はじめてのおつ……指名依頼!
「この服……?」
「なんか、さらさらしてるな……」
「あ、洗濯しといたわよ?」
「「ええっ!?」」
クルルカンは、洗濯屋さんにもなれるのよ?
「あ、えと、お先にお風呂、いただきました」
「……ありがとう」
「いーえ。調理台が近いから、声きこえてたんだけど、"いまはダメだからね!?"、"き、今日するわけないだろ"ってどういう意味?」
「ぶォッふぉ……」
「……なんでもないです……」
あら、ポロくん、敬語も使えんのね。
……なんでコヨンちゃんに、
バシバシ叩かれてんの?
昨日に作ってあった、
コガネアユの炊き込みライス(野菜過剰)
があったので、少し多めに、
お皿によそってあげた。
────もちろん、ほっかほかやで。
例の"火の玉消火活動"の時に、
川でシメたやつだ。
獣人ちゃん達がライスを食べれるか心配だったが、
どうやら平気なようで、
魚と野菜を使っていたのもよかったらしく、
とても美味しそうに食べていた。
「……ごちそうさまです! す、すごい美味しかったです……」
「ごちそうさまでしたっ……!」
「はぁい、お粗末様」
食器を片付ける。
流しにおきっぱだ。
後でバッグ歯車で吸い込む。
……ああ、私の女子力、どこいったの……。
「……すみません、無償でご飯までいただいて、その……今からする話も、その……」
「…………」
「……ああもう、とりあえず聞いてみるから、暗くなるのはやめなさい!」
「しかし、あなたは、怒っていた……」
「ぐぅ!」
「……ブチギレていました……」
「や、あれは……そのちょっと、間が悪かったというか……」
「でも、直前まで、あんなにスヤスヤ寝ていたのに!」
「お、おおおぅ……」
こ、こら、やめれ。
私がとっても血の気が多い、
寝起きに低血圧な、
どうしようもない金ピカ女にきこえるじゃない……。
「いいから話しなさい! もう、ここまできて、言わないってのはないでしょッ!」
「う……」
「は、はい…………」
パジャマに仮面というマヌケな格好で、
あぐらをかいて、片ヒジを頬につき、
私は話をきいた。
何も言わなくても、2人は、
かなり詳しく話してくれた。
自分の故郷がおかしいこと。
獣人仲良しパーティのこと。
王都で羊姉妹に会ったこと。
ヒキハさんが怒鳴ったこと。
……聞き終わる時には、さっきは、
ちょっとキレすぎたかなと、反省してた……。
「……ヒキ姉、副隊長だもんなぁ……」
「「!」」
あ〜〜。なんか、
色々大変な役職なんだろうなぁ〜〜!!
2番目とか、"上"と"下"から、
どっちからも、突っつかれるもんな〜〜!
あ、上って、お姉さん??
……まるで、バイトのプライス君だわ。
父さんに突っつかれ、
母さんにこき使われ、
私にもブチギレられ……。
ん? 2番目じゃなくね?
がんじがらめの時もあるんだろなぁと、
失礼かもしれないが、少し、同情する。
あの人は、優しく、責任感がある。
じゃないと、休みを使ってまで、
ファイア・エレメントを探しに来たりしない。
あんな、泣き方はしないのだ……。
「……ヒキハ様と、お親しいのですか?」
「む……」
「あ! いえ、その……」
うーん。
あんましヒキ姉と仲良しだって、
広めたくないんだよなぁ……。
どこからポタタづる式にバレるか、
分かったもんじゃないわ。
やっぱ、今度、ヒキ姉は土下座ね。
あの髪型だから、
ホントに羊さんみたいになるんじゃないかしら。
後は、アブノさんに会わせよう……
ふふ、楽しみね。
「……そ、友達か、お姉ちゃんみたいなもん」
「「!!」」
「──きけ。少し、脅しておく」
ゴクッと、2人が唾をのむ。
……こんな、パジャマ姿の金仮面なんて、
そんな怖くないでしょうに。
……あ、さっき下で、ブチギレてたわ。
なんかごめん……。
「私は表向きは郵送配達職! でも、裏の顔は……なんだと思う?」
少しおちゃらける振りをして、問うてみる。
「えと……」
「ひ、必殺、仕事人……?」
「…………」
必ず、ころしてどうすんの……。
「なぜ、そういう言葉がでるかわからんが……まぁ、ちょこちょこ秘密の依頼を受けていると思って」
「秘密の……」
「依頼……!!」
うわぁ、目がキラキラしてきちゃったよ……。
「──私は、正体がバレると困る」
「はい」
「クルルカンだもんな」
むッ……。
「軽く、考えんじゃねぇ!! バレたら、お前らは敵だ」
またまた、ビクッ、とする、獣人2名様。
あ……ちょっとおもしろい……
いかんいかん……。
「私の言う事を守らないと、話にはのらないッ!」
「うぅッ……」
「……わ、わかった!」
脅しやハッタリには、ポロくんが強いな。
ふふ、男の子じゃん。
「いち。私の事は、この先どんな事があっても、人に言うな」
「「コクリ」」
「に! 私がヒキハ副隊長と知り合いだと、誰にも言うな」
「「はい」」
「さん。私の言うことは、基本的にぜったい」
「……」
「それは……」
「……そんな無茶苦茶なことは言わないわ。例えば、アンタたち明日に結婚して! とか、そんなことは言わないから……」
「「………………………………」」
「何となくアンタたちも察してるでしょ。私、あんまり表舞台に立っちゃダメなの!」
「「……コクリ」」
「ただ、その、多分……Bランクくらいの強さはある……」
「なッッ!!?」
「び、B、ですか!?」
「ちょっと!! ぜったい言わないでよ!!?」
「「コクコクコクコク……」」
元Aランク冒険者、
ヒゲイドさんのお眼鏡ですから?
……あの人、裸眼だけど?
たぶんそれくらいはあるんでしょう……。
「アンタたちの里に一緒に行くとして、安全は私が預かる事になる。馬車か、徒歩かはわかんないけど……怪我しないために、したがえってことよ」
2人は、目を合わせて、
お互いの意志を確認している。
否定的な雰囲気はしない。
「──お願いします。私達には、もうあなたしかいない」
「たのむ……みます。僕らに力を貸してほしい」
…………。
真っ直ぐで、強い意志の宿る目だ。
……やれやれ。
ツケは羊さん持ちね。
ツケを許すなんて、食堂娘も、
丸くなったもんだわ!
「はぁ、わかった! 何ができるかわかんないけど、一回、引っ付いていくわ! なんか、魔物いっぱいなんでしょう?」
「……ほ、ほんとか……?」
「あ、あ……ありがとう、ありがとう……!」
2人がいきなり涙ぐむので、
仮面の下で、焦ってしまう。
「ほ、ほら、泣かない泣かない! さっさと寝る! 明日の朝に出発!」
「え、でも……」
「用意とかは……」
「ごはんは用意してあげるから、とりあえず今日は寝なさい! そこに換えの布団だしといたから!」
「「は、はい!」」
2人は疲れていたんだろう。
魔石を消して、すぐに、寝息がきこえる。
私は仮面をとろうか迷ったが、
先ほどの醜態を思い出し、
一応、つけたままで寝ることにした。
「……変な跡とか、顔につかないでしょうね?」
『────仮面より"さっきみたいに上向いてたら、だいじょぶじゃない?"と申告。』
「だいじょぶじゃない? って……」
仮面は程よくポカポカして、
意外といいあんばいだった。
くか〜〜〜〜