表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/1216

行きはよいよい帰りはくまい

 バチバチバチ……


 燃えている範囲が、かなり大規模になっている。

 家の1、2棟は入っちゃうわよこれ……。

 ついてから気づいたんだけど、ユータ達の名前を呼んで探すのはまずいよなぁ……。

 近くにバーグベアがいるかもだし……。 


 木の影に隠れながら、そろりそろりと移動する。今は歯車の車輪は使っていない。


 熱っつ。うわ、炎見たら目ぇ痛い。

 これに2人が巻き込まれているってことは考えたくない……。

 流石にこの火の拡がりを見たら、遠くに逃げるかな。

 本当にバーグベアに投げたのかもわからない。

 希望的観測かもしれないけど、魔石だけを落として発火した可能性もある。


 コッ


 何か蹴った。さっきまでは、流れるように森を進んできたのに、足で歩いていたらスグこれだ。ざまぁない。

 何だ、木の破片?


「! これは!」


 木の、剣だ。ユータの勇者の剣。

 バッっと、周りを見る。

 周りからは火の音しか聞こえてこない。

 地面を見る。


「クラウン……まさか、コレ」

『────照合完了。

 ベアー系統魔獣の足跡と断定。』


 会って、しまってるじゃないの。


「クラウン! 距離滑り(スケイルスケーター)!」

『────展開します。』


 もう音を気にしている場合じゃない。

 ギュルルル、と音を立てて、地面を掻く。

 道なりには、大きな足跡が続いている。

 急がないと、取り返しのつかない事になる。

 後ろで、焼かれた木が、倒れる音がした。







 どうしてぼくは、こんなことをしちゃったんだろう。


 いま、すこしへこんだ岩のかげに、アナとかくれてる。

 アナはさっきまで、こえをあげて泣いていたけど、いまはおねがいして、こえをおさえてくれている。

 かおは、ぐしゃぐしゃだ。こえをださないで泣いてほしいとたのんだとき、とても、なさけなかった。


「っぐ、っぐ……」

「…………」


 ふたりで、手をつないでいる。

 夜はまっくらのはずなのに、うしろのほうから、火の光がてらして、くらい空も、すこし赤っぽくみえる。

 おれの……、ぼくの、もってきた火のませきのせいだ。


 ぼくは、なにをしているんだろう。


 だれかのために、がんばりたいと、

 みんなを助ける、力になりたいと、

 そうきめてきたはずなのに。


 やまがもえて、まものをおこらせて、

 アナに、こわいおもいをさせている……。


「アナ、ごめん、ごめん……」


 なさけなくて、また、なみだが出てきた。

 アナはこっちを見ながら泣いていたけど、

 手をにぎりかえして、くびをふった。


 ぼくが、わるいことをしたのに……。


 ログの、いうとおりだった。

 ぼくは、にせもののゆうしゃだ。

 ホンモノのゆうしゃは、まものにはまけない。

 そして、たおすときも、アナをまきこんだりしない。

 木の剣もおとしてしまった。


 ぼくは、ただの子どもだった。

 とてもざんねんだけど、それはみとめなくちゃ。

 じゃないと、アナにこわいおもいをさせてしまう。


 ずん……ずん……


 バーグベアは、ちかくもない、とおくもないところを

 あるいている……。


 ぼくは、にせもののゆうしゃだけど、

 アナだけはまもらなきゃ──。


「アナ、アナ、しずかにきいて」

「んっ、んぅ」

「ここにいたら、たぶん、ぐるっとまわって、もどってくる」

「い、いやぁ……」


 アナにまた、なみだがでる。


「きいて! だから、にげるんだ、すすむんだ」

「で、でも……」

「アナ、ごめんよ、これはぜんぶ、ぼくの、せいだ」

「ユータ……」

「ぼくは、にせもののゆうしゃだ。でも、にせものでも、アナだけはまもらなきゃいけない」

「……」

「だから、かえろう。お母さんらのところへ。いっしょに。いまはまだ、とおくにいる。いま、すすむんだ」

「わかった」


 手をぎゅっとにぎる。

 まちのばしょは、さかみちのしたのほうだ。




 足おとが、いちばん小さくなった。


「いこう!」

「うん!」


 ザッ!


 ふたりで走りだした。

 足おとがザクザクひびいてこわいけど、

 いまとまるわけにはいかない。

 ぜったいにかえるんだ。


 ザッザッザッザッ!



 ……ずん、ずん、ずん!


 ああ、わかる。

 ぼくは、子どもだけどわかる。

 きづかれた。


「ぐおおおおおおおおおおん!」


「ユータ!」

「はしれ!」


 ふたりで、走る。

 うしろで、木のおとがする。


 ベチャッ


「あっ!」

「アナ!」


 どろですべったアナがころんだ。

 手が、はなれる。


「たつんだ!」

「! いたい!」


 アナが足をおさえる。……そんな。


 やまの火の光がさえぎられた。

 ぼくは、ふりかえる。

 いた。



 おとがきこえなくなった。

 ぼくに剣はない。


 でも、にげるわけにはいかない。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 このとき、ぼくはさけんだ。

 こわさもあったけど、それだけじゃなかった。

 アナをまもりたかった。

 ぼくはゆうしゃじゃない。

 さけぶしか、大きなこえをだすしか、なかったんだ。

 だから、せいいっぱい、さけんだ。


 大きなくろいうでが、ふりおろされた。

 ぼくは、目をとじずに、ばかみたいに手をひろげた。









 ─────────

 ─────────

 ─────るるるるるるるるる

 ──ぎゅるるるるるるるるるるる!!!




 ──……ぼくは、

 …ぼくはころされたんじゃないのか?


 がっ、となって、体がよこにとんだ。

 いや、いまもとんでる?


 けしきが、はやい。

 ながれてる。


 アナがいる。

 なみだめで、きょとんとしている。

 かかえられて、いるんだときづく。

 手がみえるんだもの。


「ふはは、」

「ふははは、」

「ふはははははははははははははっ!!!」


 わらっている。女のひとが。

 とてもよくしっているきがする。

 だからほら、金のかみがみえる。

 さいきん、おねえちゃんは、かみがたをかえたんだ────。









「見つけたぞ!!! この、クソガキどもがぁぁぁあああ────!!!!」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ