ケモケモ☆フィーリング
「シンエル」と言う言葉がある。
その者が持つ、
「風」「輝き」「雰囲気」。
そのような事を表す、私達の言葉だ。
ラクーン族は、身体が小さい代わりに、
それらの「放射」を感じる力が強いとされている。
とても、不確かで、淡く、僅かなものだ。
しかし、自然の中で時にそれらは、
運命を動かす力がある事を、
私達は、本能で知っている。
娯楽の少ない私達の里にも、
彼女の意匠の絵本はある。
私達夫婦は、正直、面食らっていたが、
不思議な「なにか」を感じ取る。
お世辞にもお行儀の良い姿勢とは言えない、
かなり、ふしだらな姿勢で寝ていた彼女が、
突然、苦しそうに、うなされだした。
つい先ほどまでの、
陽気に満ち溢れたソレは消し飛び、
なにか、全てを「戻して」しまうような……
なんなのだろう、この、感じは……。
横にいるポロを見ると、
「僕にもわからない」という意味で、
首を小さく振られる。
ということは、ポロもこの違和感を感じている。
これは、気のせいではないのだ。
「……なんだ、随分とうなされだしたな」
「え、うっわ!」
「へっ、わあっ!」
彼女から発せられる、謎の「シンエル」に気をとられ、
後ろに、大きな人の男が立っていることに気がつかなかった。
「キッティに泣きつかれて来てみれば……ずいぶんと、辛そうなうなされ方だな……」
「あ、えと……」
「あ、あなたは……?」
「ほぅ、ラクーン族とは珍しい。俺はヒゲイド。上から失礼する。ドニオスギルドで、ギルドマスターをしている」
「ギ、ギルドマスター……!」
「あ、あの……私がコヨン、こちらが、夫のポロ、です」
「ああ」
とても大きな人だ……。
私達の3倍はある。
ヒュージの血を引く人だろうか?
だが、あまり怖い印象がない。
大きな、どっしりとしたシンエルを感じる。
「お前達、彼女の客か?」
「え、え?」
「違うのか?」
「い、いえ! そうです! 彼女を訪ねてきました!」
「そ、そうか……ラクーンの者にまで、噂が広まっているか……」
「「?」」
大きな方は、何だか困った表情をする。
噂とは、何のことだろう。
彼女の、この黄金の格好のことだろうか。
「う……ゃ! ゃ、えぉ、ヴぅ、あ……」
「!?」
「……なんだ、このうなされ方は」
「よくない……」
「──なに?」
口から自然に出た言葉は、
集約された意味を持つ。
何気ない一言は、シンエルを感じ、
自身の経験を通した言葉だ。
一族の中では、このような言葉こそが、
本質を射抜く弓であると教わる。
「はやく、起こさなくちゃ……」
「うん」
「……そのようだな」
大きな方……ヒゲイドさんも、同意する。
この方でも、このシンエルは感じ取れるだろう。
なにかが、おかしい。
金の衣に手をかけようとした、
その時────……
「にょきっと!」
「あっ」
「おっ」
「むぅ」
ラビットの魔物が、
クルルカンの仮面に飛び乗った。
先ほどまでの「妙な」シンエルが、霧散する。
……驚いた。この魔物、ただ可愛いだけではない。
なんだろう、この感じは?
このような特別な魔物が、ギルドにいるとは……。
この大きな人は、この魔物の不思議さを、
理解しているのだろうか?
「にょにょにょ、にょきっとなぁ〜〜〜☆☆」
「……おおぅ……」
ラビットの魔物が、
まんまるしっぽをフリフリして、
クルルカンの少女を起こす。
先ほどのまでの違和感は、
既に、何も感じられない。
ゆっくりと、本来のモノに戻ってきている。
この少女は、どうやらギルドマスターと、
とても仲が良いようだ。
わざわざ雰囲気など感じなくても、
ズケズケと、思ったことを言い合える、
確かな信頼を見てとれる。
ヒゲイドさん、と言ったか。
ギルドマスターと知り合いである彼女は、
その……格好はアレだが、
一定の信用があるという意味では、
彼女の人柄に対して、よい印象を受けた。
ヒゲイドさんが、私達を客だと紹介し、
奥の、とても大きな扉に消えていく。
……本当に大きな扉だ。
さて……。
この人が、本当に、
私達を導いてくれる運命なのだろうか。
扉から目を離し、横のポロを見ると、
また、先ほどのように、固まっていた。
ポロの見ている方を向くと、
黄金の少女と、目が合った。
──私も、固まってしまう。
瞳が、見たことのない、金色だった。
濃い、太陽のような。
夕焼けを、閉じ込めたような。
深い、深い、金色だ。
まだ、少し眠気が残っているのか、
目は、完全には見開かれてはいない。
私達一族で、
瞳の力から感じるシンエルは、
「寝起き」が一番よく、わかるとされる。
素の自分がさらけだされ、
心のヨロイを着る前の、
本来の姿が垣間見えるからだ。
目の前の少女の格好を見て、
おそらく、たくさんの人が妙だと思うはずだ。
でも今、それらが掻き消されていく。
真っ直ぐに、彼女の瞳を見る。
そのシンエルが、納得させる。
この子が纏っている金の中で、一番強烈なのは、
────瞳だ。
綺麗で、強い、心が宿る瞳。
不思議だ……違和感が、ない。
この、奇天烈な衣装は、彼女に相応しい。
そうとまで、思った。
彼女は、ソファの上から、
眠そうなつり目で、こちらを見ている。
まるで、大きな雌のチイタハの姫だ。
私達は、食べられてしまうんじゃないか?
そんな風に思うほど、綺麗だった。
「あなたたち……」
「ッ!」
「は、はィッ!」
完全に、彼女のシンエルにのまれていたので、
私達は、驚く。
「……お父さんと、お母さんは?」
「……へ?」
「?? ……あの?」
「もしかして、親御さんへの手紙?」
「「手紙?」」
な、何を言っているのだろう。
私達は、首を傾げ、
それを真似するように、
彼女も首を傾げた。
シャラルと、無い音を出し、
二つ結の金が、流れる。
「? 私に手紙を預けにきたんじゃないの?」
「い、いえ! そうではなくて……」
わけが、わからない。
手紙って、なんの事だろうか?
「な、なぜ手紙なんですか?」
「いや、だって────」
金色の少女が、自分を指さして言う────。
「──私、"郵送配達職"よ?」
「「──はいぃ?」」
ふたつ、わかった事がある。
ひとつ。
彼女は、ラクーン族の成人が、
小さい背丈のままだという事を、知らないらしい。
ふたつ。
私達はなぜか、郵送配達職を、
ヒキハさんに、紹介されてしまったという事だ。
「いや……はいぃ? ってアンタらね……」
え──っと……どうしよう。
(*゜∀゜*)キッティちゃんも前に、あんま違和感ないって言ってたね。










