聖樹の勇者 ⑤
「……こんにちは」
虫に、話しかけてみた。
「うわぁぁぁああ、食べないでくれぇ──!!?」
悲鳴をあげて、飛んでった。
「……こんにちは」
トカゲに、話しかけてみた。
「ぬっ!? なんだこのやろっ!?」
目が、怖かった。
「……こんにちは」
豚に、話しかけてみた。
「ここは、俺んナワバリだぁぁぁぁぁああ!!」
小さな豚だったが、突撃されて、転がった。
………………。
………………。
………………。
生き物の、言葉が、わかるようになっていた。
「…………なんで」
ぼくが、虫や、トカゲや、豚の言葉を、
理解できるはずがない。
なのに、わかった。
「────なんでだろう……」
……………………。
ぐぅ〜〜……。
おなかが、へったな……。
む? ……なんだ、これ。
「……こんにちは」
キラキラ光る花があったので、話しかけてみた。
「…………」
「…………」
花は、しゃべらなかった。
……草の声は、きこえないのか?
────キラキラ。
────────キラキラ。
……おなかがへっていたので、
光る花を、食べることにした。
──しゃくり、しゃくり。
「…………まっず」
苦かった。
でも、食べれないことはない。
この苦さは、毒じゃない。
我慢して、というか、謎の意地で、
そこに生えていたものを、全部食べた。
「…………ふぅ」
未知の現象にあったことで、
少し、悲しさと、虚しさが薄れた。
────意思のある"動物"の声が、わかる。
自分の耳を、さわってみた。
「────! これって……」
ピン! と、広がり、少し、大きくなっている。
カタチが少し、変わっていた。
さわるまで、全然気づかなかった……。
「ど、どうなっているの……」
ぼくは、考えてみた。
なぜ、こんなことに、なっているのか……。
…………。
…………。
…………。
『──"みんなの声を、ずっと聞いていたい……"』
「────まさか」
心当たりが、あった。
「みんなの声を、ずっと聞いていたい……」
ぼくが、"りんご の せいじゅ"に、願った事。
あの、"光のりんご"…………。
……長老は、言っていた。
あの大樹は、とても不思議な力を、
持っている、って……。
「だ、だからって、こんな……」
ぼくが言った、みんな、ってのは……その、
会えなくなった仲間達のことであってですね……
この世界の全動物の言葉なんて、きいても、
仕方ないじゃあ、ありませんか……。
「"せいじゅ"が……勘違いしたんだ……」
それしか、考えられない。
……なんて、変なチカラなんだ……。
それに、この力には、欠点がある。
ぼくは、相手の言葉が、わかる。
相手は、ぼくの言葉が、わからない。
ぼくが、きけるだけで、会話にすら、ならない。
一方通行だった。
「いみないやん……」
うなだれた。
しょぼんと、した。
「くすくすくす」
「くすくすくす」
……森の生き物たちが、笑っている。
……ぼくを、笑っているのでは、ないかも。
……ぼくを、笑っているのかも、しれない。
「はぁ……長老、ぼくは、なんなんだろう……」
トボトボと、進むことにした。
食べて、眠って、歩いた。
森を、慎重に、あるいた。
足跡や、匂いや、音。
様々をよんで、危険を、回避した。
たまに聞こえる、自分より小さな生き物の会話。
最初は、意味のないチカラだと思った。
でも、生活の見える彼らの会話は、
聞くだけでもだいぶ、ぼくの心を癒した。
好きな相手に告白する虫や、
速く走る練習をするトカゲ。
家族を大切にする豚。
ぼくは、なんで生きてるかわからなかったけど、
彼らの生き方は、立派だな、と思った。
みんな、小さいのに、必死で生きているんだ。
──それが、よくわかる、チカラだった。
──ぼくの目に、光が戻ったころ。
やっとだ。
やっと、この森を抜けた。
「ひろい──……」
──ひろがる、大地があった。
ぼくは、はじめて、森からでた。
こんな、見つかりやすい所に、来たことはなかった。
「すごいや……」
はじめてみる"広さ"に、感嘆した。
感動、していたんだと、思う……。
ほんとうに、ほんとうに、気づかなかった。
「…………オマエ、ウマソウダナ……!!」
「────!!!」
「…………グルルルルルルルル!!」
森と、砂の境い目で。
──ぼくは、大いなる魔物に、囲まれていた。