やさしさの幅と、スナのヌシ さーしーえー
(●´ω`●)変な話、どうぞ。
────この人、ぜったい変だ。
「いやぁ──、景色いいわねぇ!」
「そ、そですね……」
「う、うん……」
今、僕達は、
大きな、大きな岩の上で、
お昼ご飯を、食べている。
両脇に抱えられて、
ぴょ────ンって、あがった。
……高い。
この人の言う通りなら、
ここはナトリと、僕達ラクーン族の里の、
丁度、真ん中あたりだそうだ。
そ、そんなバカな。
確かに、あの乗り物は速かった。
で、でもさ……
砂岩帯なんて、地図を見ても意味がない。
一面、真っ白だからだ。
どうやってここが半分だって、わかったのだろう……。
「あ、おかわりいる?」
「い、いや、いいよっ」
「ありがとうございます。でも、私達、身体小さいし」
「あら、大きくなれないわよ?」
この人、相変わらず、
僕達の事を年下だと思っているみたいだ。
ラクーン族の体格なんて、
けっこう有名な話じゃないか?
……変な人だ。
クルルカンの格好をして、
世間に疎くて、料理がとっても美味しい。
このコガネアユの炊き込みライス、
レシピを、コヨンに教えてほしい。
……てか、何故にホッカホカなんだ?
はっ!?
そういやこれ、どこから出した!?
あ、アイテムバッグを持ってるのか!?
ど、どうなっているんだ……。
「ほらっ、取り敢えず野菜も食べなさいな!」
金属製の半円の入れ物に、
新鮮な野菜が刻まれている……
いや、だから、どっから出したんだ!
魔法と言うより、道化師だ……
あ、そのまんまだな……。
「? どうしたの? はやくとりなさいよ」
「…………」
サラダを持っている、黄金の手。
思わず、萎縮してしまう。
この手から出た何かが、ぜんぶ、ぶっとばした。
つい、先ほどの事なのに。
あまりにも、この人が当たり前に、
普通に接してくるものだから、
なんだか、すごく違和感がある。
この人は、
今までに会った人の中で、
多分、一番、つよい。
普通の、強さじゃない。
あんな群れのチイタハを、
あんな、世間話をするみたいに、
殲滅できたり、しない。
すごく、怖いチカラだ。
なのに、僕達に、
サラダを食べさせようとする。
何かが、僕の中で、しっくりこない。
この人と、真っ直ぐ向き合うための何かが、
圧倒的に、足りていない。
「お──い、草も食わんとしぬぞぅ? ……ん?」
「あれ──?」
コヨンが、何か耳を、くるくるする。
? なんだ? 不思議そうだな。
「なんだろう?」
「アンティさんも、聞こえますか?」
「あ、いや、私はその、相棒というか……」
この時には、僕にも聞こえていた。
──なんだ、この音は?
地鳴りのような、
砂が滑るような、
そんな変な音だ。
ずっと聞こえる。
なんで、砂がずっと動くんだ?
ずざざ
ずざざ
ずざざ
ずざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざさ
ざざざざざさ
ざざざざざ ざざざさ
ざざざざざ ざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざさ
ざざざざざざざ ざざざざ
ざざざざ ざざざ
ざざざざ
ざざざさ
ざざざざざ
ざざざざざざざ
ざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざ
ざざざざ
────────うねっている。
直感で、そう、思った。
砂が、うねって、こっちにくる。
異常だ、普通じゃない。
胸の鼓動が、早くなる。
「ポロ、コヨン、立って。何かくる」
「──ッ!」
「な! 何がくるんだ……?」
「わからない。私から離れないで」
くそっ!
こっちはまだ、この人に対して、
気持ちの整理がついてないってのに!
なんなんだ! この何とも言えない、
大切な何かを見落としてる感じは!?
──ざざさ、ざざざざ、ざざざざざ────……!!
だ、だめだ。
きた!
今は、この人に頼るしか……!
「ポロ……!」
「ああ……!」
僕とコヨンは、手を繋いで、
金色の背中の後ろについた。
安心感と、畏怖がある。
……──ォォォォオオオン──……
「…………ちかい」
「な、に、なん、なの」
「くっ……!」
こんなにいい天気で、
こんなに見晴らしがいいのに、
肌がひりひりとして、落ち着かない。
どこからくる。
どこからくるんだ。
「────うわっ」
地面が、持ち上がった。
ずおおおおおおおおおおおおおおおおおお──……
「 」
「 」
「なんだ? こいつ……」
見あげる。
見あげる。
見あげる。
──まだ、あがる。
あがっていって────……
────────土が、見下ろしている。
人のカタチだ。
この時、太陽は僕達のちょうど真上で、
彼の影には、入らなかった。
そのかわり、よぉく、見えた。
──────オオオオオオオオオオ────……
───────スナ、ヌシ、だ……。
晴れ渡る青空から、
大きなヒトガタに、
見下ろされている。
…………大きい。
…………わけが、わからない。
ビックリしすぎて、怖さが、こない。
コヨンと、ただ手をつないで、見た。
……ポカンと。
ただ、ポカン、と。
子供の頃によく聞いた、
歌の旋律が、頭に浮かぶ。
『
あんこく かぁらぁ
わにが でた
めがみつ あごみつ
しっぽ みつ
すなぬし おこって
ぶんなぐる
くびだけ のこして
きえちゃった
』
──コヨンも、よく、歌っていた、
『ガルンとスナヌシ』の歌。
もちろん、本当に、見たことなんか、ない。
でも……それでも。
これしか、ないじゃあないか。
伝承の、サンドクレイグの"王"。
"あんこくワニのガルン"を、追い返したもの。
────ぜったい、これが、『スナヌシ』だよ。
大きさだけが、うえに、ある。
ほんとうに、全然、怖くなれない。
変だな?
いい天気で、あったかい。
立ち上がりきった彼は、
100メルくらいは……ある。
静かだ……
目は、合っていると思う。
どこが目かな?
繋ぐコヨンの手も、震えてなんかない。
呆気に、とられてる。
もう、里に戻れなくても、
仕方ないかな、と、考えてる。
────ォォオオオオオォォ────……
『 ……──ゥヴォルテングゴオルオォォォ──…… 』
僕達は、多分、
今、生きているラクーン族で、
唯一、スナヌシの声をきいた。
妙な感動と、放心が、ある。
この感情を、言葉になんて、できない。
できないはずなんだけど────……
「──んええ?」
「──」
「──」
……黄金の義賊は、空気を読めない?
「なにコレ……"ダンジョンボス指令言語"? マジか……」
な、に、いってんだ、この人。
「……クラウン、ほんとにコイツ、そう言ってんの?」
……言ってる?
……唸り、声だろ?
「──" すなの まんなかは どこですか "って?」
「…………」
「…………」
そんなわけ、ないだろ……。
「……ポロ、コヨン。"砂岩帯"の中心って、どっち?」
「えっ、え、あ、え、に、西ッ」
「あ、あっち、だ……」
唖然としたまま、妻と答える。
「クラウン、コイツの言葉で、"西"と"あっち"って、どう言うの?」
──"コイツの言葉"……?
「ふむ……」
少し悩んで、黄金の義賊は、叫ぶ。
「──"ウィカ"! "ウィカ"! "ディドヤ"!!」
意味のわからないことを、叫ぶ。
ぴょんぴょん跳ねて、西を、指さしている。
何、やってんだ。
相手は、伝説の、魔物だぞ。
………………………。
『 ……──ゥゥグォォオオオアアアァァ──……!!! 』
────すごい、声だ。
「お、おこってる……?」
「あ──……いや、違うみたい。"感動"してるんだって」
「かっ、かんどう?」
いや、絶叫しているだろう……。
しばらくして、ゆっくり静かになった。
スナヌシのかたうでが、もちあがる。
──オオオオオオォォォォ……
僕達が、指を、さされている。
『 ……──ゥゥギゴンバァォデゴラガアオォォォ──…… 』
「──ッ!!」
スナヌシの叫びをきいた黄金が、顔を顰める。
「えと……」
「なんて、いった?」
「……" それらを、たべてみたい "……」
「「ッ!!」」
そんなっ、ことが……。
「……クラウン、"友"と、"ダメ"を、教えて」
彼女は、腕を横に伸ばして、
僕達を庇うように、後ろに隠す。
「──"テルセ"! "ギッゲ"! "ギッゲ"!!」
──信じられない。
──僕達は、くわれるのか?
────オオオオオオォォォォ──……
『 ……──ゥゥダダドドゥゼゼヴァゥゥオォ──…… 』
「んぅ──?」
僕とコヨンは、ちらりと、クルルカンを見る。
「──" ともではない ちいさな いし "?」
────?
ちいさな、いし?
────あ。
「これ……か?」
袖をまくり、小さな針が見える。
頭がキィンとして、
あまりよく、考えられない。
「"針矢"の、こと……食べたい?」
コヨンも、惚けた顔で、首を傾けている。
「あーそうか! その矢、土の魔法なんでしょ? ほら、あのデカブツ、土の親玉っぽいから」
いや、親玉って……
というか、あんな巨体で、
こんな小さな針矢を食べても、
意味ないんじゃ……
「そだ、ポロ、コヨン。あんた達、その弓で、あいつの口あたりに攻撃しなさい!」
「「…………」」
……おい、マジか……。
「……何、言ってんですか、アンティさん……」
コヨンが、思わず言葉にした。
「……だって仕方ないでしょう。矢を食べたいって言ってんのよ」
「「…………」」
コヨンと、顔を見合わす。
なんだこれ。
今から、僕達は、あの巨大な魔物に、
攻撃するのか?
スナヌシは、静かだ。
……期待、しているのか?
……はは、そんなわけないか。
「ポロ」
「ん?」
「どうせ、しんだ、みたいなものだし」
「ん、はは……」
普段、コヨンはこんなこと冗談でも言わない。
だから、笑ってしまった。
そうだな。
スナヌシに会ったなんて、
そりゃ、しんだみたいなもんだ。
だから、どうせなら、
矢の一つでも、お見舞いしてやろうかな、と、
思わないでもない。
シャキ、カチチン。
コヨンと僕の弓は、ほぼ同時に形になった。
彼女は左手、僕は右手。
構える。
魔力を篭める。
────キュオオオオオ──……
ああ、なんか、すげぇな。
なんでこんなでっかい奴に、
矢をぶち込もうとしてるんだろう。
「ポロ」
「おぅ」
────────ソォォン!
────────────。
────────スン。
「…………」
「「…………」」
反応がない。
……いや、あった。
スナヌシの両腕が、
静かに、持ち上がり始めた。
ゆっくり、どんどんあがっていく。
すごい大きさだ。
「わぁ……」
「すごい」
これ、叩きつけられるかな?
「…………」
アンティさんは、スナヌシが両手をあげるのを、
じっと、見ている。
少し、警戒しているのが、わかる。
この人は、僕達を逃がすことが、
可能なのだろうか?
────とまった。
スナヌシが、バンザイしている。
天気がいい中、とてもマヌケに見える。
ああ、これが、しぬ前に見る、光景か。
「……これ、バンザイしてんじゃね?」
アンティさんが、そのまんまの事を言う。
……いや、だから、そうだろう……。
……──オオオオオオォォォォン──……
「…………」
「…………」
あれっ?
……ンンンンンン──……
腕が、ゆっくり、おろされていく……
あれっ?
攻撃が、ない。
……──ォォオオォォン──……
『 ……──ゥウゴガゴロロン──…… 』
「──ぷっ!」
「「!?」」
「くっ、くっく、くく、ふふふ……」
「アンティさん……」
「なんで、笑うんだ……」
「いや、だって……ふふふ」
黄金の義賊が、楽しそうに、笑う。
「──" このしんせつは わすれない "……だって」
楽しそうに、肩を震わせ、笑いを堪えている。
「こ、こいつ、顔に矢ァ食らって、なぁに言ってんだって思って……くっく、ふふふッ!」
「アンティさん……失礼ですよ……」
「まったくだ……」
……──ズザザザザザザザザザサ──……!!
「お」
「「!」」
スナヌシが、崩れ始める。
砂の滝だ。
サラサラと輪郭が崩れ、
けむりのように、ほどけていく。
────気づくと、彼は、いなかった。
とても、ぽかぽかした、昼下がりだった。
「はぁ〜〜! でっっかい迷子だったわねぇ〜〜!」
「「…………」」
僕とコヨンは、まだ、ポカンとしていた。
僕達は、生きている。
どうやら、スナヌシに、感謝されたらしい。
意味が、わからない。
「ん!」
「「?」」
サラダが、差し出される。
「……なんですか?」
「野菜を食べなさい」
「……そんな場合じゃないだろ」
「お姉さんは、誤魔化されないわよ」
「……なぁ、あんた冒険者だろ。あれ、ほっておいていいのか」
「道に迷って、お腹が減ってただけじゃない」
「いや、でも……人を襲うかもしれませんよ?」
「え、なに。砂岩帯の真ん中って、人いんの?」
「「い、いえ……」」
「じゃあいいじゃない。びっくりさせないでよ。ほら、野菜を食べなさい」
「「…………」」
……………………。
この人、ぜったい、変だ。
普通じゃない。
あんな大きな魔物に会えば、
普通、放心したり、怖がったりする。
でも、この人は違う。
多分、強さだけじゃない。
勇気がある。
ひとつ、わかった事がある。
この人は、強いから、彼が迷子だとわかった。
強いから、"見る"事が、できた。
そして、"対話"した。
強いから、出来たんだ。
普通は、怖がって、できない。
僕が、この人みたいな力を持っていたら、
どうしていただろう。
いや、わかる。
僕なら、やたらめったら攻撃して、
逃げる。
この人は、変だ。
逃げずに、攻撃せずに、
"話を聞いた"。
「そうか────」
僕が大きな力を持っていても、
多分、その力に、振り回されてしまう。
今だったら、攻撃して、怒らせてしまったかも。
この人は、違う。
この人は、多分、
強くなればなるほど、
怖がらずに、聞く。
恐れずに、見る。
立ち向かう。
その金の瞳で、まず、考えるのだ。
だから、だからだ。
もし、悪意を感じれば、
彼女は、駆逐する。
それを見て、正直僕は、こわかった。
でも、逆ならば?
どんなに大きな魔物でも、
まったく、善意しか、感じなかったら?
彼女は、優しい。
多分、とても。
じゃないと、
こんな所に、
一緒にこない。
この人は、強くなればなるほど、
"やさしさの幅"が、広がってしまうんじゃないか?
怖いと思わず、まず、見るという事。
どんな事でも、まず、聞くという事。
そんなこと、みんなできない。
みんな、みんな、こわいんだ。
スナヌシなんか、なおさらだ。
なのに、親切にしてしまった。
例え、伝説の魔物でも、
いい奴には、優しくする。
この人は、そういう人なのだ────。
「───ははっ」
「? あによ……」
「はははっ、あんた、ぜったい変だよ……!」
「ケンカ売ってんの?」
「スナヌシに、ぜったい道とか教えないよ、普通!」
「うっさいわね! いいじゃない! 喜んでたでしょ!」
「はは……バンザイしてましたね……」
「はははっ、ぜったい叩き潰されると思ったら、静かに腕をおろすんだぜ!?」
「はいはい、いいから、野菜食べなさい」
「アンティさん、お母さんみたいですね……」
思い返してみると、
とても、素敵な出来事だった。
僕達の、忘れられない、
一生の思い出になるに、決まってる。
僕とコヨンに、子供ができたら、
ぜったいに、今日の事を話す。
その時が、今からとても、
楽しみで、しょうがない。
サラダをめいいっぱい食わされ、
僕達は、また金と黒の顎に乗る。
「ふん、ふん、ふっふふ、ふ〜〜ん」
────ガルルルルロロオオオオン……!!
とても天気がよい砂岩帯は、
どこまでも、蒼と、砂が、ひろがっている。
(●´ω`●)なげぇ。