聖樹の勇者 ⑥
──完全に、油断していた────。
「ォォオオマエ、デブダ、ゥマソウダナァ……」
「グルルルルルルルルゥゥゥゥゥ……」
「グゲゲゲゲゲゲ、フルエテヤガルナァ……」
「ハ、ハヤククイテェエエエエエエ……!!」
「あ、ああ、あ……」
やっぱり、ろくでもない、チカラだ。
自分を、食おうとしている魔物の、
言葉なんて、ききたくなかった。
「グググ、オイ、オマエハ、ミギカラダァ……」
「ワカッタァアア!! イツモドオリダナァ……!!」
「グゲゲゲ、オレラニモ、クレヨ?」
「ラクデ、イイナァアア……」
あ、あ、みぎ。
みぎから、くるのか。
あ、いや、ちがう。
相手のみぎは、
ぼくの、ひだりだ。
「グォオオオオオオオン!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!?」
転がるように、避ける!!
「──オォオ!?」
「バカメェェェエエエ──!!」
っ!! はさみうちだ!
反対に、跳ぶッッ!
「ナァァァニィィイイ────!!?」
「──ヨケタゾッッ!!?」
「ナニヲシテイル、グズガッ!!」
「ドウジニ、マエカラダッ!!」
前からだって!?
「うわぁぁ────!!?」
「「ガルルルルル!?」」
真っ直ぐに来たので、跳び越した。
砂に、着地する。
なんだ!? いつもより、跳べた気がする!
ぼくは、こんなにジャンプできたっけ!?
「……グルルルルルルルル……」
「……ナメヤガッテ……!!」
「はっ!!」
ぼくは、気づく。
……最悪だ。
前に、最初に襲ってきた、2体。
後ろに、今、跳び越した、2体。
完全に、囲まれた。
「グググゲゲゲ……コケニシテクレタナ……」
「ソロソロ……ニクニ、ナレヨ……」
「う、う、あ……」
ぼくは、ここで、しぬのか……
こんなところで……。
大いなる魔物の、1体が、言った。
「オマエハナ、ソウイウ、ウンメイナンダヨ。マッタク、アガク、イミガ、ワカラナイナ……」
…………はぁ?
「クワレルシカ、ノウガナイノニ、ナゼ、ソレカラ、ニゲルンダ……ソウイウノガ、イチバンミテイテ、ハラガタツンダヨ……!!」
「グゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!! ナンダオマエ、ニクニ、セッキョウ、タレテルノカ……ガガガガガ!!!」
「ガガガッ、バカジャネェノ!? ガガガググガ、オモシレェ!!」
…………なんだ、って?
「ソレシカ、ナインダ……オトナシク、メヲツムッテ、クワレロ? ナァ?」
…………!
────……驚いた。
こんな、気持ちになるとは、思ってなかった。
ぼくが、ここにくるまで、思ったこと。
"自分より小さな生き物も、必死に生きている"
こいつらが、小さいぼくに、思ったこと。
"オマエガクワレルノハ、トウゼンノコトダ"
…………。
…………。
「ふざけんな……」
怒りが、あった。
強いものが、
弱いものを食べるのは、
仕方ないことなのかも、しれない。
ぼくも、木の実や、根っこを掘って、食べる。
もし、ぼくに草の声も聞こえたら、
ぼくは、罪悪感が、わいただろう。
それでも、食べるだろう……。
でも。
こいつらは、ちがう。
生命を、侮辱している。
食われる事が、運命なワケ、ないだろ。
みんな、一生懸命生きて、
仕方なく、食べられるんだ。
それなのに。
それなのに。
────おまえら、何様だ。
ぼくの仲間も、
こんな事をぬかす奴らに、食われたのか?
────。
あんまりだ。
あんまりすぎる。
あんまりじゃないか。
はは、ぼくが、変なのか?
生命に、敬意を払う、ぼくが。
生き物として、間違っているのか?
…………。
────でも。
───この心を、
──ゆるがす気は。
──────────ない!
ぼくは、
どうしようもない怒りで、
ふるえていた。
「グ……グギャギャギャギャ──!! フルエテヤガル!!」
「──ソレデイイ、ソレデイインダ。タダシイ、スガタダヨ。イイコダァ……」
「オマエラ、ニクニ、ハナシカケテ、ハズカシクネェノ? ヤダヤダァ……」
「ガルルルルルゥ!! イイカラ、ハヤククワセロッ!! グズドモガァ!!」
「う……う………!!」
やつらは、同時に、体を沈めた。
わかってるさ。
同時に、飛びかかる気だ。
きた。
「「「「ガルルルルルォォオオオン!!」」」」
「う……うおおおおおおおおあああッッッ!!!」
──────ピカァァァア!!!
────────ぼくの胸が、光った気がした。
…………ボボん。
「……ぼぼん?」
ぼくの身体に、何か当たって、跳ね返った。
そんなに、重いものじゃない。
痛くない。
え、なんだ……?
「グ、グアアア……ナンダヨ……!!」
「ドウナッタンダ……!?」
「グガガガ……スナガ……メニ……?」
「ァ、アアアア……!?」
…………。
なんだ、こいつら。
…………ねずみかな?
きょろ、きょろ。
……さっきの魔物は、どこへ行ったんだ……?
「グ、グガ!? グググガ!?」
「ナ、ナンダコイツ!?」
「コ、コレハ、ドウイウコトダ……!?」
「ナンデ、オレタチガ、チイサクナッタンダ……!?」
「え……小さく……小さく!?」
まっ、まさか、このねずみ、
────さっきの魔物たちなのかっ!?
「……………………」
「「……………………アァット……」」
「「………………ソノデスネ……」」
「うおおおおおおりゃあああああっとぉぉおお!!!」
────ドゴオオオオオオオオオオンンン!!!
「「ギャアアアアアアア!!!」」
「「ニゲロオオオオオオ──!!!」」
4匹のねずみは、一目散に、逃げてった。
下には、大きな砂の穴が、空いている。
「はは、はは────」
ぼくは、しゃくりと、砂の上に、座りこんだ。
……"りんご の せいじゅ"は、
もう一つ、ぼくにチカラを、くれたのだろうか。
「────"魔物を、小さくする、チカラ"……?」
ぼくは、このチカラのことを、
"ちいささ"と呼ぶことにした。