を見に、
里の外側まで、来ておった。
「ご苦労じゃて、若い衆よ……」
「じっちゃん……! 湖の方面は、あらかた終わりだ……」
「後は、反対側だ……急がないと、また魔物たちがくる」
「ううむ……無理をさせてすまぬな」
「あ、ああ……いいんだ、ここが頑張り時だからな……!」
「一昨日の襲撃も、けっこう数がいたよね……」
「うむ……」
目の前に連なるのは、
蔦と縄で縛られた、丸太の杭。
彼らの小さな身体には、堪える。
わしらの里は、二重構造の柵が設けられているが、
今の増築は、その間にもう一つ、柵の列を設ける、
というものじゃ。
外側にある、一の柵。
里に面する、二の柵。
丸太と丸太の間での、力仕事。
疲弊すると共に、襲撃の危険もつきまとった。
小さな我らラクーンには、堪えるものがある。
「怪我をしたやつら、どうだ……?」
「水の魔法を受けた者は、もう大分回復した。じゃが……」
「氷を受けたやつらは……」
「うむ……しばらくは、安静じゃ……」
「……くそっ、なんで最近、水属性の魔物が多いんだ……」
「外から魔法を撃たれちゃ、防ぎようがないよ!」
「俺たちが運べる丸太の重さは、限度がある……氷の魔法を防ぎ続けるのは、厳しいぞ、じっちゃん……」
「そうか……」
なぜ、水の魔物どもが、こんな周期で……
まさか、あの邪悪な湖から、
やってきておるのか……?
いや、しかし……。
「────おぅい!!」
「「「!!」」」
すぐ横の、見張り台の上より、声がする。
ギシギシと、木の材が、音をたてておる。
「魔物かっ!?」
「──い、いや、違う! 誰かくる! 同族だっ!」
「ラクーン? ま、まさか!?」
「あ、あいつらじゃねぇか!?」
「あんの、バァカ新婚ども……心配させやがって!」
「助けなんか、くるはずがないんだ!」
「──ど、どうやらそのようだ! あの2人だよ!」
バカ新婚……ちょっと言い過ぎじゃが、
まぁ、2人の無事がわかり、嬉しい。
"王都の知り合いに、助けを求めてくる!"
などと……無茶がすぎる。
まったく、急に飛び出して行きよってからに。
「──!? ……誰かと一緒にいる!!」
「「「え!?」」」
「ほぅ……?」
……よもや、本当に、助けを?
……いや、王都が、わしらに人を割くとは思えん。
「──はは、手ぇ振ってら。おぅい───!!」
───ギギギギギ……
ぐらり。
「────え?」
なッ────!!!
「リンセル!! 降りろ! 見張り台が軋んでおる!!」
「やべぇ、氷の魔法をくらったところだ! 木材に亀裂がッ!!」
「とべっ! リンセルッ!!」
「──そ、そんなこと言われてッ」
────ギギギギギ……!!
────バツン!、パァン!!
「まずい、倒れるぞ!!」
「は、離れろッ!!」
「──う、うわぁぁぁあああああ!!!」
「り、リンセルぅ────!!!!」
────────キィィンッッ!
「────え?」
────どどどこごごろろおおんんん!!!!
「「うわぁぁぁああ!!!」」
「「きゃあああああ!!!」」
木材がはだけ、縄が千切れ飛んだ!
砂煙があがり、視界が途切れおる!
「ご、ゴッホ、ゴッホ、く……」
「み、みんな、大丈夫かッ!!?」
「た、倒れてしまったの!?」
「! リンセル!? リンセルはどうした!?」
な、なんということじゃ……
見張り台の支柱に、亀裂が入っておったか……!
あの、石のような氷の塊をくらっておったら、
それは亀裂が入っていてもおかしくはない!
「リンセル──! リンセル────!?」
「おぉ────い!! へんじしろ──!!」
視界を遮る砂煙をまたず、
仲間の安否を声で探る。
音が、聞こえた。
──────キィン。
「「「!!」」」
「「「!?」」」
わしらラクーンは、気配や音に、敏感じゃ。
…………金属、か?
甲高い、金属が鳴るような、空気を走る音。
けむりの中から、聞こえよる。
────キィン。
──────キィン。
────────キィン。
「……なんだ? この音……」
「ちかづいてくるよ……?」
「な、なんなんだ……?」
「むぅう……?」
────けむりが、晴れゆく。
見えたのは、人影。
近づいて、くる。
髪が、長い。
「────……!」
「────あれは……?」
「────人、か……?」
ゆっくりと、色がわかるようになりおる。
髪が、金だ。
陽の光と、よぅ似合う。
前に、二つにくくり、
金の髪留めで、留めておる。
身体は、大きな布で、すっぽりと覆われておる。
あれは……神官服じゃろうか……?
────────キィン。
──────キィン。
────キィン。
足元は、大きな布で、見えない。
じゃが、身体の揺れで、足音だと、わかった。
同時に、顔が目に入った。
「あ、あんた────……?」
「わぁ────……」
何人かから、感嘆の雰囲気を感じる。
気持ちが、わかる。
この者の、瞳を見たのだ。
────太陽のような瞳の、人間の少女がいた。
顔の下半分は、身体と共に、
白金の神官服に、隠されておる。
しかし、上の顔だけでも、
端正な顔立ちと、わかった。
神秘的な、少女の輝きが、満ち溢れておった。
「「「────……」」」
瞳の輝きに、皆が、言葉を失いよる。
この中には、初めて人に会った者も、
いるはずじゃ。
しかし、最初に見るには、
この少女は、神秘的すぎた。
淡い、光流るる、金の髪。
太陽を、封じ込めし、瞳。
口元から下を隠す神官服。
神の、御使いのようであった。
「────大丈夫、ですか?」
少女が発し、
「えっ……! っと、だ、だ、だいじょぶ、ですっ!」
同胞が、照れ、緊張しながら、答えた。
「ふふ、よかった……」
「お────い! 大丈夫かぁ───!!」
「わぁ──! リンセル、お姫さまだっこされてる───!」
「なっ! わっ、わっ!」
ポロとコヨンが、走ってきて、
見張りの若者を、赤くさせた。