聖樹の勇者 〆 さーしーえー
迷った。
迷ったさ。
決意を決めても、迷ったんだ。
でも自分の、手を見て、思った。
────痛くは、ない。
でも、見れたもんじゃ、なかった。
はずかしい、こぶしだった。
ぼくは、戦い続けて、生きてきた。
長かった…………。
ぼくの、寿命がどれほどあるか、わからない。
でも、ぼくは、納得していた。
ずいぶん、長く、生きた気がした。
すると、震えがとまり、恐れが消えた。
ぼくは────"さいごの しんぱん"を、
受けることに、決めた。
決めた時には、ちょうど、
太陽が、登るか、登らないかの時だった。
"みつかい"たちが、少ない。
もしかしたら、彼らは、
夜に休む種族なのかもしれない。
だとしたら、今しか、ない!
ぼくは、大きな囲いに、駆け寄った!
「"ちいささ!"」
ズウウウウウウウウ…………!!
や、やった、成功だ!
目の前の囲いが、少し、縮んだ気がする。
でも、まだ、大きな囲いだ。
でも、大丈夫。
このチカラを使っている時、
ぼくの体力は、なんだか強くなるんだ。
思いっきり、やってやる────!!
ぐぐっ────!!!
「ぇええ────い!!!」
ぴょ────────ん!!!!
────ぼくは、囲いを、跳び越えた。
中に入ると、幻想的な、光景だった。
たくさんの、木や石で、組まれたもの。
住処だ。
きれいだ。
少しずつ、陽の光が、強まっている。
急がないと。
まだ、暗いうちに。
"せいなる しんでん"を、見つけなければ。
大きさは戻り、全ては、大きくなった。
もう少し、ゆっくり見たいが、
ぼくには、時間がない。
たくさんの、"かみの みつかい"に囲まれたら、
ぼくは、食べられてしまうだろう。
それでは、意味がない。
「探せ、探すんだ! "光さす場所"を!」
どこだ、
どこだ、
────どこだ!
「────────……!」
あ…………
「色が…………」
色が、ちがう。
あそこだけ……。
高いんだ。
だから、さいしょに、陽の光が、当たる。
ぼくは。
吸い寄せられるように、そこに行った。
高い、白い、何かだった。
下から見たら、すごかった。
この囲いのなかで、一番、高いんだ。
光は、さし始めている
もう、移動はできない。
ここだと、祈るしか、ない。
四角い木の穴をくぐり、中に入った。
そこは、静かで、ちょっと薄暗い場所だった。
でも、懐かしい、木の匂いがした。
ぼくは、進む。
すごい……ここ、全部、真っ直ぐな木で、組んである。
こんなこと、ぼくには、ぜったいむりだ。
すごい……
すごいや……。
光が、少しずつ、強くなった。
緩やかに、この場所が、照らされていく。
「…………あ」
目の前に、しかくい、"台"が、見えた。
「……………………」
『……ねぇ長老、"さいだん"って、どんなの?』
『む? ……むぅ、そうじゃな……光さす、台……』
『台?』
『……ああ。光さす、いけにえの、台なのじゃ……』
あの、会話を、思い出す。
「"さいだん"だ…………!」
横に長い、しかくい、台。
真っ直ぐな、木で、できている。
……いや、まっすぐじゃ、ない?
ちがう。
歪んでいるのは、木じゃ、ない。
ぼくが、泣いて、いるんだ────。
「…………やった、ぞ……」
──少しずつ、明るく、なって、きている。
「ぼくは……ぼくは! 見つけ、たんだ………!」
──いけにえの、さいだんに、近づく。
「ちょう、ろうっ! ぼくは、やった……やったよっ!!」
──涙が、とまらない。
「一つの事をッ、やり遂げたんだっ!!!」
脚に、チカラを、込めた。
「やり遂げたぞッ!! みんなぁッ…………!」
ぼくは、跳んで、
台につまずいて、
"さいだん"の、上に、転がった。
「は…………」
"いけにえの台"に寝転び、上を見る。
天の木に、大きな、まぁるい穴が、空いていた。
空が、きれいに、見える。
「────ここから、"光"が、さすんだ────」
その時が、ぼくの、終わりの時だ。
ぼくは、満足して、目をつむった。
むにゃむにゃ────……
「────────……」
にゃんむにゃんむ────……
「────────……い」
───む、むぅう?
「お────い、きみ?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
飛び起きた。
明るい。
木の模様が、よく見える。
────"かみの みつかい"が、いた。
「あ、ああ────……」
ビックリしたけど、こわくは、なかった。
明るさの中、ひとりだけいる、
この"みつかい"さまを、
よく、見ることができた。
おおきい。
シュッと、している。
茶色い、頭だけに生えた毛。
蒼と、緑の、瞳。
身体には……あの、"りんご の せいじゅ"の、
葉の色に、似ている何かを、まとっていた。
それが、ぼくを、冷静にさせた。
「……驚いた。キミ、こんなところで、何をしてるのかな?」
わぁ、すごいな。
ぼくは、"みつかい"の言葉も、わかるのか……。
ぼくは、こたえた。
「……"さいごの しんぱん"を、受けに、来ました……」
「う────ん?」
"みつかい"さまが、微笑みながら、首を捻っている。
あ……そうか。
ぼくの言葉は、わかんないのか……。
さびしくなったけど、
ここまで来たら、しょうがない。
ぼくは、ここで、運命を、委ねるしかない。
ぼくは、長いこと、生きた。
後悔は、ない。
ぼくは、覚悟を決め、お辞儀をし、
両手を、前に、差し出した……。
「…………ふむ」
「…………」
…………。
…………。
────スポッ!
「────すぽっ……?」
────なんだ? 今の。
「ほほぅ……これは、可愛いですねぇ。ほれ、もういっちょ!」
────スポッ!
「わっ!」
な、なんだなんだ。
この"みつかい"さまは、一体何を────……?
「な、なんだこれ……」
ぼくの両手が、何かに、覆われている……。
「うぅん、いい! 白にはえて、いいですね!」
"みつかい"さまは、何を言ってんだ。
「あなた、名前は?」
「えっ────……」
いきなり、きかれた。
そうだ。ぼくに、名前がない。
胴を、左右にふる。
「……名前、ないんですか?」
うなずく。
「そ──ですか……てか今、キミ、言葉、理解してませんでした?」
! そ、そう!
「そうだよ! わかるよ!」
「可愛い鳴き声ですねぇ〜〜!」
あ、やっぱダメだ。
「小さな冒険者さん? 私はキッティ。キッティ・ナーメルンと申します。あなたの名前、私がつけてあげますよ!」
「え」
ちょ、いや、そんないきなり────。
「あなたの名前はですねぇ──────」
────────。
ちょっと、昔のことを、思い出していた。
ふふ、なんで、突然思い出したんだろう。
「おぅ、元気か?」
「とっても!」
男の"みつかい"──じゃないや、
冒険者が、ぼくに、挨拶する。
言葉は通じないが、これくらいなら、
表情で、察してもらえている。
「や────! きょおもかわゆいぃぃい───!!」
「あ、ど、どうも……」
女の冒険者さんが、ぼくをめっちゃ見てる。
……目がこわいな……。
たまに食べ物をくれるのは嬉しいけど、
この人、ぼくを太らせて、
食べる気じゃないか……?
「はぁぁぁ……今日も、大人気ですねぇ……?」
「……いや、そんなこと、言われても……」
ち、ちょっと、キッティ!
尻尾! くりくりしないで!
こ、こらぁ、毛に指つっこむな!
な、なんてやつだ!
ぼくは、こんな受付嬢に、"最期の審判"を、
やってもらうつもりだったとは!
こ、こらぁ、やめろぉ……!
「──キッティ、何を遊んでいる……」
「げっ、ギルマス……」
「あ、こんちゃ」
ほらぁ、ヒゲイドさんきたじゃんか……。
知らないよぅ?
怒ったら、こわいから……
いや、ぼくも、初めて会ったときは、
ホントに食われると思ったけど……
「おまえ……手紙の整理は終わったのか……?」
「え!? いや!! あんなの、アンティさんが帰ってきたら、チョチョイのチョイで、終わらせてくれますよ!」
「バカ者! 今回の目的地は、ラクーンの里だと言っただろう! 長いぞ! 逐一わければよかろう! おいおまえ、キッティと受付を代われっ!!」
「ぎあああああああ……!!」
ほら、言わんこっちゃない。
あああ、あんな残念受付嬢が、
ぼくの、名付け親なんだよ……?
いや、まあ……
名前自体は、気に入ってるんだけどね?
ぼくの、名前は────────……、
──────ぼくの名前は、うさ丸。
今日もぼくは、
"受付カウンタ"に、座っています。
ここは、楽しい。
色んな人間が、やってくるから。
ああ、でも、最近は、
あの子といるのが、楽しいな!
あの金ピカの、変な格好の、女の子!
あの子はなんだか、ぼくの言葉を、
とってもよく、わかってくれるから!
「は──や──く──、帰ってこないかな────?」
「なんだ、うさ丸が、歌ってんぞ?」
「ぶぶぉ……か、可愛すぎる……」
「はは、あいつ、ユニークなんじゃねぇか?」
「愛嬌ありすぎだろ……」
「一家に、いちにょき、ほすぃ……」
「きゃあ〜〜〜! うさ丸〜〜!」
「こっち見て〜〜!! ニンジンあげるから〜〜!!」
む!
も、も──!! しょうがないなぁ──!
「────にょきっとなぁぁぁぁぁあああ!!」
今回の感想(●´ω`●)
感想欄、こえぇ(笑)
けっきょく、何人、気づかんかったん?(笑)
ヾ(*´∀`*)ノ