くまさんに、であっとる
人生のうちで、子供を2人かつぎながら、熊から逃げる人が何人いるだろうか?
まったく、貴重な体験をさせてもらってますよ、本当に。
景色が後ろに流れていく。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」
でけええええええええ! 何だあれ!
くまって絵本のかわいいイメージしかないのに!
あいつ家くらいあるじゃないのおぉぉお!!
「クラウン! アンタの頭の中に、ベアー系の魔物の知識ってある!?」
『────肯。
アナライザー根幹スキルに、初期ダンジョンモンスターライブラリが既存。』
! 父さんが攻略したダンジョンコアのか! ダンジョンはモンスターを生むための魔力と知識を、コアに溜めこむ、って教科書に書いてあったな!
……おいおい。
アナライズカードって、
ダンジョンコアの情報転写されてんの……。
ちょーレアアイテムだったんじゃないのよー!!!!
それをこの歯車ぁ───!!! ╬
「ええい、今はあんたがいるからいいわ!」
「あ、あの、アンねえちゃんさっきからなにいって……」
「あんたは黙ってなさい!」
「ひゃ、ひゃい」
「お、おねえちゃんこわい~」
「落とさないから安心しなさい!」
ユータが抱えられながら、両手で口を抑える。
アナは「そっちじゃない……」とか言ってるけど後!
「クラウン、ベアー系の弱点を教えて!」
『────検索完了。
弱点部位:下顎。弱点属性:水。
自分より大きな身体の対象から逃走します。』
アホおおおおぉ!!!
あいつ家くらいあるから! アゴとかむりぃぃ!
あと水てぇぇぇ! あんた歯車でしょうよぉぉぉお!!!
やれないことばっかじゃないのおおおお!!
と、とりあえず、こっちのスピードがちょっとだけ速い。
何かで足止めして引き離したいな。
「クラウン、ヤツの速さに合わせてストーンスタンプ! いける!?」
『────レディ。
慣性法則演算起動。各内予測より座標固定化。』
「どっちなのよ! かまえ!」
手の装甲に付いていた歯車の一つが、後方に飛んで、広がる。
輪っか内が、白い膜がはっているみたい。
シャボン玉みたいだ。
「"ストーンスタンプ"!」
ドぉん!!
「ぐおおおおおおおおおおおん!!?」
うおう、当たった!! 当たったけど止まらない!!
怒ってるよ~超怒ってますよ~。
「クラウン! 足止めしたい! 前方に2つ、転がすように投石!」
『────展開中。』
も一つ、歯車が前へ。拡大。2つの中くらいの歯車ができる。
「"ストーンスタンプ・ダブル"」
ノリで叫んだけど、ちゃんと2つでた。
一つ目の岩が、バーグベアに飛び越えられる。
二つ目の岩は、ランダムにバウンドした!
────ヤツの右前足に当たった!
「ぐぎゃおおおおおん!?」
よっし! バランスを崩した!
木を盾にするように、森の中を滑る。
今の私には、それができる!
「わあ~っ」
「す、すごい」
ガキンチョ2人が感嘆の声をあげる。
そりゃ公園のすべり台よりは速いでしょうよ!
「クラウン! 2人を背中に固定たのむ!」
『────レディ。顕現施行中。』
「なに?」
「わわっ!」
ユータとアナの腰周りに、歯車が3つ巻きついている。
黄金腹巻きだね。
それが後ろで私にぴったり固定されるのがわかる。
『────三重基点拘束完了。』
「助かる! あんたら! しっかり掴まんなっ!」
高低差がある地形にでる。
腐って倒れている木が突き出している。
ありがたく使わせていただこう。
両足と右手の3つの回転で、木の幹を捉える。
ぎゅいいいいいいいいいん!!!!
木の端っこに来たところで、左手で、幹を殴る!
ぎゅううううおおおん!!
────飛び上がる身体!
「「わぁぁぁぁぁ!!」」
────空中で、一回転。
ダッ、ガンッ!!!
うひぃ~。やっぱり3人は重いわねぇー。
着地、ヒヤッとしたわよ。
「おねえちゃ、ん────」
「せかいが、さかさまだった……」
そーねー、さかさまだったわねー。
バーグベアが、見えなくなると、上の方の山火事が気になる。
夜なのに、雲が、鈍く、赤い。
「これ、けっこうやばい範囲ね……」
そう、山火事だ。もうこれは、そう呼べる。
このまま小山から森林に燃え移れば、
次は、街だ。
「おねえちゃん……」
「……あ」
ユータの顔からは、後悔の念が見える。自分が何をしたのか、よくわかっている顔。
私もまだ15歳、すぐ前まで、こいつらみたいなガキンチョだった。だから、感じ入るところがある。
「くよくよすんな!! 今は逃げよう。……後でちゃんと、怒ってあげるから」
「あ……」
景色が流れていく。夜の明るさに不安を覚えながら。どうか、どうかアレが、街に届きませんように。
「おねえちゃん! 前~!」
「え……しまった! クラウン! とまって!」
『────姿勢制御。停止中。』
キキキッ、カッ。
目の前に、さっき飛びこした、谷が広がっている。