しゅっぱぁつ、しんこーぅ!
「しばらくドニオスを離れるだと?」
「そ。しばらくね」
一応、出発する前に、
執務室にいるヒゲイドさんに挨拶しておく。
キッティがベルをならしても、
しばらくは留守にしてるワケだし。
「あ……手紙、配れないのマズい、かな……」
「いや。お前はこの前、2日に一回とか配達していただろう。あれは少し、こまめ過ぎだ。お陰で手紙の滞納は、ほぼ無い。少し溜めてもよかろう」
「……うーん、そか。ホントはその日の内に届けたいんだけど……じゃあ、お言葉に甘えて行ってくる! そんなにかからないと思うけど、もしかしたら一週間くらいかかるかな?」
「まて」
「?」
ギルドの執務室から出ようとすると、
ヒゲイドさんに引き留められた。
「もしや、ラクーンの里に行くのか?」
「ギクリ」
うおう、言葉で言っちゃったじゃないのよ。
あれ。これ、前に誰かがやってて、
それをバカにした記憶があるような……。
「やれやれ、やはりか……遠いぞ」
「そ、そうなの?」
「ああ」
ゴソゴソ……
引き出しから、何かを取り出すヒゲイドさん。
「アンティ、昔、俺が使っていた地図だ。持っていけ」
「え!?」
ヨレヨレの茶色い紙……地図を渡される。
所々に、あの大きな手で書いたとは思えない、
細かい書き込みや注釈がある。
「……いいの? すごい使い込まれてる。思い出深いんじゃ」
「全部、頭に入っている。それに、地図は使わなければ紙きれだ。返さなくて構わん」
「……ありがとう。貰っておきます」
「ふん。恐らく、お前なら大丈夫なんだろうが、気をつけろ。湖に向かって、真っ直ぐ南に進めば着くが、遠い」
「湖?」
「地図を見ろ。ドニオスのはるか南に、まん丸の円が書いてあるだろう」
パラ……
「……これ、湖……?」
「"レエン湖"だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう。昔、ある王朝があった場所だ……」
「! これが、あの……」
まん丸の湖、レエン湖。
その大きさは、街が一つ、余裕で入るくらい。
学校で、"珍しい正円の湖"として習うけど、
今、私の知っている情報は、それだけじゃないわ。
「"飲み込まれた街"……」
「? なんだと」
「……なんでもない。行ってくるね!」
ギィ────……バタン。
「……なんだ? アイツ……」
さて、では、いざまいらん。
まいらんが……。
「よっ、よろしくお願いしますっ!」
「たっ、たのみますっ!」
「…………」
ぴょこぴょこお耳、ふるふる尻尾の、
獣人の子供が2人。
……この2人と、どうやって行こうかな。
「えっときくけど、ここまでどうやってきたの?」
「あっ、歩いてきました!」
「マジか……」
こんな子供2人で……?
強行突破すぎんでしょうよ……。
「あなた達の里って、どこらへん?」
地図を見せると、
レエン湖の、手前辺りを指差すポロくん。
「このあたりだ」
「マジでか……」
遠い……。
しかも、王都西のドニオスから真下へ、
南のでっかいナトリの森を抜けて進んだ先だ……。
「……アンタ達、よく魔物に襲われなかったわね」
「たいへんでした……」
「砂岩帯を避けて、木のある所を登りながら少しずつ来たんだ。僕らラクーンは、木登りは得意だから」
「なるほど……」
でも、木の上だって、
絶対に魔物がいない訳じゃないでしょうに。
バールモンキーとか、バカだって言うけど、
腕はバールみたいなんだろうし……。
「片道7日くらいかかったよ……」
「い、一週間もかけてきたの!?」
「は、はい。木の実とかをとって、なんとかここまで……」
──思わずクラっとした。
さっきヒゲイドさんに、
一週間で戻るっつったのに……。
じょ、冗談じゃないわ!
往復2週間と、問題解決で何日か……
半月かかっちゃうじゃないの!
…………。
…………かくなる上は……。
「……アンタたち、"私の事はしゃべらない"。覚えてるわね?」
「「は、はいっ!」」
2人の耳と尻尾が、ピィんと上を向く。
……これなら大丈夫かな? まだ子供だし……。
「とりあえず、南に進んで森に入るわ」
「えっ!? 街道を進まないんですか?」
「ど、ドニオスから、南のナトリへの道が安全だと思う」
「真下に降りた方が速いわ」
「「え、ええええええ……」」
無茶だ……と、明らかに顔に出ている2人。
いや気持ちはわかるけど、
私はさっさと行きたいの!
それに、森に隠れた方がいいのよ。
"速くて"、"隠れられて"、"追いつかれない"。
……ふふ、全てが、私にとって好条件。
爆走☆森ガールを、舐めんじゃないわよ?
街道をガン無視し、1ジカ半くらいかけて、
ドニオスから南に進み、森の側まで来た。
人目が無いとは思ったけど、
原っぱで見晴らしが良かったから、
ビビって歩きで、のんびり来たのだ。
そう。
ここまでは、のんびりだ……ここまではなァ!!
────にやり。
「こ、ここから行くんですか?」
「僕達は木の上を行くけど……やぁ、気が滅入るな」
「──いいえ? 木の"真ん中"辺りを行くわ」
「「──はい?」」
昨日から思うけど、この子ら仲良いわよね……
息ぴったりじゃないの。
大きくなったら、ホントに結婚するんじゃないの?
……あ、苗字一緒だから、兄妹か……?
「……まぁいいや。アンタたち、私の腕に掴まんなさい!」
「えっ、えぇ!?」
「な、なぜ!?」
「ほら、さっさとする! "私の言う事は、ゼッタイ"!」
昨日した約束を振りかざし、目で訴える。
2人は戸惑っていたが、小さな手足を使い、
私の両腕にしがみつく。
「──クラウン、ロック頼む!」
『────レディ。衝撃分散の為に、複数箇所に展開。』
「まかせた!」
きゅううううううう────ん!!
きゅううううううう────ん!!
「えっ、なっ!? わっ!?」
「ななな、なんだ!? この金色の輪っか!?」
「ほら、じっとする!」
瞬く間に歯車の輪っかが現れ、
2人を通り、私の腕に結えつける。
きゅるるるるるるる…………!!
モチのロン、
黄金のブーツには、金色の歯車じゃい!!
「──先に言っておくわ。絶対に、口開けんなよ?」
「えっ、えっ!?」
「な、なにがおこ──」
ギュルルルルルルルル、
ゥゥウウウウンンォォオ────!!!!
「「ぎ、ぎゃあああああああああぁ────!!」」
「だから、口開けんなって……」
ケモノの腕の金ピカが、森へ突っ込んでいく。
2人は仲良く悲鳴をあげ、
黄金と共に、森をぴょんぴょんした。
森に入って2フヌくらいで、
2人は仲良く、舌を噛んだ。
ごめぬ(;´Д`)明後日まで、
お仕事ふにゃふにゃですぁ……
いけそうなら、ぶっこむ!