行きはよいよい帰りはくまい
バチバチバチ……
燃えている範囲が、かなり大規模になっている。
家の1、2棟は入っちゃうわよこれ……。
ついてから気づいたんだけど、ユータ達の名前を呼んで探すのはまずいよなぁ……。
近くにバーグベアがいるかもだし……。
木の影に隠れながら、そろりそろりと移動する。今は歯車の車輪は使っていない。
熱っつ。うわ、炎見たら目ぇ痛い。
これに2人が巻き込まれているってことは考えたくない……。
流石にこの火の拡がりを見たら、遠くに逃げるかな。
本当にバーグベアに投げたのかもわからない。
希望的観測かもしれないけど、魔石だけを落として発火した可能性もある。
コッ
何か蹴った。さっきまでは、流れるように森を進んできたのに、足で歩いていたらスグこれだ。ざまぁない。
何だ、木の破片?
「! これは!」
木の、剣だ。ユータの勇者の剣。
バッっと、周りを見る。
周りからは火の音しか聞こえてこない。
地面を見る。
「クラウン……まさか、コレ」
『────照合完了。
ベアー系統魔獣の足跡と断定。』
会って、しまってるじゃないの。
「クラウン! 距離滑り!」
『────展開します。』
もう音を気にしている場合じゃない。
ギュルルル、と音を立てて、地面を掻く。
道なりには、大きな足跡が続いている。
急がないと、取り返しのつかない事になる。
後ろで、焼かれた木が、倒れる音がした。
どうしてぼくは、こんなことをしちゃったんだろう。
いま、すこしへこんだ岩のかげに、アナとかくれてる。
アナはさっきまで、こえをあげて泣いていたけど、いまはおねがいして、こえをおさえてくれている。
かおは、ぐしゃぐしゃだ。こえをださないで泣いてほしいとたのんだとき、とても、なさけなかった。
「っぐ、っぐ……」
「…………」
ふたりで、手をつないでいる。
夜はまっくらのはずなのに、うしろのほうから、火の光がてらして、くらい空も、すこし赤っぽくみえる。
おれの……、ぼくの、もってきた火のませきのせいだ。
ぼくは、なにをしているんだろう。
だれかのために、がんばりたいと、
みんなを助ける、力になりたいと、
そうきめてきたはずなのに。
やまがもえて、まものをおこらせて、
アナに、こわいおもいをさせている……。
「アナ、ごめん、ごめん……」
なさけなくて、また、なみだが出てきた。
アナはこっちを見ながら泣いていたけど、
手をにぎりかえして、くびをふった。
ぼくが、わるいことをしたのに……。
ログの、いうとおりだった。
ぼくは、にせもののゆうしゃだ。
ホンモノのゆうしゃは、まものにはまけない。
そして、たおすときも、アナをまきこんだりしない。
木の剣もおとしてしまった。
ぼくは、ただの子どもだった。
とてもざんねんだけど、それはみとめなくちゃ。
じゃないと、アナにこわいおもいをさせてしまう。
ずん……ずん……
バーグベアは、ちかくもない、とおくもないところを
あるいている……。
ぼくは、にせもののゆうしゃだけど、
アナだけはまもらなきゃ──。
「アナ、アナ、しずかにきいて」
「んっ、んぅ」
「ここにいたら、たぶん、ぐるっとまわって、もどってくる」
「い、いやぁ……」
アナにまた、なみだがでる。
「きいて! だから、にげるんだ、すすむんだ」
「で、でも……」
「アナ、ごめんよ、これはぜんぶ、ぼくの、せいだ」
「ユータ……」
「ぼくは、にせもののゆうしゃだ。でも、にせものでも、アナだけはまもらなきゃいけない」
「……」
「だから、かえろう。お母さんらのところへ。いっしょに。いまはまだ、とおくにいる。いま、すすむんだ」
「わかった」
手をぎゅっとにぎる。
まちのばしょは、さかみちのしたのほうだ。
足おとが、いちばん小さくなった。
「いこう!」
「うん!」
ザッ!
ふたりで走りだした。
足おとがザクザクひびいてこわいけど、
いまとまるわけにはいかない。
ぜったいにかえるんだ。
ザッザッザッザッ!
……ずん、ずん、ずん!
ああ、わかる。
ぼくは、子どもだけどわかる。
きづかれた。
「ぐおおおおおおおおおおん!」
「ユータ!」
「はしれ!」
ふたりで、走る。
うしろで、木のおとがする。
ベチャッ
「あっ!」
「アナ!」
どろですべったアナがころんだ。
手が、はなれる。
「たつんだ!」
「! いたい!」
アナが足をおさえる。……そんな。
やまの火の光がさえぎられた。
ぼくは、ふりかえる。
いた。
おとがきこえなくなった。
ぼくに剣はない。
でも、にげるわけにはいかない。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
このとき、ぼくはさけんだ。
こわさもあったけど、それだけじゃなかった。
アナをまもりたかった。
ぼくはゆうしゃじゃない。
さけぶしか、大きなこえをだすしか、なかったんだ。
だから、せいいっぱい、さけんだ。
大きなくろいうでが、ふりおろされた。
ぼくは、目をとじずに、ばかみたいに手をひろげた。
─────────
─────────
─────るるるるるるるるる
──ぎゅるるるるるるるるるるる!!!
──……ぼくは、
…ぼくはころされたんじゃないのか?
がっ、となって、体がよこにとんだ。
いや、いまもとんでる?
けしきが、はやい。
ながれてる。
アナがいる。
なみだめで、きょとんとしている。
かかえられて、いるんだときづく。
手がみえるんだもの。
「ふはは、」
「ふははは、」
「ふはははははははははははははっ!!!」
わらっている。女のひとが。
とてもよくしっているきがする。
だからほら、金のかみがみえる。
さいきん、おねえちゃんは、かみがたをかえたんだ────。
「見つけたぞ!!! この、クソガキどもがぁぁぁあああ────!!!!」