いーぜー? らいだー!
「ここ?」
『────はい。』
クイッ。
────ガルルゥオオオン……!!
「おおっ! すっごぉ……!」
「うわわわわ……」
「あわわわわ……」
「いやアンタたち、いつまで抱き合ってんの……」
故郷のお父さん、お母さん。
私は今、魔物のアゴに跨っています。
獣人の子供も一緒です。
私の後ろに座っている彼らは、
何故か、お互いに抱きつき合い、
ガクブルしています。
「……私、誘拐犯みたいじゃない?」
『────というより、絶叫マシンです。』
「? なにそれ?」
『────説明出来かねます。』
……まぁいいや。
ここの持ち手をこうヒネって、
足のここをカチャってやるんでしょ?
『────チュートリアルを開始しますか。』
「ん、いい。だいたいわかった」
「あ、あの、クルルさん!? さっき、このアゴ、鳴きましたよ!?」
「な、なんで僕らは、こんな車輪付きの魔物のアゴに乗ってるんだ!!」
あんた達、あんまりアゴアゴ言いなさんな。
こいつも、好きでアゴだけになった訳じゃ、
ないでしょうよ?
あんた達も、朝起きて、
アゴだけになってたら嫌でしょ?
『────アイドリングが、お気に召したようですね。』
「あ、さっきの音?」
────。
クイッ
────ガルゥォオオン……!
クイッ
────ガルルルルゥォオオン……!!
グイッ
────ガルルルルルルルゥォオオオオオン!!!
「ふふっ。うん、なんかいいね」
「な、な、な、何がいいんですかぁ〜〜!!」
「こ、こ、こいつ、まだ生きてるのか!?」
いや、まさかまさか。
私のヨロイじゃあるまいし。
「……じゃ、そろそろ行くわよ?」
「え、え!?」
「どどどどどうなる!?」
「───こうなる☆」
クイッ、カシャ────……!
────ガルルルロロロロォオオオオ─────!!!
「わあああああああああ────!!」
「きゃああああああああ────!!」
……誘拐犯じゃ、ないからね?
────ガルルルォォオオロロロロロ───!!
「ふん、ふん、ふふふん、ふ〜〜ん」
「信じられない……鼻歌歌ってるぞ、この人」
「はは、でも、なんか慣れてきちゃったよね」
「あ、ああ。風が気持ちいいな! それに、はやい!」
「うん!」
あら、なんか、いい雰囲気?
クルルカンは空気を読んで、黙るわよ?
「ふぅ〜〜……」
──ガルルルルルオオオオオロロロロ──……
──いい天気だわ。
風が、気持ちいい。
こんなのにまたがっているだけで、
どんどん進んで行って、不思議だ。
いや、もういい。
正直に言う。
私、かなぁぁあり、
この乗り物?
気に入ったわ!!
食堂にいた頃には、
こんな体験ができるなんて、
まったく想像できなかったわ!
なんか、とっても非日常!
いや、そりゃ他にも色々あったけどさ。
世界の風がごぉごぉと、
私の頬を流れていって、
空気の温度が良くわかる。
息を吸い込むと、
前から運ばれる風が、
なんの抵抗もなく、
身体を駆け巡る。
お腹の下から響く音は、
最初はうるさいかな?
と、思ったけど、
なんら問題はない。
「お、ゴキゲンだな?」
くらいにまで思える。
────ガロロロロロロォォ────……!!
少し、自分のアゴが浮いて、
前の空を、見上げてしまう。
今日は雲が少なく、
濃い蒼が、はっきりとしている。
「ふは〜〜ぁ……はは」
にやけてしまう。
なんだこれ。
わかった。
楽しいのだ。
前に、ヒキ姉と2人で馬に乗ったけど、
アレとは全く違う感覚だ。
こんなにどっしり座っていても、
こんなに速く、前に進む。
この手の動きだけで、加速する。
この足の動きで、操ることができる。
魔物に苦労しているラクーンの皆には悪いけど、
これ、そうとう楽しいわ。
なんかごめん。
急いでいくから、許してね?
ガロロン、ガルルロロロロロオォオオン──!!
地面が硬そうな平らな所を選んで、
どんどん前に突き進んでいく。
景色は、真ん中から外へ、ひろがっていった。
「あ、あの、クルルさん……」
「アンティでいいわよ?」
「え? あや、その……ちょっと速すぎませんか?」
「そう?」
「あんた、こんなすごいマジックアイテム持ってるなんて、何者なんだ?」
「……平和と愛の使者、義賊クルルカンよ?」
「いや……絵本の英雄が乗るには、この馬車……じゃないけど、邪悪な意匠すぎるよ……」
気にしていることを。
「……アンタたち、当然だけど、この走るアゴの事も、人に言っちゃダメだかんね?」
「言っても信じないよ……"車輪が付いたアゴに乗ってきた"とか、里の中でおかしな目で見られるよ……」
「それ私に失礼じゃね?」
「あはは……言いませんから……」
「ていうか私、この格好でラクーンの里に入るのよね……ねぇ、みんなクルルカンって知ってるの?」
「バッチリです」
「ぜったい群がられるぞ」
「帰りてぇぇ────!」
「そ、それは困りますッ!」
「たのむよ……」
「冗談に決まってるでしょう」
────ガルルルラロロロロロォォォ──……!
「魔物、いないわね……」
さっきからガルガル走っているけど、
気配すら感じない。
クラウンも見つけたら言ってくれるはず。
……なんか、拍子抜け?
「えと、スコーピオンとかは、そんな速い魔物じゃなかったはずです。この速さで走っているなら、気づかれても追いつけませんよ」
「サンドクレイグなんか、もっとトロいんだぜ」
「そうなの?」
スコーピオンとかは、
学校の教科書にも載っているけど、
当然、実物を見たことはないからなぁ……。
移動速度の見当がつかん。
サンドクレイグ……粘土人間?
想像つかん……。
「一番怖いのは、チイタハです」
「ああ、そうだな……」
「チイタハって、どんなの?」
「閃光豹のことです。キャットの上位種で、大きいと全長4メルくらいになるんですよ」
「走るのがとっても得意なんだ。何回か、里の柵で見たことがあるよ……」
「ここは砂岩帯なので、群れているはずなんです」
「ふーん。ウルフみたいなモンかな?」
「ふ、ふーんって、クルルさん……そんな悠長な……」
「アンティでいいってば」
「あ、はい……アンティさん」
「わ、わかったよ、アンティさん……」
「よろしい」
こそこそ……
(ね、ねぇ、私達が年上だって、そろそろ教える?)
(いや、この人、子供に甘そうだ……まだ黙ってよう)
『────……アンティ。』
「なぁに? クラウン」
『────ラクーン族の、成長外見についてですが──。』
────ギャウウウ……
『────震音感知。アンティ、前方に複数個体。』
「──!! おいでなすったか……!」
『────ガルンツァーに3Dマッピングを展開。』
『────球体レーダー採用。当機を中央に配置。』
『────全方位ホログラミングします。』
「わかる言葉で言え、ばかたれ!」
『────まるい地図の真ん中が私達。寄ってくるのが敵です。』
「あぃよぅ! クラウン、後ろの2人の拘束強化」
『────レディ。下半身よりロック開始。』
きゅいいいいいん──!
「えっえっ!?」
「き、急になんだ!?」
「────敵よ。注意なさい。突破するわ」
「「ええっ!?」」
────ガルルラロロロロロォォォ──!!
『────第一陣、接触します。』
──バッシャアアアアアン!!
脇道の砂が、いくつも、宙に舞った。
現れるは、黄色の魔物。
しなやかな身体。
長い尻尾。
するどい爪に、
横長の目。
身体には、黒いぶち模様がついている。
「チッ、チイタハだ……!」
「なんて、数なの……」
閃光豹は、縄張り荒らしを、許さない。
「クラウン、逃走優先。場合によっては駆逐する」
『────レディ。戦闘補助を開始します。』
────ガルルゥロロロロロォォオオオンン!!!
────ギャアオオオオオオオオオオオオ!!!