⚙⚙⚙ 絵本の英雄 ⚙⚙⚙ さーしーえー
「おや、ラクーン族の方は、珍しい。目的は?」
「あ……か、観光です……」
「ぼ、僕もだ……」
「ふむ、冒険者ではないのだな……よろしい、あそこを通りなさい」
「あ、ありがとうございます」
「感謝する……」
「ふふ、君たち、夫婦かい? さては、新婚旅行だな?」
「は、はは……」
「…………」
「まぁ何にせよ、"ドニオス"にようこそ! 歓迎します!」
人が行きかう中で、私達のように、
ケモノ耳と、尻尾を持つものは、珍しい。
しかし、人々が淡々と、
通り過ぎて行くところを見ると、
私達に対して、排他的な意識や差別はないようだ。
小さな子供にしか見えない私達にも、
特別気にすることなく、この街は平和だとわかる。
「……なぁコヨン。ドニオスに来てしまったが、本当に、あの羊殿の言うことを、その、そう捉えているのか?」
「……うん。あれ、ぜったいおかしいよ……」
先日の、ヒキハさんの言葉を、思い出す。
──"ついでにギルドにでも行って、助けを求めてごらんなさい! もしかしたら、"絵本の英雄"が現れて、無償で助けてくれるやもしれませんよっ!!"
「ポロも、前にヒキハさんと喋ってるから、わかるでしょ? ヒキハさんは、優しい人だったよ! あんな風に怒鳴ったりするなんて、すごい変だ……」
「う、うん。しかしだな、もしかしたら、アレが素なのかもしれないぞ? 前は、大人しい羊の振りをして……」
「もぅッ! ポロったら! 女性に失礼よッ!?」
「い、いやだって、コヨンをバカにしてたから……」
「……確かに、そうも捉えられたね。でもね、考えてみて? あんなイヤミを言われるほど、私達、前の"なかよしパーティ"で仲、悪かった?」
「……いいや、まったく」
「じゃ、わざとだ」
「コヨン! そんな無茶苦茶な!」
「いいえ、全ての要素を排除したら、あのヒキハさんの言葉は、やっぱり異質だわ」
「……きみが、里の中で、一番の才女だとは思うけど……本当に、本当なのかい? バカにされただけじゃ?」
「ポロ、無茶苦茶なお願いをしたのは、私達のほうだよ……あんな離れた所に、王都から人を出して欲しいなんて、確かに、身の程知らずだと思う」
「コヨン……」
「だから、尚更ヒキハさんの言葉は、何か、ヒントに思えるの! あの人は優しいって、わかるよ」
「し、しかし、ドニオスにきて、"絵本の英雄"ときたもんだ……」
「う、うん、それはその……何か、"謎かけ"なんだと思う」
「謎かけ?」
「うん。よくわからないけど、あの人達の立場上、そのまま言う訳にはいかなかったのよ。だから、怒鳴ったフリをして、何かを教えてくれようとしたんだと思う」
「ふ……む」
ポロが、腕を組んで、考えてくれている。
この人は、ちょっと怒りっぽい所があるが、
その怒る理由は、
ほとんど他の人の為なので、好きだ。
この人と無事に里で暮らすために、
ここで、あきらめちゃいけない。
ぜったいに、ヒキハさんは、
私達を助ける"何か"を指し示してくれたはず。
「……コヨン。そう言えば、あの羊殿は、"ギルドにでも行って"と言ってたじゃないか。まさか、ギルドに"英雄"がいるのでは?」
「う……それは私も考えたけど、もし、英雄級の冒険者さんがいたら、依頼料をふんだくられると思う。ここ数日の旅費で、お金、ない……」
「確かに、な……ほとんど食べ物と宿で消えてしまった。あまり滞在できないぞ」
「今日、できる限り、手がかりを探してみましょう。もしかしたら、明日には帰らないと、まずいかもしれない」
「わかった。別行動にするか?」
「ううん、この小さな体で、ひとりはこわい。ポロ、そばにいて」
「ああ」
私達ふたりは、ドニオスを歩きまわり、
手がかりを探しまわった。
成果の程は、惨敗だった。
街の住人に、色々な噂をきいたら、
快く教えてくれたのはいいが、
腕の立つ冒険者で、無償で施しをする者など、
いるはずがない。
「……だめだ、やはり、お金の話がついてまわる」
「当然と言えば当然ね……どういうイミなんだろう。"絵本の英雄"って……」
「! おいコヨン! きみ、腰につけていた巾着はどうした!」
「えっ!?」
慌てて、自分の右腰を見る。
……そんな。
……ない。
ない!!
「ない! ない!! なんで!?」
「……慣れない人混みで、どこかで落としたんだ」
「そ、そんな……!」
あまりの事に、肩がガクガクと震える。
全財産、なくなった。
旅先で、全てのお金をおとした。
自分を殺したくなる。
「ポロ、謝る言葉が、見つからない」
「気にするな、と言いたいが、まずいよな……」
この人は、反省している者に、
それ以上、決して怒らない。
短気なくせに、素敵な旦那さまだ。
涙が出るのを、ガマンできない。
「どぉほうしょおぉおお〜〜!!!」
「お、おちつけって……泣いたって、どうしようもないよ」
「だ、だって〜〜!!」
「やれやれ、きみは頭がきれるが、泣き出すと、ただの女の子だな。とにかく、ギルドへ行ってみないか?」
「ギ、ギルドに? でも、冒険者なんて雇えないよ……?」
「ちがうちがう。巾着を落とした事を、伝えておくんだよ。多分、返ってこないとは思うけど、可能性を、あきらめちゃダメだろ?」
「ポロ……」
「いこう、コヨン。白い大きな塔がある場所にギルドがあると、誰かに教えてもらったろ?」
「うん……」
もう、今日は考えるのに疲れて、
ポロの優しさに従うことにする。
街の中央くらいだろうか。
大きな白い塔が、次第に大きくなっていく。
「すごい……」
「ああ。大きいな……」
塔のふもとに、ギルドがあるなんて、
不思議な感じがした。
「……中に入ろう。もしかしたら、今日の寝床くらいは、借りれるかもしれない」
「……ありがとう、ポロ」
「ふっ、よせよ」
ギルドの中に入る。
綺麗な場所だ。
天井に、まあるい、
大きな天窓があいていて、
さっきの白い塔が、きれいに見えた。
「でっかい塔だなぁ……」
「ええと、受付の人は……」
「ちょっとアンティさん!!? な、な、なんて格好で寝てんですかッ!? 脚! 脚とじてっ! ちょ、聞いてますか!? お〜〜い!?」
「にょきっとなぁ〜〜……」
急に、にぎやかな声が聞こえる。
……にょ、にょきっと?
「な、なんだ……? あれ、ラビットじゃないか?」
「あ、あの人……ギルドの受付の人みたいだわ?」
ギルドの制服を着た、可愛らしい女の人が、
何やら叫んでいる。
丸々とふとった、ラビットの魔物を抱えている。
……何あれ可愛らしい。
ポロが、受付嬢らしき人に、近づいていく。
「な、なぁ、あんた、受付の……」
「?」
ポロが、止まった。
え……何?
あれ……?
「ポロ? ポロ?」
すぐ側にいるポロに、しゃべりかける。
な、なんだ? 動かない?
"時間が止まる"って言う表現は、
まさに、こんな感じかも。
驚いた顔で、固まっている。
「アンティさん!? もうッ!! 今回の受領書、ここに置いておきますからねッ!?」
「にょやにょや〜〜☆」
「あっ……」
う、受付嬢さんが、行ってしまわれた……。
ポロはというと、まだ、何やら惚けている。
「ちょ、ちょっとポロ、何してんのよ、受付の人、行っちゃったわよ?」
「…………」
「ぅえ? ポロ?」
ど、どうしたって言うの……?
一箇所を見て、全然動かないじゃないの……。
「ポロ! ポロ!?」
「……いた」
「へ?」
あ、しゃべった。
……"いた"?
「"いた"って、何が?」
「……こ、これ」
「え?」
何気なく、ポロが指さした方を見た。
…………。
……………………。
………………………………。
「「………………」」
…………ヒキハさん、が。
ヒキハさんが、言っていたのは、
"謎かけ"なんかじゃ、なかった。
「くっか──────……」
────まんまだ。
絵本の英雄の、代表みたいな人が、
ギルドのソファで、寝ていた。
「「くっ、クルルカンだ……」」
なんか、Twitterで拡散する動きがあるとかないとか。
(*´﹃`*)苦手意識があるのでやらんが、ありがと!!
ちょこちょこオススメしてくれて嬉しす!!