目覚ましにょきっと!
届けなきゃ。
手紙を、届けなきゃ。
気づくと、
真っ白で、
真っ黒な、ところにいた。
フワフワする。
ここは、どこだろう?
「とどけなきゃ……」
何を?
頭が、ぼ〜〜っとする。
いや、おちつけ。
私は、郵送配達職だ。
届けるのは、"手紙"に決まってる。
手紙、
手紙は、どこ?
知らない間に、持っていた。
なぁんだ、たくさん持っているじゃない。
でも、なんで手で持ってるんだ?
まぁいいや。
いつも通りに配ればいい。
気づくと、たくさんの人が、
周りを歩いている。
わ、色んな人、色んな向き。
劇場館前の、大広場みたいだわ。
へんだな。
人の輪郭しか、見えない?
影?
まぁいいや。
配ろう。
配ろう。
私には、それができるのだから。
手紙です。どうぞ。
「いらないよ」
手紙です。あなたへですよ。
「いらないわ」
手紙だよ。君にだよ?
「やだ。いらない」
……どうして。
「だって、みたくないもの」
……なぜ? これは、君への手紙だよ?
「おねぇちゃん、それ、みたの?」
見る? い、いや、人の手紙を、見たりしないよ?
「……みていいよ、ぜんぶ」
……え?
人が、いなくなった。
あんなにいたのに。
残ったのは、
真っ白で、真っ黒なところにある、
私と、いっぱいの手紙。
「みて、いいの……?」
なぜか、手紙を、ひとつ、あける。
封筒から、てがみを引っ張る。
あけた。
「しね」
つぎ。
「きえろ」
つぎ。
「ウザい」
つぎ。
「さよなら」
つぎ。
「君と会わなければ良かった」
つぎ。
「ムダだよ」
つぎ。
「もう、やめてくれませんか?」
つぎ。
つぎ。
つぎ。
つぎ。
つぎ。
つぎ。
……。
泣いている。
私、たぶん、泣いている。
なによ……何よコレ!!
みんな、みんな悪口や、ひどい事ばっかり!
なんで、なんでこんな物を届けるの!?
わ、わたしは、これを届けようとしていたの?
そ、そんな……そんなのって、
な、んの、イミが、あるの……?
これを、届ける事に、意味が、ある?
私の、していることに、イミが……あるの?
足元にたまった、すべて開けられた手紙の海。
呆然として、何も、考えられない。
あ、れ……私、ハダカ?
からだの、輪郭しか、見えない。
あれ、なんだっけ?
私、なにをしようと……。
『────アンティ。』
「──!」
この声は……。
『────アンティ。』
「……なぁんだ、クラウン、いたの」
『────アンティ、お手紙ですよ。』
「! ……私に?」
『────ええ、あなたに。』
「! ……そう」
ちょっと、こわい。
さっきみたいな手紙だったら、どうしよう。
いやな、てがみだったら、どうしよう。
小さな、白い手紙だ。
おそるおそる、封を切る。
2つ折りの紙を、ひっぱりだす。
…………ごくり。
手紙を開く指が、震えている。
────ペラッ──……
「 にょきっと! 」
…………。
んん……?
………にょ、にょきっと?
「にょにょにょ、にょきっとなぁ〜〜〜☆☆」
「……おおぅ……」
目を覚ますと、うさ丸が顔に抱きついていた。
至近距離すぎる。至近距離すぎるってば。
この子、目ん玉ちょっとピンク色なのね。
「やれやれ、やっとお目覚めか」
「あ……ギルマス。お、おはようさま」
「ばかもの、もう夜だ。……大丈夫か?」
「え、なにが?」
「……途中、随分うなされていた」
「え! そ、そうなの……?」
へ、変な夢でも、見たのかな?
「平気ならいい。夢も、忘れてしまったようだ」
「あ、あ……そうね」
「あと」
「?」
「ロビーのソファで寝るんじゃない……」
「あ! いや、す、すみませんでした」
「股、かっぴらいて寝てたぞ?」
「ぐげッ!?」
ま、また、って!?
ばっ! っと、思わず足をとじ、前をかばう!
ま、ま、まじかぁ……!?
ここ、ギルドのロビー!
めちゃめちゃ人に見られたんじゃぁ……!?
うわああああああああああ!!
ぎゃああああああああああ!!
「まぁ、股のことはいい」
「まっ! また、って言うな! レディに失礼でしょ!!」
「……あれだけ大開放しておいて……」
う、ううぇぇぇえええんん!!
お嫁に行けねぇぇぇえええぇ!!!
「おい、きけ。アンティ、お前に客だ」
「ううう、ううう……き、客?」
「ああ。ほれ」
「……?」
「「…………」」
ギルマスの横に、2人の獣人の子供がいた。