〇〇作ってみた さーしーえー
「うっ、うっ、う」
「……どうされたというのだ、姫よ」
「うううっう〜〜」
アンティ・キティラ、15歳。
変態の店で、おやま座りをしています。
「うぴゃあああああ……!」
「乙女心が、くらっしゃぁぁぁぁぁあ!!!」
おい、変態……勝手に壊すんじゃねぇ……。
くそぅ、本当はこのヨロイの材質について、一言も百言も文句言ってやろうと思ってたのにぃ……!!
今日は店の入口の扉さえ蹴り破っていないわ!?
何たる失態なの……。
「ねぇ、アブノさん!! もっとなんか目立たない装備ないの!? すっごい隠れられて、めっちゃ隠れられる装備!! 全部隠すやつ!! あ、着ぐるみ!! 着ぐるみとか!!」
『────心拍上昇中。落ち着いてくださいアンティ。それが実現した場合、あなたは現発言を、生命停止まで後悔すると予測。』
「着ぐるみはありますな!! 姫よ、うさちゃんと、ねこちゃんと、ネコミミと、どれがよろしいか?」
『────脅威判定です。』
「──ハッ!? う、うわああああああ───!!!!」
ドゴォォォオオオオン……!!
店の内側から、扉を、蹴破っときました。
……ドラゴン着せといて、次はネコミミだぁ?
私、何目指すねん……。
トンテンカン……!
トンテンカン……!
マール服飾店に、
目立ちにくい装備を買いにきたが、
ダメだ。ここ、目立つのしかない。
もえもえキュン、な装備ばっかだ。
……アブノ店長は、今日はなんか、
大工仕事? みたいなことしてる。
なんか作ってるな……なんだアレ。
ここ、服飾店でしょう……?
ていうかこの床に散らばってる素材なに。
……でっかい、黒い、"骨"?
──店の壁際で膝を抱えて座りながら、考える。
昨日、全てのプレミオムズに、
"プレミオムズに配達職参加のお知らせ"
が、届いた、らしい。
ありえないわ……。
バレたら国家犯罪者と疑われるような、
ぶっとんだ、キラキラランクなのよ私……。
通知で、ランクはバレないらしいけど、
幾分か、興味を持たれたことは間違いない。
水晶球を持ってる人と、プレミオムズの誰かが、
親密な関係だったら、即、バレそうなもんだわ……。
「"接触"をせずに、
金球のままにしとけば良かったじゃないの!」
と、ヒゲイドさんに食ってかかったら、
「それこそ、何が起こるかわからんのだ……」
と、冷や汗を流しながら、言われた。
昔、プレミオムアーツを拒否した冒険者が、
鬱になったり、行方不明になったり、
爆発したりしたそうだ……。
"爆発ってなによ……"と、モチロン思ったが、
ヒゲイドさんが、あまりにも真顔で言うので、
どうやら、その説は、信じられているらしい。
……顕現化した球体状態のプレミオムアーツを、
放置する事は……とってもヤバイ事のようだ。
ていうかホントに爆発するなら、
私、首もってかれるかんね……?
「"ある程度上のランクから勝手に選ばれる"なんて、迷惑な話だわ……」
私のランク間違いが、なぜ発覚したのか。
もう、一昨日の話になる。
ヒゲイドさんが執務室で水晶球を見ていた時、
いきなり、あの金の球体が"顕現化"したそうだ。
ヒゲイドさんは、最初、
それがなにか、分からなかったそうだ。
しかし、その球体の紋章を、古い書物で調べると、
"手紙"の紋章、だという事がわかった。
つまり、配達職を表す紋章だ。
その時に、配達職のプレミオムアーツだと気づいたそうだ。
プレミオムズは、上位ランクから選出されるはず。
ヒゲイドさんは、水晶球でランクG索引を見る。
誰も引っかからない。
キッティに確認したら、
「え、あの金色のカードですよね?」
……と言われ、まさかと思ったら、
ドンピシャだったそうだ。
今は、"劇場幕"のマフラーで、
隠している、金の首輪。
あんまり、人に見せたくは無いわね……。
あああ、なんでこんな、消去法みたいなので、
大クラス代表にならんないかんのか……!
配達職、私だけだっつーの!
「ハァ……」
『────幸せが逃げますよ、アンティ。』
「……あんたも随分、柔らかくなったわね、クラウン……」
『────認。お陰様です。』
はぁ……でも、こんな時ぐらい、
ため息させて下さいな……。
トンテンカン……!
トンテンカン……ブチュ!
「……ねぇアブノさん、何、作ってるの?」
今、"ブチュ"って言ったわよ……。
な、何あれ、スライム?
「おぉ……よくぞ聞いてくれた、姫よ……!!」
あ、めんどくせぇパターンだ……。
「これはッ!! "乙女騎士エルミタージュ"にでてくる、"英雄の馬車"である!!」
……あんた、服屋だろ……?
「……"乙女騎士エルミタージュ"って、なに……」
「なっ!? 姫よ、知らぬのかッ!?」
「知らない事が誇らしい」
「なんとっ!?」
アブノさんが、ヨロヨロとしたかと思うと、
急にお店の奥に引っ込み、
何やら本を山積みにして持ってくる。
ドンッ!!
すごい音して床に置いた。
「これであるッ!! "乙女騎士エルミタージュ"!! 全十巻!! つい最近、完結したのであるッ!!」
「……絵物語ですかぃ……」
「素晴らしいッ、素晴らしいお話だったのであるッ!! いま我は、エルミタージュ完結記念に、作中に登場する、"英雄の馬車"を作っている所なのであるッ!!」
この変態、見境ねぇな……
なんで服屋の変態が、
物語の中の馬車を作んのよ……
「相変わらず、頭湧いてんわねぇ……」
「姫よッ!! 何やら落ち込んでいるご様子!! 姫も、"乙女騎士エルミタージュ"を読んでッ、その美しさと魂に、震えるのであるッッ!!」
「はぁ……アブノさん、いっつもイキイキしてて、羨ましいわぁ……」
「うおおおおお!!! ぜっ、たい!! 作り上げてやるぞッ!! エルミタージュさまぁぁああああ!!!」
……やれやれ。
うーん、今日はもうお昼すぎてるし、
このまま帰るのも勿体ない時間だなぁ……。
私は"乙女騎士エルミタージュ"の1巻を手に取り、
ぺらりと、ページをめくり始めた。
〜〜〜1ジカ後〜〜〜
「ぁあんたッ!! ナメてんのッ!? "エルミタージュ様"の馬車が、こんな真っ黒なワケないでしょうがああああ!!」
「ぐ、ぐおおおお!! し、しかし姫ッ!! 今、我は金欠でッ! 魔物の素材は、これしか余ってなかったのであるううううう!!!」
「ふざけんじゃないわよ!! いっつもアホみたいなキワモノ装備作ってるから、そうなんのよ!! 何、このでっかい黒いの!? アゴ!? アゴか!?」
「なっ、"なんかの下顎"だと、記憶している……」
「なんかって……」
こいつマジか……
扱ってる素材の情報くらい、
把握しておきなさいよ……
だからドラゴンのヨロイなんかできんのよ……。
「……大体、エルミタージュ様の馬車、こんな真っ黒じゃないでしょ!! 白!! 新しいシーツのような、白!!」
「そ、そこは抜かりないッ!! 見よ! この大量の塗料をッ!!」
「……あと、この下顎の"歯"……ギザギザすぎんでしょ……」
「けっ、けずるッ!! 頑張って削るのであるッ!!」
「……あとさ、"英雄の馬車"って、車輪4つだけど、ここに2つしかなくない?」
「う、うう……"貴重な車輪のスペアを変態に譲れない"と、業者が……」
「…………」
……交渉の時ぐらい、服、きろよ。
思わず、納得したわ。
てか、それでも2つも車輪を売ってくれた業者……
たぶん、どんな神様よりも、慈悲深いわ……。
その後、何故か、
エルミタージュ様の馬車作りに、つきあった。
「ここ、どうやって、くっつけるの?」
「ふははは!! 我の開発した"ブレンドスライム"に、くっつけられないモノはない!!」
「うそだぁ……うわっ! きぃもちわるぅッ!」
「け、削れぬ!? 漆黒のキバが、削れぬだとぅッッ!!?」
「あ、アブノさん、さっき塗った白い塗料、ことごとく弾かれてるわよ。ホラ全部、床に流れてる」
「ぐぅおあああああ!!?」
「……ねぇ、この素材……間違って、くっついちゃったんだけど、どうやってとるの?」
「……どうやって、とるのであろう……」
「おい…………」
…………。
………………。
……………………………。
「…………」
「…………」
……ゼッタイ、なんか、違う。
「……どっか、捨ててきてあげよっか?」
「ぐぅぅうぅうお願い致しまするぅぅううう」
うん、
お店の邪魔だもんね。
"乙女騎士エルミタージュ"は、
全巻、借りていきました。
……さぁて、明日から、
コソコソ手紙でも、配るか!