聖樹の勇者 ④ さーしーえー
────ァァァアアアア────
「な、ぜ────」
輝くりんごが、ぼくの前に、浮いていた。
今まで食べた中で、一番、強い光を放っている。
あまりの明るさに、周りが、暗く見えてしまう。
ぼくは、それを目の前にして、
悲しくなった。
光っていることなど、どうでもいい。
────これは、食べ物だ。
今、ぼくに、生きる意味なんて、ない。
「なぜ、なんだ────」
"りんご の せいじゅ" を、
泣き顔で、睨み返した。
「なんで、ぼくに、"食べ物"を与えるんだ……!」
悲しみからくる、怒りがあった。
「ぼくに、ひとりだけで、生きていけっていうのか……」
──そんな、ことに、なんの、いみが、ある。
「ひとりだけで────」
スゥゥゥウウウ────……
光るりんごは、ぼくに、ちかづいた。
その、ゆるやかな動きに、思わず、手を差し伸べた。
「あ……」
手の中に、それが、おさまる。
あたたかい、ような。
ひやっこい、ような。
不思議な、りんごだった。
「……」
わからない。
いみがない。
ひとりだけ。
たべて、
いきて、
そして、どうする?
ほんとうに、みんな、いなくなって。
ひとりに、なって。
────────じゃあ、どうする?
たべたって。
のんだって。
遊んだって。
ひつよう、だった。
とても、みんなが。
それが、わかるよ。
ほんとうに、ひとりになった時、わかる。
みんなだから、いきるいみがあったんだ。
残酷だけど、"そう"、なんだ────。
でも────────……
「……わかったよ」
ぼくは、生きる気なんて、さらさらなかった。
でも、言われた。
長老に、「生きろ」と。
大樹に、「生きろ」と。
ぼくは、この二つが、すきだった。
その、想いに、応えたかった。
──だから、食べることにした。
「……ぼくはっ! よわいぞっ! 生きてても、すぐに、死ぬっ!! それでも……それでもっ! いいならッ! たべるよっ!! ぼくは、食べるよッ────!!」
かぶりつく。
────シャキィン!
──────シャキィン!
────────シャキィン!
噛みつくたびに、ものすごい光が、音となった。
目を、開けていられなかった。
でも、がむしゃらに、食べた。
みんなのことを、思い出しながら、食べた。
ひっしに、食べた────。
──光を、食べ終えた後、ぼくは、放心した。
どうしよう。
どうしよう。
これから、どうしよう。
『生きろ!!』
──ビクッ!
「……いきなきゃ……」
ざっ、
「いきなきゃ……」
ざっ、ざっ、
「すすめ……」
ざっ、ざっ、ざっ、
「すすむんだ────」
──────しゃららららら────……
緑の音が鳴る中、ぼくは、歩き出した。
何も、考えちゃあ、いない。
でも、止まったら、ダメな気がした。
長老と、大樹の想いに応えるために。
進まなきゃ、生きてない気が、した。
だから、進んだ。
ただ、ただ、歩いた。
歩き、だした。
進み、だした。
「くすくす」
…………。
「くすくす」
…………。
幻聴が、聞こえはじめて、いる。
あの、光のりんごを食べてから、
歩き、続けている。
笑い声が、聞こえる。
そんなはず、ないのに、
ぼくは、地面を虚ろに見て、
歩き、続けて、いた。
あるくたび、体が、しなる。
左右に、ゆれる。
なんだ。
なんだ。
あるいて。
どうする。
とうとう、ぼくは、すわった。
────────。
────────。
────────。
────────。
────────。
────────。
────────。
「おい、雨のにおいだ」
────────。
「ホントだわ、どこかに掴まらないと」
────────…………?
「────────!!!!!!!」
────意味のある、言葉に、覚醒した。
「だ、れだ……!」
────だれ、なんだ!
「──いま、しゃべってたのは、誰なんだ!?」
────がばっと、立ち上がる!
「誰だっ!? ま、まさか、仲間がいるのか!?」
────あたりを、みまわす!
ま、さ、か!
ぼくと、同じ言葉をしゃべる仲間が、
近くにいるのか!?
「まさか、まさか!?」
まだ、生き残っている、仲間がいるのか!?
「それなら……それなら!! ぼくが、生きる意味は、ある!!」
力強く、ふんばる。
前に、すすむ。
「どこだい!? おおぃ! おおぅい────!!」
仲間を、呼ぶ。
「たしか、こっちから────」
言葉の方向に、駆ける。
あの、茂っているところらへんだ!!
────ザバッ!!
「ここかぃ!?」
「わぁ!」
「きゃあ!」
「────────えっ?」
パタパタパタパタ…………
────────鳥?
鳥、だ。
二羽、飛んでった。
言葉が、聞こえた。
「うわぁぁ、なんだ、あいつは!?」
「にげましょう! もうっ!! なんなのよ!?」
パタタタタタタタ…………
「…………」
ぼくは、おかしく、なったのだろうか。
…………鳥が、しゃべったぞ?
その日の、夜。
あの声の通りに、どしゃぶりになった。