一文無しは、舞い上がれ!
「話はきくけど、もう、けっこう遅いわ。明日の朝にしましょ? 宿まで送るわ。どこに泊まってるの?」
どうやら晩ご飯の時間は、
ソファで醜態をさらしている間に、
彼方に過ぎ去っていったようね……。
「あ! えと……」
「う……」
「うん……?」
な、なんだ、この反応は?
まさか! まだ宿をとってないの?
「……ない、んです」
「んも〜〜仕方ないわね。ホラ、一緒に宿、探してあげるから。いこ?」
「ち、ちがうんだ……」
「ん……違う、って何が?」
「……おサイフが無いんです……」
「…………」
「わぁ……!」
「すごいな……!」
うん、改めて見ると、確かに、すごいかも。
こんな塔の中に入るなんて、
あんま、ないもんね?
私のお部屋の下。
つまり、"真四角大空洞"に、
いるわけでござりんすが。
さぁて、ここから………
「どうしよう……」
キッティに、お財布の特徴を伝えたはいいが、
ギルドの貸し部屋はいっぱいだった。
"アンティさんの所に泊まればいいですよ!"
とか、簡単に言ってくれちゃいましたけど!?
……キッティ、あんた。
この地獄の階段の事、忘れているでしょう……。
「あの、なんでこの塔の中に入ったんですか!?」
なんか、目をキラキラさせて、
獣人ちゃんの、女の子のほうが、きいてくる。
えっと、確か、コヨンっつったっけ。
不思議な響きで、可愛い名前だ。
横の、ポロ、と言う名の男の子は、
塔の上の方を、興味深げに見上げている。
……いくら光の魔石があるからって、
けっこう暗いでしょうに。
さて、これから彼らに、残酷な真実を伝えて、
このキラキラの表情は、
果たして、維持されるのかなぁ……。
「……うえ」
「「?」」
あ、伝わってない……。
「私の部屋、上……」
「「…………」」
あ、瞳の色が、なくなった。
「えと……」
「階段だけ……」
「「…………」」
2人とも、口が半開きになったわ……。
「……2人とも、足腰、つよい?」
「……が、がんばります!!?」
「これを……今から登る、のか……」
あ、だめだわ。
これ、こんな子供達に登らせたら、
だめだわ。修行だわ。
いや、普通の人に比べたら、
足腰とか爪とか強そうだけども。
今の表情は、やってはいかん表情だったわ……。
「はァあああ〜〜〜……」
ヒキ姉ったら……
はぐれ羊、純情派! なのはわかるけど、
なかなかの手間を、こさえてくれたモンだわ……。
「やるしか……」
「あ、あの……」
「──仕方ない、あなたたち、目を瞑りなさい」
「「え?」」
「目をつぶりなさい」
「あの……」
「なぜ……」
「目をつぶりなさい。話、きかないわよ」
「「……!」」
2人の獣人ちゃん方は、最初は戸惑っていたが、
やがて、ギュッ、と、目と口を閉じた。
ふふ、素直でよろしい。
ふたりを抱える。
「わっ!」
「え、え!?」
「まだ開けちゃだめ」
(クラウン、さっさと上がりたい。脚力で距離かせいで、後は浮くわ)
『────レディ。初期加速度に、ご注意を。』
(りょかい!)
グッ…………
キゥゥおぉ────────ん……!!
床を蹴った時に、ブーツから変な金属音が鳴る。
……ひどく響く音だ。
世を忍ぶ義賊様の足音とは思えん。
「えっえっ!」
「う、わっッ!」
「大丈夫だから、まだよ?」
「う、はぃィ……!」
「わ、かった」
ふふ、いい子いい子……。
オオオオオぉぉ────……
(クラウン!)
『────レディ。准反重力機構:呼出。』
きゅいいいいいん……
「な、んの音だ?」
「虫でも飛んでんのよ」
「ひっ」
『────……。』
シュルルルルル……
────キィん。
「──はい、到着。目、開けていいわよ」
「? え──……」
「!うそ──……」
目の前に、
天井に続く、
扉かな。
「は〜〜い、いくわよ〜〜」
「「えええ〜〜!??」」
ちょいキリがいいので、みじかいのだ!
(●´ω`●)










